マネジメント

主要ストラクチャーは資産買収、株式取得、合併

 異なる国の当事者間で行われるクロスボーダーM&Aは、今日では一般的なものとなっています。最近でも、東京エレクトロンと米アプライドマテリアルズの経営統合や、三菱UFJフィナンシャル・グループによるタイ・アユタヤ銀行の株式取得などの大型案件が目を引きます。M&Aの中でもクロスボーダー案件に焦点を合わせ、その留意点について今回と次回の2回に分けて解説したいと思います。

 M&Aの主要なストラクチャーは、資産買収、株式取得、合併の3つです。ビジネス面や法務面からの検討に加え、会計・税務上の影響についても専門家と相談の上、メリットとデメリットを比較し、案件ごとに最適な方法を選ぶことになります。

 資産買収では、対象となる資産を特定して買主が売主からその資産を購入します。買主側のメリットとしては①必要な資産のみを選択できること②原則として売主の債務を承継しないこと--が挙げられます。一方、買主側にとっては①資産ごとの移転手続きが煩雑となること②移転する契約の相手方などの第三者の同意が必要となること③事業に必要な許認可を改めて取得しなければならないこと--が、売主側にとっては、売却益に対する課税が問題になり得ることがデメリットです。資産の移転に必要な登録などの手続きの有無、許認可の取得の難易度や必要な期間などについては国ごとの検討が不可欠です。

 株式取得では、買主が対象会社の株主から対象会社の株式を直接買い取ります。メリットとしては①対象会社ごと買収するため手続きが単純なこと②第三者の同意や事業上の許認可の取得が不要な場合が多いこと(支配権の変更が生じる場合に、相手方の同意を必要とする契約があったり、当局の承認が必要となったりする場合もあります)--が挙げられます。一方、偶発債務を含むすべての債務をそのまま承継する点はデメリットです。そのため、資産買収の場合以上にデューデリジェンス(DD)が重要になります。

 合併では、買主側の会社と対象会社を1つの会社に統合することにより対象会社を買収します。日本法上、日本と外国の会社が直接合併することはできないと解されているので、買収側が対象会社と同じ国に子会社を設立し、当該子会社と対象会社を合併させることになりますが、合併の具体的な手法、認められる対価、手続きなどは国ごとに異なるため、その国の弁護士の関与が不可欠です。メリットとしては①株式取得と異なり一定の賛成があれば対象会社株式を100%取得できること②資産ごとの移転手続きが不要であること③第三者の同意や事業上の許認可を取得する必要がない場合が多いこと--が挙げられます。デメリットとしては①対象会社の株主総会の承認が必要になることが多く、特に対象会社が上場会社である場合には手続きに一定の時間が必要となること②株式取得と同様に偶発債務を含むすべての債務を承継すること--が挙げられます。特に②に関しては合併では売主である対象会社の株主は契約当事者とならず、表明保証や補償によって契約で対応できない場合が多いことから、DDでそのような債務がないかどうかを調査することが重要になります。

M&AにはFA、弁護士会計士・税理士が関与

 M&Aにはさまざまなアドバイザーや専門家が関与します。一般的には、ファイナンシャル・アドバイザー(FA)、弁護士、会計士・税理士がかかわり、案件によってその他のアドバイザーが参加しますが、クロスボーダー案件ではより多くの人々が関与する傾向にあります。

 FAは戦略的なアドバイザーとして、対象企業の調査や評価、戦略の立案、交渉の支援などを行います。大手の投資銀行(金融機関)が業務の一環としてFA業務を提供している場合と、FA業務に特化したブティックファームとに大別され、業務分野や各国における強みなども参考にしながら選任します。

 弁護士は、法務アドバイザーとして、法務DD、ストラクチャーについての法的助言、各種契約のドラフトや交渉、法律上必要な届け出などを行うほか、クライアントである会社とその他のアドバイザー・専門家との間の契約をレビューすることもあります。

 会計士や税理士は、会計・税務アドバイザーとして会計・税務DD、ストラクチャーに関する会計・税務上の助言などを行います。会計制度や税制も国ごとに異なりますし、税務面での検討はしばしばストラクチャーに影響を与えます。

 その他のアドバイザーとしては、環境問題の専門家としての環境コンサルタント、人事制度の専門家としての人事コンサルタント、対象事業についての評価を行うビジネスコンサルタントなどが挙げられます。いずれも、各国の制度や実務を踏まえた検討が不可欠であり、特にクロスボーダーM&Aでは、案件ごとの事情に応じて適切なアドバイザーを選任することが重要です。また、上場会社の買収において株主をはじめとするステークホルダーに効果的なアピールをすることが必要となる場合や、外資による買収が対象国においてネガティブな反応を引き起こさないように戦略を立てる必要がある場合などには、PR会社を選任することもあります。

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