マネジメント

SDGsとは2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」として定められた17の項目を指す。このSDGsを社会貢献ではなく経営戦略の軸に捉えると表明したのが大和証券グループ本社だ。中田誠司社長にその理由を聞いた。(聞き手=関慎夫)

中田誠司・大和証券グループ本社社長プロフィール

中田誠司・大和証券グループ本社社長

(なかた・せいじ) 1960年生まれ。83年早稲田大学政経学部を卒業し大和証券入社。大和証券SMBC執行役員等を経て、2007年大和証券グループ本社執行役に就任。10年取締役、16年副社長、17年大和証券社長を経て18年4月大和証券グループ本社社長に就任。

 

SDGsへの取り組みがビジネスにつながる

 

経営戦略としてのSDGsを表明した大和証券

―― 大和証券グループ本社は2018年5月に20年度を最終年度とする中期経営計画(”Passion for the Best”2020)を策定しましたが、この中に「経営戦略としてのSDGs(持続可能な開発目標)」が盛り込まれています。

中田 当社ではSDGsを長期的な経営戦略の根幹をなすべきものだと位置付けています。

 15年に国連がSDGsを採択しましたが、日本ではそれほど浸透してはいませんでしたし、現在でも認識率は15〜16%程度にとどまっています。日本の場合、比較的政治も経済も安定しており、SDGsに対する切迫感があまりなかったからかもしれません。

 しかし足元を見ると、子どもの7人に1人が相対的貧困という現実があるように、実は日本でもSDGsに類する諸問題を抱えています。そこで、これは真剣に考えるべきと位置付け中計に盛り込むことにしたのです。

―― SDGsには17項目のゴールが設定されています。これをクリアしようとすると、企業の営利活動の足枷になるケースもあるのではないですか。

中田 そうではありません。SDGsは社会貢献ではなく経済を活性化させることだと考えています。

 SDGsは正しいイノベーションを起こす大きな種です。事実、17年のダボス会議では、SDGsを達成する過程で年間12兆ドルの経済効果があると報告されています。それを達成するために年間5兆ドルの投資が必要となり、年間3億6千万人の雇用創出につながります。

 SDGsのゴールの中には「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」という項目もありますが、石炭火力のようなCO2を大量に排出する発電を「もうやらない」「もうできない」となると、水力発電や太陽光発電など再生可能エネルギーへの転換を図る必要があり、そこにさまざまなイノベーションが生まれてきます。

 さらには年間5兆ドルの投資が必要となれば、資金調達においてわれわれ証券会社の役割は当然出てきます。ですからSDGsを経営戦略の根幹に据えることが成長につながると考えています。

SDGsを経営戦略の根幹に据えた経緯

―― そう決断するまでにどのような経緯があったのですか。

中田 17年の年始に証券3団体(日本証券業協会、投資信託協会、全国証券取引所協議会)の会合があった時に、SDGsが話題になり、改めて考えるきっかけになりました。そうすると、これまで大和証券グループが取り組んできたことの中にSDGsと共通するものが多くあることに気づきました。

 例えば1972年に大和証券ヘルス財団を、94年には大和証券福祉財団を設立し、医療施設への助成や子どもたちへの支援を行ってきました。ビジネスの上でも、2008年にワクチン債という債券を日本で初めて取り扱い、その調達したお金で世界の子どもたちへのワクチン注射を行っています。

 このようなインパクト・インベストメント(社会貢献型投資)・ボンドを続けてきた結果、気が付けば個人向けでは約5割のシェアを持つまでになっています。つまりSDGsという言葉ができる前から、それに資することはけっこうやってきた。

 このことからも分かるように、17のゴールと169のターゲットには、直接・間接に関わることのできるビジネスがけっこうある。それならば新しい中計を策定する年でもあったので、これを経営戦略の根幹に据えることにしたのです。

 

SDGsに先駆けてきた大和証券グループの施策

 

証券ビジネスとSDGsの親和性

―― SDGsのゴールの中にはワークライフバランスやダイバーシティに関するものもあります。これなどは大和証券がこれまで進めてきたものそのものです。

中田 私たちが19時前退社に取り組み始めたのは07年のことです。女性活躍推進チームを人事部につくったのは05年です。結果として117支店の2割以上が女性支店長となり、女性役員も7人おります。新入社員を見ても総合職の構成は男女半々になっています。

 その意味で、先ほど言ったように証券ビジネスそのものがSDGsに親和性があることに加え、その中でも大和証券が取り組んできたことは、SDGsを先んじていたということです。

―― そういう新しい制度を導入した場合、現場の反発もあるでしょう。どうやって浸透させたのですか。

中田 新しい制度を入れても使ってもらえないと意味がない。ですからその過程においては強制力を使うこともあります。19時前退社を導入した時、多くの支店長はどうせ元に戻ると斜に構えていましたが、当時の社長は支店長に対し、「絶対守れ、守らないと次の居場所はない」と強制的に19時に帰らせた。でもそうすることで、社員の働き方が変わっていき、今ではパソコンを最終ログオフするのは18時半前後になっています。

―― 就職人気も高くなっているようですね。

中田 直近の『週刊東洋経済』の調査では、4位と過去最高になりました。昨年からは若手社員に対して奨学金の立て替えも始めました。

 というのも昨年2月に支店で社員と話していたら、奨学金の返済が大変だと言うのです。それで調べてみたら、2・7人に1人が学生時代、奨学金を受け取っているそうです。

 そこでいったん、会社が立て替えて返済し、給料も上がる6年目から、無利子で分割返済してもらうというものです。

 でもこれにしても、19時前退社にしても、就職人気を考えたわけではありません。奨学金立て替えは、若手に仕事に集中してもらうためですし、19時前退社も無駄な残業をなくして全体の業務を効率化させることが本来の目的です。

 でも導入したら、結果として子どもを定時に保育園に迎えにいけるといった副次的な効果が出てきています。しかも、それによって生産性が落ちるといった弊害も出ていません。

短期より長期的利益に目を向け始めた投資家

―― 話をSDGsに戻すと、昨年、推進委員会を設置し、中田社長が委員長に就任しました。具体的にどんなことを経営に盛り込んでいくのですか。

中田 まだ始めたばかりですが、外部から有識者3人を招いて議論をしています。今やろうとしているのはボトムアップ的なアプローチです。

 SDGsのような取り組みは、トップダウンで企業としてこういうものを目指そう、となるケースが大半ですが、これをボトムアップでやっていく。そのために社員を対象に「自分たちなら何をやりたいか」とアイデアを募ったところ、1500以上の応募がありました。

 これを本業の収益につながるもの、寄付するもの、などにカテゴライズして、それぞれにチームをつくり、さらに議論をしてもらいます。そうやって下から上がってきたものと、推進委員会で考えているものをうまくアジャストさせて具体策やその詳細項目を決め、ゴールとKPIを設定するつもりです。

 ただし拙速には進めません。SDGsのゴールは2030年です。そこまでの長い視点でアクションプランやターゲットを明確にしていきます。そしてそれを21年から始まる次期中計に組み込んでいきます。

―― 環境(environment)、社会(social)、企業統治(governance)に配慮している企業を重視・選別して行うESG投資に対する関心が高まっています。どのように取り組んでいますか。

中田 ESG投資は、例えば、アセットマネジメントビジネスの中で投資信託などの商品をつくっていますので、ESGに資する銘柄群でポートフォリオを組んで商品を組成しているほか、数多くのグリーンボンドを引き受けるなど、ESG債の普及を推進しています。また、先ほど言ったように、国内の個人向けインパクト・インベストメント・ボンドの販売シェアは5割を超えています。

 その一方で、当社も上場会社として、ESGを重視する機関投資家の投資対象にもなっています。当社としてはESGの外側にSDGsがある、と理解しています。つまりSDGsにしっかり取り組んでいれば自然とESGにつながります。実際、当社の株式はESGを重視した投資家から評価をいただいており、複数のESGインデックスに採用されています。

―― 短期的利益を求める投資家はどう見ているのでしょう。

中田 随分と変わってきたように思います。18年はリーマンショックからちょうど10年でしたが、振り返るとその直前のゴールドマン・サックスのROEが30%超あったのを筆頭に、アメリカの投資銀行のROEは軒並み20〜25%に達していました。

 これはレバレッジを効かせた短期的な収益主義にとらわれた結果で、リーマンショックで破綻を迎えた。これをきっかけに、もう少し長期的なビジョンでサスティナブルなビジネスモデルに取り組むようになってきました。

 もちろん以前より収益は下がります。投資銀行のROEは5〜10%になりました。しかし収益×年数を比較したら、サスティナブルなビジネスモデルのほうが結果として多くなるのではないでしょうか。5千億円の利益を数年間だけ上げるよりも、1千億円の安定した利益を数十年にわたり上げていくという考え方です。

 アメリカのブラックロックは世界最大の資産運用会社です。そのCEOのラリー・フィンクが、昨年1月に世界の大企業のCEOに当てた手紙が話題になりました。この手紙は当社にも来ましたが、そこには「企業が持続的・長期的成長をするために、社会の潮流に適応し、財務パフォーマンスだけでなく、すべてのステークホルダーに価値を生み出すこと」と書かれていました。まさに短期的な収益主義にとらわれず、長期的なビジョンを持って経営に取り組んでほしいというわけです。

 アメリカの資産運用会社のトップが、こんなことを言うほど、サスティナブルな収益主義への転換が起きているということです。

中田誠司氏

「短期利益を求める投資家の態度も変わってきた」と語る中田誠司氏

 

社会的課題の解決のため新分野へ参入する大和証券

 

―― そうなると、証券会社の事業領域も変わってくるのではないですか。

中田 現に変わってきています。昨年10月には大和フード&アグリという会社をつくりました。

 昨年発表した中計では、伝統的な証券ビジネスを核としながら、外部ネットワーク、周辺ビジネスの拡大・強化によるハイブリッド型総合証券グループとしての「新たな価値」の創出を目指しています。

 フード・アグリ分野に事業領域を広げるのもその一環です。そのために外部から優秀な人材を招きましたが、そのうちの1人は既に農地を集約してトマトを栽培し、全量を大手食品メーカーに出荷するというトラックレコードを持っています。日本の課題のひとつに、農業の生産効率の低さがあります。小規模農家や高齢化などがその理由です。

 そこで農地を集約し、アグリテックを活用すれば飛躍的に生産性が上がります。幸い日本の農業はキラーコンテンツになるほど世界的に評価が高い。生産効率を上げれば、収益も上がるし、新たな雇用も生まれます。

―― 証券会社が農業ですか。

中田 われわれがやろうとしていることは日本の社会的課題の解決です。農業もそうですし、中小企業の後継者問題にも取り組んでいます。昨年7月に、大和エナジー&インフラを設立し、再生可能エネルギー事業への投資を強化したのもそのひとつです。

 ただし社会的課題の解決といっても、社会奉仕ではありません。ビジネスとして取り組むことによって社会的価値と経済的価値を両立させることができる分野なら、やる価値はあると思います。SDGsにおいてもそれは同じです。

 

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