マネジメント

トヨタ自動車の豊田章男社長によれば「自動車業界は100年に一度の変革期にある」。その変革のひとつが電気自動車(EV)で、自動車メーカーはいずれもEVシフトを進めている。その中で内燃機関にこだわり続けるのがマツダ。果たしてその勝算は。文=ジャーナリスト/立町次男

 

マツダが社運を賭ける新世代商品とガソリンエンジンにこだわる理由

 

「マツダ3」に搭載される新型ガソリンエンジン

 マツダは2019年、社運を懸けた「新世代商品」の本格展開を始める。全面改良した「マツダ3」を第1弾として世界で発売するほか、第2弾のスポーツタイプ多目的車(SUV)の量産を始める方針だ。

 今後、世界で車両の電動化が加速する見通しだが、マツダはあくまで、得意とする内燃機関(エンジン)主体の商品戦略を推し進める構え。新世代商品はその中核的な役割を果たす。ロータリーエンジンなどで独自性を際立たせてきたマツダの真価が問われる。

 マツダの丸本明社長は1月に発表した談話で、19年を「新世代商品元年」と位置付けた。

 「新世代商品の幕開けとなる新型マツダ3の販売を北米で始め、順次、各市場へ導入いたします」と強調。生産体制についても、「現在は防府第1工場のみですが、年内にメキシコや中国など海外の工場でも生産を開始いたします」と説明している。

 新型マツダ3のハッチバックとセダンは、18年11〜12月に米ロサンゼルスで開催されたオートショーで世界初公開された。

 「日本の美意識の本質を体現する」という同社の「魂動(こどう)デザイン」は、17年の東京モーターショーで高い評価を得た「魁(かい)コンセプト」の意匠を引き継いだ。

 マツダ3は前モデルまでは日本で「アクセラ」として販売され、世界で600万台を売り上げた同社の主力車。同じ車格の日本車では「カローラ」(トヨタ自動車)や「シビック」(ホンダ)などがあり、競争の激しいセグメントで存在感を発揮したいところだ。

 このモデルが注目されるのは、マツダの命運を握る新世代技術を初めて搭載するからだ。その中核となる新型ガソリンエンジン「SKYACTIV-X(スカイアクティブ・エックス)」は、マツダ独自の燃焼方式「SPCCI」の採用により、世界で初めて、量産車での「圧縮着火」を実現。従来のガソリンエンジンとディーゼルエンジンのそれぞれの利点を融合させ、燃費を節約しながらディーゼル特有の力強いトルクをガソリンエンジンでも提供する。

 また、スカイアクティブ・エックスは、同社のスローガンである「人馬一体」を体現する性能があるといい、人が思うままに操る喜びを得られるスムーズな動きが特徴とされている。

 さらにマイルド・ハイブリッドシステムを組み合わせることにより、従来のガソリンエンジンと比べて2〜3割の燃費向上に成功したという。

ガソリンエンジンでマツダの特徴を生かす

 環境性能はすべての自動車メーカーにとって重要だが、マツダには特別な意味を持つ。環境規制の強化などにより今後、世界で電気自動車へのシフトが加速する見通しだ。その中で内燃機関に強いこだわりを持つマツダが独自戦略を進め、存在感を発揮するには、スカイアクティブ・エックスの高い環境性能がこれまで以上に重要となるからだ。

 マツダは18年に東京都内で開催した技術説明会で、30年に販売するすべての車を電動化する方針を打ち出した。

 しかし、電池とモーターだけを積む純粋な電気自動車は全体のわずか5%と想定。残り95%は、エンジンと電動化技術の組み合わせによる車両となるとみており、スカイアクティブ・エックスとマイルド・ハイブリッドの組み合わせは、その中核的な役割を果たすとみられる。

 マイルド・ハイブリッドはトヨタの「プリウス」などで使われている「ストロング・ハイブリッド」とは異なり、低速時もモーターのみで走行しない。あくまでエンジンが主体で、マツダの持ち味を生かせるという目算がある。

 

中堅メーカーとしてのマツダの独自戦略とは

 

EVで活かされるロータリーエンジン

 マツダには「Well‒to‒Wheel(井戸から車輪まで)」という独自色の強い環境宣言がある。二酸化炭素(CO2)を出さない電気自動車が環境に優しいといわれるが、その電気をつくるために火力発電所が使われていれば、その優位性は差し引いて考えるべきだ――というのがマツダの主張だ。

 マツダの想定する「5%」が当たるかはともかく、電池の性能や充電器などのインフラ整備に依存する電気自動車が急速に普及することは難しいというのが衆目の一致するところ。

 当面、エンジン車が大部分を占める状況が続くことはほぼ確実で、マツダはエンジン車の環境性能アップこそが、自動車業界として最も環境に優しい道だと主張している。同社は、30年までにCO2排出量を10年比で50%まで削減することを目指している。

 マツダの独自性のあるエンジンと言えば、「ロータリーエンジン」を思い浮かべる人も多いだろう。同社はこれを発電用に使い、電気自動車に活用する。20年をめどに、航続距離を飛躍的に延ばした電気自動車を投入する方針だ。

 ピストンが上下する通常のエンジンに対し、ロータリーはおむすび型のローターによる回転運動でエネルギーを生み出す。四輪車での実用化は不可能と言われてきたが、マツダは試行錯誤を繰り返し、1967年発売の「コスモスポーツ」に搭載することに成功。91年のル・マン24時間レースでは、このエンジンを搭載した「マツダ787B」で、日本メーカーとして初の総合優勝を果たす。

 同社と2017年に資本提携したトヨタも、最新の車でロータリーエンジンの活用に動いた。18年1月に米ラスベガスで開かれた世界最大の家電見本市「CES」で、トヨタの豊田章男社長は、自動運転機能を持つ電気自動車「e-Palette Concept(イー・パレット・コンセプト)」を発表。サービス事業者の創意工夫により、自動運転で顧客の前まで来てくれる小売り店舗や、移動する病院、ホテル、オフィスなどに使ってもらう狙いだ。

 「プラットフォーム」の役割を果たすもので、サービス事業強化を志向するトヨタにとって極めて重要な車に、マツダのロータリーエンジンが搭載されることになったのだ。これも発電用に使うため、直接ロータリーエンジンで走行するわけではなく、電気自動車の弱点である航続距離を延ばす狙いがある。

 もっとも、ロータリーエンジンは燃費性能の低さが仇となり、搭載する「RX-8」の生産を2012年に終了した後は市販車には使われていなかった。

 低燃費の要因は、低回転時の効率が非常に悪いため。それを発電用向けとすれば、効率の良い回転数の範囲内で使うことができる。小型で軽量だが出力は大きく、静粛性に優れるという特徴が電気自動車に向いており、ロータリーエンジンが再び、脚光を浴びている。

マツダブランドの価値と存在意義を強調

 このように、新商品開発では順調に見えるマツダだが、同社を取り巻く環境は厳しさを増している。

 西日本豪雨の影響で工場の操業を一時停止したほか、豪ドルやロシアルーブルなどの新興国通貨の下落で日本からの輸出採算が悪化。このため、19年3月期の通期連結営業利益見通しは下方修正され、前期からほぼ半減の700億円を見込む。21年に米アラバマ州で稼働させる予定のトヨタとの合弁工場の建設費や、新世代商品の開発費など、投資には費用がかさむ。

 最大の問題は、主力市場の北米で、インセンティブ(販売奨励金)の積み増しにより収益性が悪化していることだ。

 通商政策も逆風だ。NAFTA(北米自由貿易協定)が、米国のトランプ大統領の強い意向で見直され、「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」となることが決まった。

 米国市場への無税での輸出に関して、部品などの原産地規則が厳格化。メキシコから米国に輸出しているマツダにとってはコスト増の要因となりそうだ。

 さらに将来的には、電動化や自動運転、インターネットでつながる「コネクティビティ」などの進展が見込まれており、自動車メーカーの中では中堅に位置するマツダは、戦略を間違えれば生き残りも覚束ない。

 マツダはこのため、投じる経営資源を抑えながら環境変化に対応するための施策を推し進めている。トヨタなどと電気自動車の基幹技術を開発する会社を設立し、スズキやSUBARU(スバル)もこれに参加した。また、車両全般の開発でも5年から10年の期間を見据え、将来導入する車種を車格やセグメントを越えて一括企画する。コンピューター上のシミュレーションなどで試作回数を減らし、コストを削減する車両の開発手法「モデルベース開発」の活用も積極化している。

 北米事業の改善に向けては、19年3月期に米国の販売店投資に約100億円の費用を振り向け、来期以降も投資を続ける。

 一方で不採算店舗は閉鎖する。メーカーから販売店への奨励金には、顧客満足度やブランドのアピールに特化した評価基準を採用。高い評価を得た販売店に多くの奨励金を支出することで、販売力の底上げを狙う。米国事業の収益性回復と新世代商品の展開などにより、23年度の世界販売を現在より約2割多い200万台に引き上げる目標を掲げる。

 丸本社長の談話では、「今後3年を本格的成長に向けた足場固めの期間と位置付ける」と強調。当面、厳しい状況が続く見通しだ。

 それでも談話は、「マツダは、革新的な『スカイアクティブ技術』や進化した『魂動デザイン』により開発された新世代商品と、人と人とのつながりを重視した誠実な『顧客体験』を通じて、マツダ車を保有する価値をお客さまに感じ続けていただき、お客さまと世界一強い絆で結ばれたブランドになることを目指してまいります」としている。

 中堅メーカーとしての存在意義を独自戦略に見いだし、生き残りを図るマツダの挑戦が始まる。

 

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