政治・経済

 今臨時国会で、大きなテーマになった外国人労働者の受け入れ拡大に向けた出入国管理法改正案。14の業種で外国人労働者の受け入れを拡大。就労目的の在留資格を2段階で設け、一定の技能が必要な1号は試験に通れば在留期間は通算5年。2号は、さらに高度な試験に合格した者で、配偶者と子どもの帯同が認められる上に更新時の審査など条件を満たせば永住への道も開ける。

 ただ、受け入れの詳細や規模などは法案成立後に決まることから賛否議論が百出している。特に自民党やその支持者の中には、そもそも「移民政策」に反対意見が多く、今回の法改正で条件を満たせば、永住できる可能性を定めれば事実上の移民につながると問題視する。そうした中で、全く違う視点でこのテーマを論じるべきだというのが公明党の重鎮・太田昭宏前国交相だ。 聞き手=鈴木哲夫、Photo=幸田 森

太田昭宏氏プロフィール

 

太田昭宏・公明党前代表

おおた・あきひろ 1945年生まれ、愛知県出身。71年京都大学工学部大学院修士課程修了。公明新聞記者などを経て、93年旧東京9区より衆議院議員に初当選。前公明党代表、前国土交通大臣、前水循環政策担当大臣。公明党全国議員団会議議長、東京第12総支部長、首都直下地震対策本部総合本部長。

 

太田昭宏氏が考える入管法改正の主旨とは

 

入管法改正法案の提出はむしろ遅かった

―― 法案は具体性が足りない、しかも実施は2019年4月。今国会で法案を成立させようというのは拙速だという批判がある。

太田 まず言いたいのは、この臨時国会で提案して通すということに対して「拙速」という声がありますが、人手不足問題で悩んでいる現場や建設業現場などの改善に取り組んできた私としてはむしろ遅いと思います。 

 現在出ている14業種のうち12業種は、既に技能実習制度が活用されて外国人が入ってきています。現実問題としてわれわれの周り、例えばコンビニエンスストアや建設現場でもそうした外国人が働いている。ところが、実は現在の入管制度に照らしてみて行ってもその実態がなかなか知られていないところがある。

―― コンビニなどで留学生のアルバイトは週に28時間労働が許されている。

太田 そうです。データを整理すると、現在海外からの技能実習生は28万6千人、留学生が32万4千人。このうち実習生は14業種のうち12で働いているし、留学生はおっしゃるように容認されている範囲でアルバイトをしている。

 既にこれだけの外国人が労働の現場にいるのに、法整備のほうが実態に追いつかずに遅れていたということなんですね。だから法改正はやらなきゃならない。決して拙速ではないということです。しかし、重要な問題は法律を通したらそれでいいということではないんです。この問題を政治として何が本質的なのかをとらえ、何をするかということです。

―― 太田さんの言う本質というのは?

太田 今回の外国人労働者の受け入れについて、一番大事なキーワードは、骨太方針の中で書いてあります。

 それは、「生産性向上や国内の人材確保のための取り組みを行ってもなお、労働力が不足する分野に限り、外国人の新しい在留資格を設ける……」とある。

 「行ってもなお」という部分、つまり、まずやるべきは日本人が働きたくなる職場をつくる努力を、政府やその分野の担当の各省庁や大臣がまず必死でやる。それが前提で、それをやってもなお労働力が不足するならそこで初めて外国人を受け入れる。まずは日本人がその業種に入って来られるような努力が先なんです。入管法改正の一番最初の主旨はそこなんですね。

外国人労働者受け入れ拡大の前にやるべきこと

―― まず、やることがあるだろうと。

太田 この問題は、日本が直面している問題の一断面です。外国人を受け入れようとしている14業種は、建設、農業、介護などですが、俗に言われてきた3K(きつい、汚い、危険)職場です。給料も安い。だから日本人、特に若い人なども入ってこない。そして労働力が不足する。負のスパイラルです。

 そこでやるべきことは、骨太方針にも書いてあるように、まずは「国内の人材確保」のためにしっかり対策を講じることです。3K職場を改革しなければならない。私は、国交大臣になって、所管する業種のうち建設業や造船業などそれぞれの現場がどういう職場になればいいのか、日本人が入ってくるようになるのか、いろいろ手を打ってきました。

―― 建設業は、まさに外国人労働者受け入れ問題の象徴的な業種。それだけにこの問題の先例や指針として注目されると思うが……。

太田 例えば建設業。公共事業は悪と言われてきたが、果たしてそうなのかと、公共事業の原点をもう一度問い直すことから始めました。

 20年の東京オリンピック・パラリンピックがある。そして何より東日本大震災の復興や防災・減災をどうするかという問題もある。特に私が大臣になってすぐに高速道のトンネルの天井板崩落事故があった。防災・減災に加え老朽化にも直面している。こうしたことから、公共事業は単なる景気対策などという次元じゃない。その重要性や概念を再構築しました。

 そして、このような公共事業は必然的に人手もいるし質の高い技能者たちの存在が不可欠になってくるのです。じゃあ、そういう日本の優秀な若い人たちやベテランや高齢者でも高い技能を持っている人たちが入って来やすいように、建設現場の3Kを何とかできないかと知恵を絞った。それが、設計労務単価(※公共事業で労働者に支払う労務費の積算基準。国交省が決定する)の引き上げです。給料が上がるようにしたということです。

 13年には前年比でプラス15.1%、震災被災の東北3県はプラス21%。これを6年続けてきたことで、今は12年に比べてなんと建設業労務単価はプラス43%になりました。

―― しかし給与を上げるように指導されても、会社側が儲かっていなければ出せないのではないか。

太田 そこでまたひと工夫しました。公共事業の概念を再構築して、決して悪玉ではなく、防災・減災をはじめ、質の高い公共事業というものをやるのが国の使命だと位置付けたことで、質の高い事業は技術的にも単価は当然上がらなければおかしいという方針を立てました。

 つまり、入札価格を上げ、質の高い事業を発注したんです。当然受注した建設会社は適切な価格で仕事を請け負うわけで、賃金にも反映されるという連動する新しい仕組みをつくったんです。

 ただ、賃金だけを上げろというのでは、丸々建設会社の負担になり、なかなか達成できません。そこで、公共事業の入札価格、事業の平準化なども工夫したということです。首相にもこれを説き、財務省とも折衝して予算確保を必死にやりました。

 私は、これまでの3Kではなく「新しい3K」をというのを掲げて目指してきました。それは「給料がいい」、「休暇がある」、「希望がある」……。農林業や水産業にしろ、飲食業にしろ、介護にしろ、こうやって業種担当の各省庁が日本人が喜んで入ってくる職場をつくる努力をしなければならない。それでも足りないから外国人をというのが理念だと思います。

太田昭宏・衆議院議員

入管法改正の主旨について語る太田昭宏議員

 

太田昭宏氏はなぜ入管法改正を働き方改革と捉えるのか

 

労働力不足は単純計算で判断するべきではない

―― 今実際に建設現場にいる海外からの技能実習生については、何か独自の対応をしたのか。

太田 まず日本人が入って来やすいような環境づくりをやりましたが、同時に、国交省独自に外国人労働者についても仕組みをつくりました。既に建設現場にいる外国人の技能実習生について、「外国人建設就労者受入事業」という制度で実習終了後も就労できる制度を実施しました。

 これは、東京オリンピックが行われる20年を超えて22年まで働けるという仕組みです。国際建設技能振興機構(FITS)という財団法人をつくって、先行して受け入れた外国人労働者の就労環境整備もしてきました。

―― 止まらぬ少子高齢化を考えると、今後日本人が働きたくなる職場改革をやったとして、それでも労働力が足りないという現実は避けられないのではないか。

太田 人手不足は交通「渋滞」と似ていると思う。東京オリンピックのときには渋滞が約2倍になるなどといわれています。

 しかし車の量が2倍になるわけではないんです。例えば、首都高速の中央環状線が3年前に開通したときに、都心の環状道路の交通量は5%減った。すると、渋滞はなんと50%解消されたんです。

 同じように人手不足といっても数%増えるか、減るかというギリギリのところです。日本人の建設業の技能労働者が現在330万人。これが340万人になれば不足感がなくなるというのが現状です。

 日本人の技能労働者を確保する工夫をした上で、外国人労働者を数万人入れるかどうか。ここが大事なところです。日本人がその業種に入ってくる環境ができて、働き方が変わり効率や生産性も上がれば、安易に外国人に頼るのではない。もっと少なくてもいいということになる。

 実態と受け入れる数字もしっかり見ていかなければならないし、要は、日本人が入って行きたくなるという職場をどうするのかということなんです。

―― 単純計算で何人足りないではなく、まさにそれぞれの業種がどう働きやすい環境にしていくかで労働力の計算も変わってくる。

太田 私が目指すべきだと思うのは、若者が働きたいと思い、良い給料と休暇もしっかりとあり、きちんと人生を送れる旧3Kではない職場。高齢化社会になり、それでも日本人が働ける社会。建設業で私がやった職場改革は、労務単価という国で決められる基準があったからやれましたが、介護などの業種は税金や保険料を上げるということがあるので、なかなか難しいかもしれません。業種ごとに知恵を絞って工夫する必要がある。

入管法改正に際して絶対に忘れてはならない視点とは

―― しかし、それは政治が決断すればやれるのではないか。

太田 そのとおりです。政府を挙げて各大臣がしっかりやらなければならない。徹底的に努力して。国交省でもまだまだやれることはたくさんあると思います。

 例えば高齢化社会になり、年配の方たちがどうやって生きていくのかということに関わりますが、私が言っているのは「年金プラス10万円」ということ。国交省で所管している旅館業などももっと工夫して、旅館のあるその地域の70歳代のお年寄りでも働けるような仕組みを、国交省が業界のみなさんと一緒に議論してつくらなければならないと思います。

 今はもう大臣職を離れていますが、私のライフワークでもあり、尽力したいと思っています。

―― まず日本人が働く意欲を持つ職場、そして外国人、その順番を肝に銘じろと。

太田 入管法改正の本質というのは、実は少子高齢化の中で生産性をどう向上させて、未来に希望が持てるかという「日本人の働き方改革」なんです。日本の強さは現場の底力だと私は思っています。

 こういう言い方が正しいかどうかは分かりませんが「黙々と働く」ということ。日本のそれぞれの現場で働く日本人が少なくなったら国力は確実に落ちていきます。それぞれの業種が改善の努力をまずやること。その業界が壊れるということは日本社会が壊れるということでもあるのです。

 安易に外国人の労働力が使いやすいからと、しかも安い給料でということになれば、日本人の賃金も下がっていく可能性だってある。順番は逆です。日本人が働きたい職場、それでも足りないところに入ってきた外国人も同じ給料をもらえる。そのようにしなければならない。

 今回の入管法改正では、日本の働き方の問題、若者や高齢者の働き方の問題という視点を、絶対に忘れてはなりません。

 

 今臨時国会での審議前に、太田氏は安倍首相に直接こう言ったという。「法案が成立した後に、本来しっかり取り組まなければならないことがある。日本人が働きたいという職場づくり、処遇改善に、担当する各省庁は全力を上げてほしい」。

 安倍首相にとって太田氏は、公明党議員の中で数少ない一対一で話せる存在だ。入管法改正の本質は「将来の日本人の働き方」と主張している太田氏の元には、与党の若手議員などが「本質を勉強したい」と訪れている。太田氏の直言に安倍首相はうなずいていたというが、今後の働き方改革にどう生かしていくのか、法案成立後の詳細を決める省令にどう反映させるのか注視したい。(鈴木哲夫)

 

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