マネジメント

2018年9月6日、北海道を震度7の地震が襲った。7月には西日本地域を豪雨が襲い甚大な被害をもたらすなど、日本中で事業所や工場が被災するリスクを抱えている。しかもリスクは自然災害だけではない。不祥事や情報漏えいといったものもある。では、あなたの会社は企業として何かリスク対策を講じているだろうか。トラブルが起きない人生がないように、必ず、その日はやってくる。今こそ、再点検すべき時ではないだろうか。

 

企業の危機管理意識の相違からBCPの取り組みも二極化

 

 危機管理において、BCP(事業継続計画)が注目されるようになったのは、2001年9月11日の米ニューヨークで起こった同時多発テロだといわれる。

 2機の飛行機が突っ込んだ世界貿易センターの周辺の多くの金融機関が被害を受けた。それ以前にも金融機関にはバックアップサイトという概念があり、マンハッタンの対岸にサイトを用意していた。それが初めて使われて機能したのが、この9.11だった。

 それまで金融機関の危機管理は災害対応、災害復旧という概念で、コンピューターのデータのバックアップを取っておくことなどが主流だったが、9.11以降、メーンのオフィスが使えなくなった際に業務を継続するための計画書を策定し、いざという時に中断することなく業務を継続する準備を進めるようになった。

 そして世界的にもBCPの重要性が認識され、広まっていった。地震大国である日本においても、04年の中越地震で三洋電機の工場が被災し、最終的に事業撤退に至ったこともあり、徐々にBCPの取り組みが始まっていった。

 日本でBCPの重要性が特に認識されるようになったのは、09年の新型インフルエンザの発生だった。自らが感染するケースや周囲の蔓延により外出が不可能となり、社員が出社できない事態を想定した事業継続の方法が問われた。また、11年の東日本大震災では、被災地に甚大な損害をもたらしただけでなく、首都圏においても計画停電などで業務が止まるなどの影響を被った。このため、BCPの必要性が強く認識され、真剣に取り組む企業が増えてきた。

 ただし、企業に対して危機管理のコンサルタントや訓練を行っているシーマ・ラボ・ジャパン代表の上田悦久氏によると、

 「3.11の頃に比べると、現在はBCPの取り組みは下火になりつつある」という。

 BCPそのものは利益を生み出すものではないため、事前に危機を対策する資金は無駄だと思われており、実際に被害に遭わなければ必要性が理解されない。何か災害や事件が起こるとBCPの機運が盛り上がるが、その後は時間がたつと下火になっていくことが繰り返されている。

 今年は異常気象で被災をした企業も多いと思われるが、過去の災害で実際に被害に遭った企業は真剣に取り組み、危機管理体制を強化している一方、被災の経験がない企業はいまだに必要性を感じていないところも多い。「BCPについても真剣にやり続ける企業とやらない企業との二極化が起こっている」(上田氏)という。

 また、BCPの取り組みには、トップおよび組織全体の意識が関係してくる。総じて欧米系企業は日本企業に比べて、危機管理意識が強い。

 例えば、ある外資系企業の日本法人では、地震が発生した際に危機管理担当者は、被害の有無にかかわらず、数分後に必ず代表に電話報告を入れる。そしてたとえ夜中だろうが代表も必ずその電話を受けるという。また、逐一報告することが危機管理担当者の重要な役割となっている。

 しかし日本企業で被害が出ていない場合に危機管理担当者が社長に直接連絡したら、たいていの場合は担当者がとがめられるだろう。現場の担当者にそれほどの役割と権限が与えられていないのが実状である。それだけ組織全体の危機管理意識に違いがある。

 

危機管理は結果事象に基づくBCP策定が重要に

 

 実際にBCPを運用する上での日本の問題としては、まず計画そのものの不備がある。

 「災害復興法学」を提唱している銀座パートナーズ法律事務所代表弁護士の岡本正氏は、

 「トップの不在を想定していないマニュアルがある」と指摘する。多くの企業で危機管理の対策本部の計画は、まず本部長として社長がいて、本部長補佐に副社長や取締役がいて対応する流れになっている。つまり災害や事件の発生時に社長がいないことは想定していない。3.11の時も被災地の企業では、地震発生時に社長が現場にいなかったため、対応が遅れた事例は多いという。それだけに計画はトップが不在の場合の指揮命令系統などをあらかじめ決めておかなければならない。

 また、計画において、日本企業のBCPは地震発生時、水害発生時、感染病発生時など個々の原因に応じて作成する場合がある。あらゆる可能性を想定していくと、膨大な数のBCP計画が積み上がり、訓練もおぼつかない。このため、上田氏は

 「危機管理では災害の結果起こる事象について、計画を練るべきだ」という。

 事業が中断する理由としては例えば、社員が出社できなくなる場合、オフィスが使えなくなる場合が考えられる。社員が出社できない理由には、自然災害で交通機関が止まるケースもあれば、感染症に罹患するケースもあり、その理由は異なるが、出社できないという結果は同じである。その結果に対してのみBCPの計画を作成しておけば、あらゆる事態に対応できる。

 ある会社では3.11で東京が停電して社員が出社できなくなった時に、09年の感染症の時に作成したマニュアルが役に立ったという。社員が出社できないという結果の事象は同じだったからだ。計画そのものをもっとシンプルに考える必要がある。

 

今後のBCPはリーガルリスクも考慮する必要性

 

 さらに弁護士の岡本氏によると、最近は危機管理において、リーガルリスク(安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任)を問う事例も出てきているという。

 1995年の阪神淡路大震災は地震発生が早朝だったため、多くの企業が営業時間外だった。しかし、東日本大震災では14時46分に地震が発生し、その時の企業の行動が従業員や施設利用者の生死を分けた事例が数多くあった。このため、犠牲者の遺族から企業の責任を問う訴訟が起こされている。現在までに多くの判例が積み上がってきており、裁判所の判断の方向性も固まりつつある。

 例えば、宮城県女川町の七十七銀行女川支店では、社屋屋上に避難した行員らが犠牲になっているが、これまでに実施してきた避難訓練措置が適切であったことや、災害発生後にできる限りの情報収集を尽くしたことが評価され、最終的に企業側に安全配慮義務違反はないと判断された。

 一方、宮城県石巻市の大川小学校では、児童74人と教職員10人が犠牲になったことで、学校側の責任が問われた。この訴訟で裁判所は、第一審判決の段階では、避難誘導の判断の遅れや避難場所の選択などで対応に不備があったとし、第二審判決の段階では、避難場所を明確にした危機管理対応マニュアルが作成されていなかったこと自体に不備があるとし、いずれも学校側の過失があると結論づけた。

 「事前準備として危機管理マニュアルを作成し日常的に訓練を行っていくことは大前提で、その上で、災害発生時の情報収集や判断が合理的だったかどうかが問われている」と岡本氏は語る。

 災害時に合理的な判断ができなければ企業側が訴訟で負ける可能性があることになる。今後のBCPは、リーガルリスクも考慮したものでなければならなくなっている。

 

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