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中国リスクが顕在化 電機業界に再び漂い始めた暗雲

ニュースリポート

1月下旬から2月上旬にかけて、電機・電子部品メーカーは一斉に第3四半期決算を発表したが、通期予想の下方修正を行う企業が相次いだ。その原因は中国市場の変調で、昨年末から一気に経済が鈍化した。ようやく復調してきた電機メーカーに、再び暗雲が漂い始めた。文=関 慎夫

中国経済の変調が電機業界に与えた影響は

電機メーカー8社が業績を下方修正

「11月、12月に尋常でない変化が起きた」

日本電産の永守重信会長がこう語り、今期決算での最終利益が期初の最高益予想から一転、前期比14%減になるとの下方修正を発表したのは1月17日のことだった。しかしこれは、電機・電子部品業界の下方修正ラッシュの序章にすぎなかった。

永守重信氏

業績下方修正を発表した日本電産の永守重信会長

1月29日、アルプスアルパインが、最終利益が従来予想の430億円から230億円へと減少すると発表。気賀洋一郎取締役は「12月に入って様相が変わった」と語っている。

次いで1月30日にはTDKが、営業利益が従来予想の1200億円から1100億円になると発表する。

TDKは昨年10月に上方修正を行っている。ところが「11月頃からスマホ向け電子部品の需要が急速に落ち込んだ」(山西哲司・常務執行役員)ため、下方修正を余儀なくされた。また、同日、シャープも、従来予想の営業利益1120億円が、1070億円になると修正した。

2月1日、ソニーが8兆7千億円だった従来予想売上高を8兆5千億円へと下方修正した。それでも最終利益は、従来予想の7050億円から8350億円と大幅増額となる。

しかし半導体事業に関しては、従来の営業利益見通し1400億円を1300億円に引き下げた。また京セラも税引前利益予想を1350億円から1200億円に修正した。第3四半期の3カ月決算では、税引き前損益が赤字に転落したことも明らかになった。

2月4日には、三菱電機が営業利益予想を3050億円から2850億円とした。会見した皮籠石斉常務によれば、「第3四半期の後半にかけて受注が落ちてきた」という。同日パナソニックも、営業利益予想を従来の4250億円から3850億円に引き下げた。「11月からメカトロニクス(産業用機械)が大きく落ち込んだ」(梅田博和CFO)のがその理由だ。

米国との経済戦争が中国経済に大ダメージ

相次ぐ下方修正は、冒頭の永守氏ほか、各社経営幹部のコメントにあるように、昨年11月を境に経営環境が激変したためだ。その原因は、中国経済の変調だ。

周知のように、中国は今、アメリカと経済戦争の真っただ中にある。2年前に就任したトランプ米大統領は、選挙戦中から中国に対する貿易赤字を問題視し、その是正を訴えてきたが、その後も状況が変わらないため、昨年1月、太陽光パネルや洗濯機などに20~30%の追加関税を課したのを皮切りに、3月、8月、9月と3弾にわたり追加関税措置を発動した。

対象は合計で約7千品目、対象金額は2500億ドルに及ぶ。さらにアメリカは、この2月に中国からの輸入品すべてに追加関税を課すと発表したが、その後、米中間の交渉の結果、3月2日まで実施が延期された。

この米中戦争は、中国経済に大きなダメージを与えている。中国の昨年の経済成長率は6.6%と、リーマンショック時以来の低成長を記録した。また第4四半期の成長率は6.4%とさらに減速した。業績を下方修正した企業の多くが、「昨年11月以降、中国での売り上げがストップした」と語っているのと完全に合致する。

多くのメーカーにとって、中国市場の占める比率は年々拡大している。

例えば日本電産なら、中国向けは売上高の23%を占める。これは国内の20%を上回り、地域別では最大のマーケットだ。パナソニックは、中国向けの比率は11%で、国内50%、アメリカ16%に比べれば小さいが、国別では第3位だ。シャープにいたっては、台湾資本傘下ということもあり、その売り上げの半分が中国向けとなっている。中国市場がシャープの命運を握っている構造だ。

しかも電機メーカーの中国ビジネスの大半が、中国国民を対象としたB2Cビジネスではなく、中国企業を相手にしたB2Bビジネスだ。中国の景気が減速し、工業生産額に陰りが見えれば、それがそのまま日本メーカーの減速につながる。

それでも中国重視の電機業界は大丈夫なのか

平成を通じて続いた電機メーカーの試練

日本の電機・電子部品メーカーにとって、平成という時代は苦難の連続だった。この30年間の間に多くの企業が姿を消した。

かつてデジタルカメラで世界一の生産を誇った三洋電機は2004年の新潟県中越地震によって工場が被災したのをきっかけに経営危機が表面化。その後、大幅なリストラを行うとともにゴールドマンサックスや三井住友銀行などから3千億円の資本を受け入れるが、10年に、パナソニックの完全子会社となった。

しかしパナソニックにとっても三洋は荷物となっていたのは、買収後、パナソニックが三洋電機ののれん代減損処理費2500億円を計上したことからも明らかだ。今、三洋の事業でパナソニックに引き継がれているのはエネルギー部門などごく一部にすぎず、白物家電部門は、中国のハイアールに、わずか100億円で売却された。

ほかにもソニーの子会社だったアイワや、オーディオファンが支持した山水電気も今では存在していない。

生き残ったところも大きな犠牲を払ってきた。日立製作所はリーマンショックによって業績を大きく悪化させたため社長が引責辞任。後任に既に会社を去っていた川村隆氏を呼び戻すとともに、重電シフトを鮮明にすることで復活を遂げた。

パナソニックは11~12年度の2年間で1兆5千億円の最終赤字を計上、7年前に社長に就任した津賀一宏氏は、「家電のパナソニック」から「B2Bのパナソニック」に舵を切ると宣言。車載用電池や産業用機械などに経営資源を投入した結果、いまだ利益水準は低いが安定して利益を上げるまでに回復した。

ソニーも赤字が続き、一時は無配に追い込まれた。そこで平井一夫社長(現会長)はパソコン事業から撤退、テレビ事業を分社化、さらには携帯事業を大幅縮小するなどのメスを入れ、代わりにイメージセンサやゲーム事業などを主力事業と位置付けた。その結果、前3月期には過去最高益を記録するまでに復活した。

シャープは自力での再生ができず、16年に台湾の鴻海グループの出資と社長を受け入れ、子会社となった。鴻海により主力事業である液晶の販路が安定したこともあり、17年3月期には営業損益が黒字化、前3月期には最終利益を計上できた。また、鴻海入りした時に東証2部に降格となったが、1年4カ月後には1部に復帰するなど、鴻海による経営改革は軌道に乗った。

そして現在、経営再建への道を歩いているのが東芝だ。歴代社長たちの指示による不正会計事件と、それに続く原子力事業の赤字により、上場廃止の危機にあった。

そこで16年12月に医療分野をキヤノンに6655億円で売却。しかしそれでも債務超過が目前に迫ったため、昨年6月、虎の子だった半導体事業を米投資ファンドなどからなる日米韓連合におよそ2兆円で売却し、危機を脱した。しかし、キャッシュを得るために成長分野を売却したため、今後は次の成長事業を育てる必要に迫られている。

以上見てきたように、電機メーカー各社は、経営危機から脱却するため大量の血を流し、ビジネスモデルを転換してサバイバルをはかり、ここにきてようやくその成果が出始めている。

中国市場にかわる巨大市場は存在しないという認識

ところが、ここにきて成長市場であり、各社とも力を入れてきた中国市場の変調である。「中国は成長市場であることは揺るぎない。重点的に攻めていく地域だ」(梅田・パナソニックCFO)、「三菱電機のビジネスにとって非常に大きなマーケットであり、現時点で中国ビジネスに対する取り組みが変化していることはない」(皮籠石・三菱電機常務)と各社ともに中国市場重視の姿勢は変わらない。

問題は、この米中経済戦争がいつまで続くか分からないことだ。両国の衝突は単なる貿易不均衡ではなく、将来の覇権をめぐるメンツをかけた争いでもある。そのため一時的に中国が折れたとしても、今後何度となく繰り返される可能性は高い。そうなると、中国市場は日本メーカーにとって、常にリスクを抱える市場となる。

かといって中国に代わる巨大市場が突然現れるわけではない。インド市場の成長率が高いといっても、GDP規模は中国の約5分の1にすぎず、代替市場にはなり得ない。そのため米中経済戦争の長期化は、ようやく薄日の差してきた日の丸電機メーカーにとっては考えたくないシナリオだ。

08年のリーマンショックの時もそうだった。

この時、当初は「欧米に比べれば日本の影響は小さい」という見方が支配的で、その後の経済の落ち込みをほとんど予想できなかった。そのため対策が遅れ、電機メーカー各社は瀕死の状態となり、エレクトロニクス業界における日本の地位は一気に低下した。

この危機を乗り越えたこともあり、当時に比べれば、各社とも筋肉質になっている。危機への対応力も増している。

しかし油断は大敵だ。後手を踏めば平成に代わる新しい時代でも電機メーカーが苦戦を強いられることになりかねない。

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