テクノロジー

山岳遭難救助のための会員制サービス「COCOHELI(ココヘリ)」で、「金の卵発掘プロジェクト2016」のグランプリを獲得したオーセンティックジャパンの久我一総社長。人命救助に情熱を燃やす同氏のその後を追った。

久我一総・オーセンティックジャパン社長プロフィール

くが・かずふさ 1978年生まれ、福岡県出身。西南学院大学文学部外国語学科英語専攻卒業後、2002年パナソニックシステムネットワークス入社。SCM部門の責任者として英国子会社へ出向。10年に帰国後、商品企画部門へ異動。北米向け無線機器を担当。12年に同社を退職し、起業。現在に至る。

ココヘリへの認知度が高まり会員数が増加

 ココヘリは、正確な位置情報の把握と広範囲な捜索が可能な機器「HITOCOCO(ヒトココ)」を会員の登山者に貸し出し、遭難したときは捜索ヘリが出動するサービス。山岳遭難救助の現場で、いち早く対象者を発見することを目的としたものだ。

 ヒトココは電波の受信範囲が16キロメートルと広範囲に及び(以前は2~3キロメートルだったが最近になって性能が向上)、親機の重量がわずか70グラム、子機はわずか20グラムと非常に軽量で、電池はそれぞれ6カ月、3カ月持つといった特徴を持つ。ココヘリサービスは開始からまだ2年余りだが、現在は登山愛好家の間で認知度が高まり、当初1千人程度だった会員数も約2万人に増加した。

 イザという時の備えをしておくのは、登山者本人だけでなくその家族にとっても大切なことだ。山岳遭難救助は、行方不明になってから72時間が生存の壁と言われるため、どれだけ迅速に発見できるかが鍵となる。

不幸にして生存がかなわなかったとしても、遭難者が行方不明のまま捜索が長引くのは、精神面でも費用面でも残された人々の負担が大きい。遭難者を一刻も早く発見することこそが、ココヘリのミッションとなる。

 2018年に、実際にココヘリが出動したケースは5件あり、うち2件で山岳遭難者が無事救助された。3件は残念ながら捜索対象者の死亡が確認されたが、いずれも滑落事故などで即死したケースだ。遭難者の迅速な発見に、ココヘリが大きく貢献できることが証明されている。

ココヘリの市場はまだ開拓の余地あり

 実際に起きたケースを1つ紹介すると、日中の下山予定時刻を大幅に過ぎた登山者の家族から、その日の夕方に連絡が入ったため、登山者が持っている子機のIDや血液型といった情報を警察と共有。当初は警察のヘリがリードする予定だったが、天候が悪化したため別の場所に待機していたココヘリが先に出動することになった。翌日の午前中には対象者の位置を特定し、警察に連絡して発見された。

 「残念ながら発見されたときには既に亡くなられていましたが、通常は人が入り込まないような場所だったので、本来なら迷宮入りしているケースだったと警察の方には言われました」と久我氏は語る。

 出動が増えて新たに分かったこともあるという。

 当初、久我氏はドローンを使って遭難者を探す構想を抱いていたが、より広範囲の探索ができるヘリが使える手はずがついたため、ココヘリのサービスを開始した。

 だが、悪天候でココヘリが飛ばせなかった際に、地上の捜索部隊が遭難者を無事発見するというケースも発生した。このため、ヘリで視界が確保できなかった際に、セカンドオプションとしてドローンを使えるようにする準備も進めている。

 「実践を重ねることで、本当に効果が高いサービスだとユーザーも実感できると思います。登山人口は全国で600万人もいるので、まだまだ開拓の余地があります」と話す。

ココヘリは海の領域にも進出、将来は災害救助も

 会員数の目標は21年までに15万人、その先は株式公開の準備も進めていきたいという久我氏。機器の性能向上や、実例を通じて証明されたサービスの信頼性などによって、冒頭紹介した通り会員数は順調な伸びを示している。

 登山グッズの一流ブランドも安全登山の啓もう活動の一環として、ポイントに応じてココヘリ会員に商品を低価格で提供するなど、周囲からの評価も高まっている。恐らく、山岳遭難救助の分野に関してはこのまま着実に拡大していくものと思われる。

 一方、この冬からはマリンスポーツにおける事故や漁師などを対象に、海上における捜索にも参入する予定だ。

 「マリンスポーツの事故もなかなか多くて、山岳遭難と同じくらいの件数が発生しているんです。今後、小型船舶操縦時のライフジャケット着用が義務化されるので、ライフジャケットにヒトココを装着してもらう形を考えています」

 そして、将来の大きな目標として視野に入れているのが、災害救助現場での活用だ。

 近年は特に、地震、台風、水害とあらゆる自然災害に見舞われることが増えた日本。被災者だけでなく、捜索に当たる自衛官や警察官、さらにその家族にとっても、行方不明者の居場所をすぐに把握できるヒトココは必ず役に立つはずとの思いを久我氏は強く抱く。

 「土砂に人が埋まってしまっても、土の中からの電波を受信できるので場所を特定することができます。何より、機器を持っていればその場所に居るのか居ないのかということがすぐに分かるので、何も手が尽くせないということがないんです」

 ヒトココは山岳遭難や自然災害といった非日常的な場面だけでなく、日常生活においても加入していれば安心材料になる。例えば、小さな子どもがいる家庭などで、人混みの中で迷子なってしまった際の備えとして持っておくこともできるだろう。こうした需要にこたえるために、「COCOKIDS(ココキッズ)」というプランも月額980円で提供している。

 「人を探す」ことに特化した一風変わったベンチャーが、さまざまな分野に活躍の場を広げている。

 

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