文化・ライフ

 今季、キャッチャーとしてはNPB史上3人目の通算2千本安打、史上4人目の1千打点を達成した中日の谷繁元信がプレーイングマネジャーに就任した。

 ゼネラルマネジャー(GM)の座に就いた落合博満の指名によるものだ。

 なぜ、谷繁だったのか?

 GM就任会見で、落合はこう語った。

〈「新監督(谷繁)のことを言えば、10年前にドラゴンズに来たときにまだまだ伸びしろがある選手だなと思いながら、こいつを鍛え上げないとチームはうまく機能しないだろう。このクラスになると誰も何も言わないだろうという中での出発。

 退団会見のときにいいましたが、8年間で一番成長したのは谷繁じゃないのかなと。将来的に監督にしたらいい指導者になるだろうなと。それが現実になった。やれるだけの器であり、人間性であると考えればいいんじゃないかな」〉(東京中日スポーツ10月12日付)

 2004年に中日の監督に就任した落合は8年間で4度のリーグ優勝と1度の日本一を達成した。現役時代は3度の三冠王に輝き、天才の異名を欲しいままにした落合だが、中日の指揮を執るにあたり打ち出したのが「守りの野球」だった。

〈勝負ごとは、勝たなければ意味がないという原則にあてはめると、打ち勝つ野球には、限界があると思う。つまり、長いペナントレースを戦い抜くことができない、優勝は難しいということである。

 仮に、私が監督になったら、点をやらない野球を目指す。守りで攻撃するチームづくりに取り組むだろう〉(自著『勝負の方程式』小学館)

 打ち勝つ野球よりも、点をやらない野球――。言うまでもなく「守りの野球」の要はキャッチャーである。

 レギュラーキャッチャーの谷繁を、さらにレベルアップさせない限り、V奪回はないと考えた落合は、あえて谷繁に冷たくあたった。

 「今のエースキャッチャーは谷繁だけど競争だ。ケツに火がボウボウとついているよ」

 ベテランに危機感を持たせようとしたのである。

 最初、谷繁はこの発言にカチンときた。

 「確か落合さんのコメントは新聞を通じて知ったんです。〝余裕ぶっこいていいのかよ〟というような言葉でした。

 しかもキャンプ初日から、いきなり紅白戦をやるという。若手もベテランも全員が横一線だと。〝よし、じゃあ、やってやろうじゃないか!〟。そんな気にさせてくれたものです」

 落合の狙いは、まんまと図に当たった。互いが互いを認め合うのに、時間はかからなかった。ある意味、落合イズムを誰よりも受け継いでいるのが谷繁だということもできる。

 昨年、落合について聞くと、谷繁はこう語っていた。

 「落合さんは、僕たちにとっては考えさせられる監督。なんか、わざと考えさせているようなところがある。〝オマエら、自分で気がついて、自分でやっていかないとプロの世界ではメシ食えんぞ〟と言いたいんだろうけど、口では言わない。それとなく、そうしたことを意識させようとしていたのかもしれませんね」

 プレーイングマネジャーは過去にはたくさんいたが、1970年代以降は谷繁で5人目である。そのうちの3人がキャッチャーだ。これは8シーズンに渡ってプレーイングマネジャーを務めた野村克也の「キャッチャーはグラウンドにおける監督」という言葉を裏付けている。

 自らの役割について問われたGMの落合は、〈「オレは黒子に徹するだけ。オレが表に出るとやりづらいでしょ。それがこのチームを浮上させる1番のポイント。監督の思うように、すべてが同じ方向を向いて出発しないとこの船は沈没する」〉(東京中日スポーツ10月12日付)と答えた。あくまでも自らは強化担当の責任者に徹し、現場介入しないということのようだ。

 気になるのは現場での権限を、どう分担するかだ。監督時代の落合は、ピッチャーの起用はすべてヘッドコーチなどを務めた森繁和に任せ、自らは一切、口をはさまなかった。自軍の先発投手すら知らなかったほどである。

有能で鳴る森は谷繁内閣の要職に就くことが決まっている。8年間、一緒に仕事をしてきた仲だけに、人間関係は問題ない。

 しかし、権限分担となると、話はそう簡単ではない。現場の最高責任者が谷繁であることは論じるまでもないが、落合時代のようにピッチャーに関する権限は、すべて森に渡すのか。それとも自らが差配するのか。

 もっと具体的に言えば、マスクを被っている谷繁が「続投」、森が「交代」と意見が分かれた場合、「監督の意見を聞け」となるのか、「森さんに従います」となるのか。落合GMの事前の計らいにも注目が集まる。 (文中敬称略)

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