政治・経済

「重みのある経営者がいなくなった」とはよく聞く話で、かつては日本を代表する企業の社長の顔と名前は、多くの人に知られていた。しかし今、重厚長大産業の社長のことをどれだけの人が知っているだろうか。今に至る平成人気経営者の系譜を追った。

 

平成前半期に活躍した経営者たち―1980年代後半~90年代

金融機関、重厚長大型産業の全盛期

 1989年1月7日、昭和天皇が崩御し、昭和が終わった。その日の午後、小渕恵三官房長官が「平成」と書かれた額を掲げ、翌日から新しい時代が始まった。

 当時、日本経済は絶好調。この年の大納会(12月29日)で平均株価は3万8915円をつけ、地価も上がり続けていた。ソニーがコロンビア映画を、三菱地所がニューヨークのロックフェラーセンターを買収した。 

 この時代、経済誌によく出ていたのは金融機関や重厚長大産業の経営者たちで、好調な企業業績を背景に強気な発言を繰り返す。住友銀行の磯田一郎会長、野村證券の大タブ・小タブ(田淵節也会長、田淵義久社長)、ソニーの盛田昭夫会長、トヨタ自動車の豊田章一郎社長、日産自動車の久米豊社長、新日鉄の斎藤英四郎会長(経団連会長)など、最後の大物経営者の時代だった。

 90年に入ると大昭和製紙の齊藤了英名誉会長がゴッホの「医師ガシェの肖像」を124億円で購入、パナソニックもソニーのコロンビア映画買収に刺激を受けて、ユニバーサル映画などを傘下に持つMCAを買収した。株価は下がり始めていたが、地価が上がり続けていたこともあり、人々の気分は高揚したままだった。

バブル崩壊で日本経済が長期停滞期に突入

 しかしこの年に起きた2つの出来事は将来を暗示していた。まずは4月の太陽神戸三井銀行の誕生で、この後、10数年にわたる都銀再編劇の幕開けだった。また10月にはイトマン事件の責任を取り「住銀の天皇」磯田会長が辞任。これ以降、金融機関の抱える不良債権問題が、10年以上にわたって日本経済を蝕んでいく。

 91年に入ると地価の下落も始まる。いよいよバブルの完全崩壊が始まった。同時に円高の進行によって自動車など輸出産業にも影がさした。

 円高はその後も進行し、95年に一時1ドル=70円台を記録したことで日本の製造業の業績は一気に悪化。金融機関も不良債権処理に苦しみ、97年の山一証券倒産、北海道拓殖銀行破綻、翌年の長銀、日債銀の国有化へと続いていく。日本経済が長期低迷期に突入したこともあり、それまで日本経済を支えてきた重厚長大産業の経営者はかすんでいった。

1990年代半ば以降は孫正義の時代に

 その代わり、一人のスーパースター経営者も誕生した。現在ソフトバンクグループ(SBG)社長を務める孫正義だ。

 孫が日本ソフトバンク(SBGの前身)を設立したのは81年のことだが、94年に株式を店頭公開し、2千億円の含み益を得たことで攻勢が始まる。

 出版社ジフ・デービスなどへの買収・出資を繰り返すが、決定的だったのは96年のヤフー(米国法人)への出資で、ヤフーの上場による多額の含み益を元に、毎週のように企業を買収し、96年にはテレビ朝日買収を企図、2000年には新市場ナスダック・ジャパン(現ジャスダック)を設立するなど、常に話題を提供し、孫正義は時代の寵児となる。

 孫の経営スタイルはとにかく攻め続けること。この姿勢はSBGの社外取締役を務めているファーストリテイリングの柳井正とも共通する。

 孫の活躍が刺激となって、楽天の三木谷浩史など、IT起業家が続々誕生。ナスダック・ジャパンや東証マザーズの開設もあり、IT長者が続々誕生した。

従来の経営スタイルを変えたトヨタの奥田碩とソニーの出井伸之

 孫以外で90年代を代表する経営者といえば、95年に揃って社長に就任したトヨタの奥田碩とソニーの出井伸之だ。奥田は28年ぶりの豊田家以外の社長。当時のトヨタの国内シェアはじり貧傾向にあったが、奥田は「利益よりシェア」と明言、40%のシェアを取りにいった。また出井は、井深大、盛田昭夫の創業者コンビがボードを去ったあとのソニーの舵を、デジタル化へと大きく切った。

 2人に共通するのは発信力の強さ。奥田の場合は歯に衣着せぬ発言で何度か物議を醸すが、本人は臆することがなかった。一方出井は『ONとOFF』など何冊もの本を上梓、プライベートも含め情報発信することでソニーのイメージを高めることに成功した。この2人の活躍もあり、「経営者こそが最大の広告塔。経営者には発信力が必要だ」と言われたのもこの時代だ。

 

平成中期、後半期に活躍した経営者たち~2000年以降

ITベンチャーの中でも異彩を放った堀江貴文

 2001年にITバブルが崩壊。これにより多くのITベンチャーが消えていった。

 しかしその荒波をくぐりぬけた企業は、その後、大きく成長する。GMOインターネット社長の熊谷正寿、サイバーエージェント社長の藤田晋などはその代表だ。

 その中にあって、もっとも異彩を放っていたのが、ライブドア社長だった堀江貴文だ。堀江を一躍有名にしたのは、04年に近鉄バファローズ買収に名乗りを挙げたことだ。これは叶わなかったが、「金で買えないものはない」に代表される、既成概念を引っ繰り返す発言・行動は、若者の圧倒的な支持を受ける。

 05年にはニッポン放送買収を目指し、同年夏には総選挙に出馬と、堀江は常に話題の中心にいた。しかし06年、証券取引法違反容疑で逮捕され、経営者としての命運はここで尽きた。

 堀江の逮捕がベンチャー経営者に与えた衝撃は大きかった。何より、「出る杭は打たれる」という意識を植え付けた。これ以降、大言壮語する若手経営者は皆無となり、優等生的発言しか聞こえなくなった。

新たなスター経営者として登場した前澤友作

 しかし最近になり、日本中の注目を集める経営者が誕生した。ZOZO社長の前澤友作だ。

 アパレルの通販サイトで大成功を収めるが、今どき珍しいほどの目立ちたがり。高価なクルマを次々と購入するだけでなく、現代絵画の蒐集にも熱心で、バスキアの絵画を123億円で落札する。有名女優との交際を隠さず、プライベート写真をSNSにアップする一方、プロ野球参入に興味を示したかと思えば月旅行参加を発表する。やることなすことのすべてが派手な経営者だ。

 前澤にしてみれば「出る杭は打たれるが出過ぎれば打たれない」ということだ。このまま成長していけば、前澤に続く目立ちたがり屋の経営者が出てくる可能性は高い。その言動を批判する人も多いが、むしろ企業経営に夢を与えるという意味で、評価するべきだろう。

平成を通じて存在感を示した稲盛和夫と永守重信

 もちろんそういう経営者ばかりでも、日本経済はおかしくなる。そこで、最後に重みのある2人の経営者を紹介する。

 かつてのスター経営者で、2000年代に入って再び脚光を浴びたのが京セラ創業者の稲盛和夫だ。稲盛が京セラを設立したのは1959年だから来年で還暦だ。第二電電(現KDDI)を設立したのが84年だから、いずれも昭和時代。平成に入ってからの稲盛は、経営手腕よりもむしろ経営哲学に注目が集まった。盛和塾で後輩経営者を指導するなど、メンターとしての役割を自任しているかのようだった。

 しかし2010年に日本航空が破綻すると、同年1月に会長に就任、経営の第一線に舞い戻り、12年に会社更生法から2年で2千億円の利益を出すまでに急回復。経営者・稲盛の手腕が衰えていないことを世に知らしめた。

 稲盛と同じく、企業再生が高く評価されているのが日本電産会長の永守重信だ。永守はこれまで60社近い企業を買収してきたが、そのすべてに成功、M&Aを成長戦略の軸に据えている。M&Aをしても成果を上げられないケースが多い中。永守の手腕は特筆に値する。(敬称略)

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