経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

せとうち地域は観光でよみがえるか

せとうち復興

せとうち観光の魅力はどこにあるか

観光が復興の起爆剤に

2018年の夏は、西日本の豪雨だけでなく日本各地をさまざまな自然災害が襲った。

6月には大阪府北部で地震が発生し、9月には、25年ぶりの「非常に強い勢力を保ったまま日本に上陸」した台風21号による高潮で関西国際空港のターミナルが浸水、さらに近くに停泊中のタンカーが関空と本土を結ぶ連絡橋に衝突し空港は孤立した。

そして、その2日後には、北海道の胆振地方で地震が起こり、地震もさることながら発電所がストップしたことで北海道全域が停電した。

人口減少が進む日本で唯一といってもいい成長産業の観光にも自然災害が大きな打撃を与えている。関空や北海道での被災した観光客の情報不足による混乱は、今後、日本を旅先と考えている世界中の人たちに不安を与えてしまう。その不安を消すためにも、災害時でも旅行者が安心して旅行できる取り組みと、風評被害を払しょくする素早い回復力をアピールし、復興の起爆剤にしなければならない。

西日本豪雨から半年たった岡山県と広島県をまわってみると、一部ではまだ災害の爪痕が生々しく残るものの、街に入れば賑やかで多くの外国人観光客も見かけた。

つまり、災害直後は報道もあり観光客が減ったとしても、すぐに戻ってきてくれるほど、今のインバウンド観光は勢いがあるといえる。この追い風があるうちに、日本人を含めた観光客を、いかに被災地域にある観光地に呼び込むか、そしていかにリピーターになってもらえるかが重要なのだ。

せとうちの豊かな観光資源

トリップアドバイザーが発表した「2018年 外国人に人気の観光スポット」によれば、1位は京都の伏見稲荷神社だが、2位は原爆ドームのある広島平和記念資料館。3位にも厳島神社のある宮島が入っている。

そもそも厳島神社には、はるか昔から多くの人物が参拝しており、記録があるだけでも、弘法大師を皮切りに足利尊氏、足利義満、豊臣秀吉にフランシスコ・ザビエルまで詣でており、大正時代にはあのアインシュタイン博士も訪れている。

そして、お向かいにある愛媛県の道後温泉はさらに古い3千年の歴史があるのだが、ここには聖徳太子が入浴したという話まである。加えて、香川県には、江戸時代、伊勢の御蔭参りに次ぐ庶民の人気であった金比羅詣での金比羅信仰がある。

瀬戸内海全域が、北前船の西廻り航路であったこともあり、蝦夷地や東北など遠方の品や文化がこの地域に入っていたことでそれがせとうちの豊かな文化につながっている。こうした歴史が倉敷を商都にし、潮待ちの港として鞆の浦を栄えさせ、現在の観光資源になったのだ。歴史を背景にした伝統や文化がこの地域の誘引力。今後は、こうした遺産を生かしながら新たな魅力で更なる誘客を図らなければならない。

観光客を引き寄せるせとうちの新たなコンテンツ

スポーツ×せとうちアート×せとうち

せとうち地域がさらなる注目を集めるには、伝統文化をベースに、この地域の新しく強力なコンテンツといえる「スポーツ」そして「アート」をもっと前面に打ち出すことが必要だろう。

例えばスポーツでは、「しまなみ海道」のサイクリングは多島美の景観とセットで考えると唯一無二のコンテンツ。レンタサイクルなども充実していることから、旅行者にも手軽なアクティビティといえる。

こうしたDoスポーツ以外でも、今年惜しくも日本一を逃したが、広島東洋カープは、ニューヨークに行って、野球やバスケットボールを観るように、広島イコール野球観戦となる可能性がある。地元ですらチケットが取れないという問題はあるが、寝そべったままの観戦やバーベキューができるシートなど観戦スタイルが多様で、球場内の飲食についても評価が高く、スタジアム自体に魅力がある。

もうひとつの「アート」にしても、よく知られているが、直島や豊島をはじめとする島全体がアートミュージアムと呼ぶにふさわしい島が多いということ。19年は、この地域の知名度を一気に高めた「瀬戸内国際芸術祭」も開催される。

また、島のアート以外にも、日本の美術館の先駆けである、1930年開館の倉敷の大原美術館は豊かな地域経済が育んだ美術館。しかし、アートにせよ、サイクリングにせよ中国ではまだまだ知名度がないと言う声もある。そう考えれば、いずれもまだまだ伸び代があるといえるはずだ。

ただ、アートにしてもスポーツにしても、穏やかな海や青い空、多島美といった、ここにしかない自然の豊かさがそれぞれの魅力を倍増させていることに気づく。今後、新たな取り組みを行う上でも、この特性を生かすことが必要で、それが飛躍のきっかけになる。

せとうちならではの観光を演出

そういう意味で期待されるのが、両備グループの松田久社長が進める、アルベルゴ・ディフーゾ(分散した宿)。イタリアで地域活性化の大きな後押しになった宿のスタイルは客室やフロント、レストランが同じ建物ではなく、街のさまざまな場所にあること。

この方法によって、わざわざホテルを建設しなくとも、古民家などを利用すれば、より個性的な宿が誕生する。しかもそれは、せとうちの小さな町や島に合う宿ではないだろうか。

こうした観光復興には地元企業以外も後押しする。JR西日本では「がんばろう!西日本」キャンペーンを開催し、割引きっぷや対象旅行商品を19年の春まで延長した。空でもANAは12月から半年間、機内やラウンジで展開するキャンペーンで中国・四国を特集。機内食に地域の食材をつかった料理が提供され、グループの旅行商品にも反映されている。

被災者にとって日常を取り戻すのは簡単ではないが、旅をすることで間接的にでも役立てるのである。

それならば、まずは行って楽しみ、その魅力を発信し、さらに多くの人に知ってもらうことが観光を通じた復興の後押しになるのではないだろうか。

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