マネジメント

大統領の仕事は、世界のリーダーとして国民の安全を確保し、国を繁栄させる仕事である。経営者の仕事も、社会のリーダーとして、お客様にお応えし、会社を繁栄させる仕事だ。そのスケールこそ違っても、厳しい環境に置かれたなかでリーダーシップを発揮しなければならない職性の本質に違いはない。本連載では、ドラッカーが記した「大統領のための六つのルール」から、企業経営者にとっても参考になるリーダーシップの「本質」に迫る。

ドラッカーのルールとレーガン大統領の政策

失業率を大幅に下げることに成功したレーガン大統領

 本連載の第1回目は、ドラッカーが語った「マネジメント上の6つのルール」の中の、第一のルール「何を行わなければならないかを問え」というテーマでお伝えした。第2回目となる今回は、「第二のルール 集中せよ、二兎を追うなかれ」というテーマでお話しさせて頂く。 

 ドラッカーは、アメリカ合衆国の大統領、第32代フランクリン・ルーズベルト、第36代リンドン・ジョンソン大統領、第40代ロナルド・レーガン大統領の仕事ぶりを通じて、最も重要な仕事は何かを考え抜き、最も重要な仕事に力を注ぐことの重要性を示唆している。

 その記録に一番新しい第40代ロナルド・レーガン大統領の仕事ぶりをここでは紹介したい。

 レーガン大統領は、よく知られているとおり、若いころには俳優として活躍し、カリフォルニア州の知事を経て大統領になった人物だ。アメリカの世界における存在感は1970年代以降、次第に低下し、19880年代に入ってもその流れは止まらなかった。レーガンが大統領に就任した1980年代は、戦後のアメリカにとって、最低のパフォーマンスを示した時期だったといえる。

 この流れを食い止めたのが、レーガン大統領だった。彼の経済政策は成功し、その後、レーガノミクスと呼ばれるようになった。当時は、何の成果もあげられなかったと酷評されることもあったが、実際は、彼が大統領に就任した1981年の失業率は7.6%で、一旦は9.7%まで落ち込んだんが、その後、1989年には5.3%まで回復させた。

雇用対策に集中したレーガン大統領

 当時、レーガンは、多くの課題に直面していた。具体的には、外交問題、冷戦の終結、人種問題、エイズ対策、経済問題、失業率の低下等、優先順位の付けようない重要なものばかりであった。

 たとえ、どんなに力ある人物であっても、その力は限られている。あらゆることを直接自分が手掛けてしまえば、力が分散してしまうことは如何ともしがたい、結果として、どの仕事も中途半端なものになってしまい、それがそのまま結果として現れる。

 そこでレーガンは、重要課題の中でも雇用を増やす政策に全力をあげた。とにもかくにも雇用を増やすことに集中したのだ。その結果、レーガン大統領は、アメリカ史上最高の雇用拡大の基礎をつくることに成功した。

 彼が大きな成果をあげることができたのは、あれもこれも手を出さずに、最重要課題を絞り、重要な一つのことに集中したからだ。

 このことは企業経営者にとっても大いに参考になる。政治と経済では分野は異なれど、経営者もリーダーシップを取る重要性という点では同じ種類の仕事と言える。

 また、すべてを自分でこなす職人ではなく、組織をマネジメントして事業を進めるという点では、経営者の仕事も大統領と同じ性格の職種と言えなくもない。経営者としてのあり方に関して、大統領の仕事ぶりから学べることは数多くあると考えられる。

 

大統領と同じく経営者も重要な仕事に集中しなければならない

 

 私は、上場企業に経営チームのコンサルティングを行っている仕事柄、経営者がどれほど多くの課題に直面しているか理解しているつもりである。知らないことを知るために得る情報量、自分が発信できる情報量、自分が受け取れる情報量、そして、その情報の速さもどんどん上がり、追っかけてくる仕事量は、自分一人でこなせる仕事量をはるかに超えている。

 これでは経営者は体がいくつあっても足りない。体はもちろんのこと、頭がいくつあっても足りない。そんな多忙は経営者にお会いするたびに、「どうかご自愛ください」と心の中で言わずにはいられなくなる。

 経営者は日々、将来の会社の先行きを構想しつつ、現在の事業をどう進化させていくか。新しい事業をどう起こしていくか。現在のお客様にどうお応えし、新しいお客様をどう開拓するか、いかにして優秀な人材を採用するか、どのように人材を育成していくか、といった多元的な課題と戦っている。

 それらの課題に、A、B、Cといった優先順位をつけようとしても、すべてが最優先事項のAになってしまう。しかし、あらゆることを同時に進めることはできない。前述したとおり、成果をあげるために、あれもこれも手を出してはいけない。二兎を追えば一兎も捕まえられないからだ。経営者は成果をあげるために、本当に重要な仕事に集中しなければならないのだ。

 

ドラッカーが説く「集中」の意味とは

 

 一方、集中という言葉を聞くと、「力を入れる製品・サービスを一つに絞ること」という間違った認識が広まっているように思える。たしかに、予算も、従業員の数も、時間も限られているので、「何に力を入れればいいのか」をはっきりさせなければ、成果をあげることはできない。だが、集中とは「力を入れる製品・サービスを一つに絞ること」ではなく、「何を軸に事業を運営するかをはっきりさせる」ということである。

 米国の証券会社エドワードジョーンズは「口座残高500万円以下の顧客」を中心に事業を運営し、アスクルは「オフィスに必要なものは全てあるという商品ラインナップ」を中心に事業を運営し、ドミノピザは「30分以内に商品をお届けすること」を中心に事業を運営し、QBハウスは「10分でカットこと」を中心に事業を運営し、ダイソンは「洗練されたデザイン」を中心に事業を運営している。

 わが社は○○を中心に事業を運営する。

 御社の場合、○○にどんな言葉が入るだろうか。

 これが、「集中せよ、二兎を追うなかれ」、である。

 

(やました・じゅんいちろう)東京都出身。ドラッカー専門のマネジメントコンサルタント。トップマネジメント株式会社代表取締役。外資系コンサルタント会社勤務時から企業向けにドラッカー理論を実践する支援を行う。中小企業、上場企業の役員を経て経営チームコンサルティングファームのトップマネジメント株式会社を設立。現在、上場企業向けにドラッカー理論を導入した役員研修、管理職研修などを手掛けている。著書に『日本に来たドラッカー 初来日編』(同友館)『新版 ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方』(同友館)『ドラッカー 5つの質問』(あさ出版)などがある。

山下淳一郎氏の過去記事はこちら

 

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