政治・経済

「日本の携帯料金は4割、値下げの余地がある」――この発言をしたのが政界の実力者・菅官房長官だっただけに、携帯電話各社はその対応に追われることになった。果たして日本の携帯料金は本当に世界の中で高いのか。批判に対して携帯電話各社はどのような対策を打っているのか。文=ジャーナリスト/石川 温

 

菅長官の「日本の携帯料金は高すぎる」発言の影響

 

 

 菅義偉官房長官の「携帯電話料金は4割、値下げの余地がある」という発言が波紋を広げている。発言の発端は8月21日に札幌で行われた同氏の講演だ。フランスやイギリスに比べて日本の携帯電話料金は高く、海外に比べれば値下げの余地は十分にあるという論法だ。

 10月2日には第4次安倍改造内閣が発足し、総務大臣が野田聖子氏から石田真敏氏にバトンタッチされたが、石田総務相は「携帯料金の問題は、菅官房長官が提起をされており、総務省でも検討会を発足させた。そこでの検討を踏まえ、対応していきたい」と語り、引き続き携帯電話料金の引き下げに意欲を示した。

 政府が携帯電話料金の値下げに介入するのは、これが2回目となる。

 前回、政府による携帯電話料金引き下げへの介入があったのは2015年。安倍首相が経済財政諮問会議で「家計に占める通信料金の割合が高すぎる」として、高市早苗総務相(当時)に料金値下げを指示した。

 15年といえば、ちょうど自民党総裁選の時期と重なる。この時は対抗馬が出なくて総裁選はなくなったが、今年も総裁選を前にして菅官房長官の発言があった。

 携帯電話会社関係者は「総裁選もそうだし、来年には消費増税、参院選も控えている。通信料金の値下げをアピールすることで国民の人気取りをしたいのではないか。携帯電話料金が選挙の道具に利用されているのに納得がいかない」と恨み節を口にする。

 実際、菅官房長官の発言で、携帯電話会社の株価が打撃を受けている。

 特にKDDIは、8月20日に3116円だった株価が、発言が報道されるや翌21日には2953円まで下降。その後、持ち直しても、発言が繰り返されればまた下落という状況に陥っている。

 KDDIの高橋誠社長は「菅官房長官は世の要望をおっしゃったのだと思う。真摯に受け止め、やらなければならない責務を一生懸命果たしていきたい」とコメント。直接、値下げに応じるとは語っていないが、何らかの対応をする方向性を示した。

 

日本の携帯料金は本当に高いのか

 

 では実際のところ、日本の携帯電話料金は高いのだろうか。

 総務省が、18年3月に調べた国内外の料金調査データによれば、日本、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス、韓国の主要6カ国で比較したところ、確かに月間20GBのデータ通信量において、日本は世界で最も高いという料金設定であった。しかし、2GB、5GBのデータ容量では、6カ国の中でも平均的な位置付けとなっている。

 つまり、携帯電話会社やプランは、世界でも千差万別のため、どこかを抜き出して比較したとしても、高いものもあれば安いものもあるわけで、あまり意味がなかったりもする。

 菅官房長官は、OECDでの各国の通信料金プランでの比較を持ち出しているのだが、こちらは国によって料金プランが異なり、同一条件での比較ができない。これを引用して「日本は高い」と断言するにはやや説得力の欠けるデータにすぎない。

 

総務省に日本の携帯料金が高いという認識はなし

 

 実際のところ、総務省では日本の通信料金をどう見ているのか。

 菅官房長官が発言した当時、総務省政務官であった小林史明衆議院議員は「日本は通信エリアがしっかり形成しており、速度も安定している。このネットワーク品質を維持しつつ、世界でも中位くらいの料金設定。実はバランスのいい状態なのではないか」と自らの感覚を語る。

 「この品質の割にものすごく高いという声が噴出しているわけではない」とも指摘した。

 総務省の現場レベルでは少なくとも、日本が世界に比べて突出的に高いという認識はないようだ。

 ただし、世界と比較しても意味がないとはいうものの、実際のところ、家計に占める割合が上がっているのは事実だろう。スマホ代に1人8千円支払っていたとすれば、家族4人で月に3万2千円。年間に換算すれば38万4千円もの出費となる。

 政府や総務省からの相次ぐプレッシャーの中、携帯電話各社としても4割は無理としても何らかの対策が必要となってくる。

 

携帯「2年しばり」の見直しと「分離プラン」

 

 そんな中、ここ最近、携帯電話各社が注力しているのが「分離プラン」と呼ばれる料金施策だ。

 これまで、携帯電話会社は、端末代金を分割払いにしつつ、毎月、割引を適用するという手法を獲ってきた。こうすることで、高額なiPhoneを手軽に購入できるようにしたというわけだ。

 もちろん、単なる割引では携帯電話会社が損をしてしまう。端末代金を割り引く一方で、月々の通信料金は高めに設定する。こうすることで、ユーザーは端末を買いやすくなるが、すべてのユーザーが高めの通信料金を支払う羽目になっている。

 この販売方法は、スマホを2年ごと、買い換えるような人は得するようになっている。毎月、端末の割引が適用されるため、月々の支払額が抑えられるからだ。

 一方で、端末を頻繁に買い換えない人からすると、端末の割引が適用されないため、毎月、高めの通信料金を払わされていることになる。つまり、端末を頻繁に買い換える人とそうでない人で不公平感が出てしまっているのだ。

 この状況に対して、総務省は長年、問題視し続けてきた。端末代金と通信料金を一体化して割り引くのではなく、それらを分離したプランをつくれと再三、携帯電話会社に要求してきたのだった。

 その声に応えたのが「分離プラン」だ。

 既にKDDIが「ピタットプラン」として昨年夏に導入済み。端末の割引をやめる代わりに、毎月の通信料金は使った分だけ、支払えばいいというプランで、従来よりも割安に利用可能となっている。

 NTTドコモも「docomo with」として、分離プランを導入。割引が適用されない4万円以下のスマホを購入すると、それ以降、毎月1500円を通信料金から割り引くというものだ。

 また、ソフトバンクも9月から「ウルトラギガモンスター+」という新料金プランを投入。こちらも端末の割引は行わない。

 NTTドコモ「docomo with」は既に300万、KDDI「ピタットプラン」は、20GBもしくは30GBのデータ容量の「フラットプラン」と合わせて1千万を超える契約者を抱えるまでになっている。つまり、端末の割引よりも、毎月の支払額が安いほうがいいというユーザーが増えているということだ。

 

携帯料金の分離プランで大打撃のiPhone

 

 一方で、この分離プランの普及により、大打撃を受けそうなのがiPhoneだ。

 ガラケー全盛時代の08年に日本に上陸したiPhoneは、革新的な操作性で注目されていたが、実際のところ、ソフトバンクは販売に苦戦していた。そこでテコ入れのため導入したのが「iPhone for everybodyキャンペーン」だった。端末価格を実質負担0円にすることで、お試し的に購入できる環境を整備。かつて、ソフトバンクがヤフーBBのモデムを街中で無料でばらまいたような戦略で、一気にiPhoneユーザーを増やしていったのだ。

 そんな中、総務省の意向もあって、端末に対する割引は縮小傾向にある。一方で、9月に発売となった新製品「iphone XS Max」は最大容量で17万円を超える値付けだ。割引が縮小し、端末が高価格化するなか、ユーザーが新機種に手を出しにくい状況になりつつある。

 携帯電話会社幹部によれば「iPhoneの新製品は例年並みに売れている。高価格化の影響は今のところないようだ」と語るが、発売初期はiPhoneファンが群がるため、正念場はこれからと言えそうだ。

 割引がなくなる一方、端末が高価格化することで、KDDIとソフトバンクが積極的に展開しているのが、4年間の割賦販売だ。10万円以上するスマホを、48回払いにすることで、月々の負担を軽減するという考え方だ。

 ただし、これではユーザーは4年間、同じ端末を使い続けることになり、新機種が売れなくなるというデメリットも存在する。

 そこで、2年間、使い続ければ、使用しているスマホを下取り回収するとともに、新しい機種に交換できるという仕組みを設けた。これにより、ユーザーは従来通り2年毎に新しい機種を手にすることができる。ただし、ユーザーは同じプログラムに継続して入るのが条件となっていた。

 

携帯料金値下げに期待せず格安スマホに乗り換えが賢明

 

 これに噛み付いたのが公正取引委員会だった。機種を変えるごとに同じプログラムの加入を条件とすると、4年どころか一生、同じ携帯電話会社に縛られることになる。これは競争上、よろしくないということで、KDDIとソフトバンクに対して、改善命令が出たのだった。これにより、両社は、同じプログラムへの加入を必須条件から外すことにした。

 携帯電話会社は端末の割引をやめ、月々の通信料金が安く見えるような施策も打つが、一方で端末価格が上がっているため、ユーザーが割安感を抱くような状況にもなっていない。

 政府や総務省は携帯電話会社に対して値下げの圧力をかけようとしているが、一方で、携帯電話会社も株式会社であるため、株主の手前、すぐに4割も値下げをするわけにもいかない。売上高や利益が求められているのだから無理もない。

 ある携帯電話会社の幹部は

 「是が非でも今の料金体系を維持しなてくはならない。そのためには、いかにユーザーにお得感を抱いてもらうかが重要。今の料金体系でも割安感を得てもらうことに努めなくてはならない」と語る。

 KDDIでは、世界最大の動画配信サービス「ネットフリックス」の視聴料をセットにして、割安感のある料金プランを提供。ソフトバンクも、動画やSNSが見放題、使い放題になるプランの提供を始めた。いずれも、従来と支払額はあまり変わらないような立て付けになっているのがポイントだ。

 こうして携帯電話各社は、値下げの圧力をのらりくらりとかわそうとしている。当然、いつまでたっても安さを実感することはないだろう。

 政府や総務省、携帯電話会社に期待をしても無駄に終わる。もし、現状の通信料金が高いと不満を感じているのなら、とっとと格安スマホに乗り換えてしまったほうが賢明と言えそうだ。

 

【政治・経済】の記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載) 長谷川拓…

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

社員に奨学金を提供―ミツバファクトリーが実践する中小企業が勝つための福利厚生とは

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る