文化・ライフ

トライアスロンに熱中する経営者が増えている。その魅力と企業経営との共通点、仕事に与えるプラス効果などについて、トライアスロン歴8年になるアロバの内藤秀治郎社長に聞いた。

 

取材協力者プロフィール

アロバ内藤氏

内藤秀治郎(ないとう・ひでじろう)福岡県出身。1994年から10年間アクセンチュア株式会社に勤務した後、父親が経営するシンプロメンテ株式会社に参画。2007年に同社社長に就任し、13年に東証マザーズに上場させる。16年に株式会社アロバの社外取締役に就任。17年より代表取締役社長を務める。トライアスロンとの出会いはシンプロメンテ社長時代の2011年。

トライアスロンとはどんなスポーツか?

 

 1974年に米国で発祥。水泳(スイム)、自転車(バイク)、長距離走(ラン)の3種目を1人の競技者がこの順番で行い、タイムを競う。

 レースの距離によって「ショート」「ミドル」「ロング」と種類が分かれており、スイム1.5km、バイク40km、ラン10kmの「オリンピックディスタンス」、スイム0.75km、バイク20km、ラン5kmの「スプリントディスタンス」、スイム4km、バイク120km、ラン30kmの「ロング・ディスタンス」などがある。さらに、ロングディスタンスの中には、スイム3.8km、バイク180km、ラン42.195kmの「アイアンマンレース」も含まれる。アイアンマンレースの半分の距離で競う「ハーフアイアンマン」などもある。

 参考までに、オリンピックディスタンスの場合、一般人だと2時間半から3時間程度が標準タイムで、2時間半を切ると早い部類に入る。プロアスリートでは、2時間を切る選手もいる。

 

トライアスロンが趣味の企業経営者は?

 

 経営者の定番スポーツと言えばゴルフだが、近年ではトライアスロンに熱中する企業トップが増えている。

 有名なところでは、原田泳幸・ベネッセホールディングス元会長、USEN-NEXT HOLDINGSの宇野康秀社長CEO、高島郁夫・バルス社長、本田直之・レバレッジコンサルティング代表、ゼットン創業者の稲本健一氏などがいる。自ら楽しむだけでなく、チームを作って仲間と一緒に参加する人もいる。一度ハマったら、継続してレースに出続ける人が多いのも特徴だ。

 

経営者がトライアスロンに参加するメリットは?

 

経営との共通点―目標設定と戦略構築の重要性

 ただでさえ多忙な経営者が、時間と体力を使うトライアスロンにハマる理由とは何だろうか。

 今回、取材に協力していただいたのは、監視カメラソフトウェア「アロバビュー」で、10年連続ネットワークカメラ用ビューワ/録画ソフトのシェア国内第1位を達成しているアロバの内藤秀治郎社長だ。トライアスロン歴約8年(2019年2月時点)。友人の誘いで渋々ながらレースに参加したのをキッカケに、以降、シーズン中は毎月1度のペースでレースに参加するほど熱中している。

 まず、トライアスロンと経営との共通点について、内藤氏はこう説明する。

 「ゴールに向けて目標タイム内にフィニッシュするために、どうレースを組み立てていくか。経営に置き換えると、たとえば今期は予算がこれぐらいだから、どんな戦略を組み立てるかといったことを考えるのに似ています」

 レース前には、目標設定とそれに向けた計画を立てる。自分のコンディションも考慮して、トレーニングプランを立てていく。

 「次のレースまで準備期間が何日というのはあらかじめ分かるので、それに沿って練習プランを組み立てていきます。自分に足りないピースをひとつひとつピースを埋めていく作業は、経営との共通点が多いと感じます」と、内藤氏は言う。

アイアンマンレース

バルセロナで行われたアイアンマンレースでゴールする内藤氏

状況に合わせた臨機応変な対応が求められる

 先の予測が難しいのも、経営と共通する面白い部分だという。

 「もともと身体を動かすのが好きでしたが、一回たりとも自分の思い通りに行ったレースがないんです。タイムの面もそうですが、どんなに準備して臨んだレースでも、急に調子が悪くなったり、風が強くなったり、予期しないことが必ず起こるんです」

 こうしたアクシデントを乗り越える方法を、選択肢の中から素早く考えなければいけない。

 「たとえば、自転車がパンクすることもありますからね。状況次第でバイクでは抑えてランでまくろうとかいろいろ考えます。かと思えば、得意なランで足が出なくなることもあります。だから、常に臨機応変に対応しないといけません」

時間の使い方が上手くなる

  トライアスロンのポジティブな効果として、時間の効率的な使い方が身に付くことも挙げられる。

 「決めたことはしっかりやるようになりましたね。決断を先延ばしにするとズルズルと長引いてしまいます。早く考えて行動した方がオプションも増えるし、もし間違えたらリカバリーすれば良いので。目標をしっかり決めて、いつまでに何をすれば良いかということを、逆算して決めていく癖がつきました」

 内藤氏の普段の練習スケジュールを聞いたところ、平日のうち2日間は苦手なスイムのトレーニングにあて、約1時間で1500メートルを泳ぐという。その他の日も、室内で2時間程度のバイクの練習を週に1~2回、ランは一カ月かけて100km走るのを目標に、週2~3回行っているという。

 練習で疲れが溜まって仕事に影響しないのかと尋ねると、「疲れるときは疲れますが、1日に何時間も練習するわけではないので慣れました」と、サラリと答える。

 ただ、確かにこれを日常的にこなそうと思えば、1日の効率的な時間配分とオンとオフの切り替えをしっかりやらなければ無理だろう。会食のスケジュールなども、練習の妨げにならないように組んでいるとのことだ。

諦めないメンタルが身に付く

 さらに、メンタル面の大きな変化として、「諦めなくなった」とも内藤氏は言う。

 「寒い日は練習で走りに出るのが億劫だったりもしますが、今は“決めたらやる”という姿勢が身に付いています」

 学生時代からずっとサッカーをやっていた内藤氏だが、水泳は苦手だった。そもそもトライアスロンにハマったのは、初めてエントリーレベルのレースに挑戦した際、プールで行われるスイムの途中で、何度も足を着いてしまった悔しさを克服したいというのも理由の1つだ。苦手克服のために、今も諦めずに水泳の練習を重点的に行っているという。

 また、前述の通り、トライアスロンではさまざまな予期せぬアクシデントが起きるため、それらを克服できなければリタイアするしかない。特に、アイアンマンレースなど長距離の戦いになると、最後は完全に自分との戦いだ。強靭なメンタルがなければ、目標を達成できないのは言うまでもない。

チームメンバーや経営者同士の交流が生まれる

  トライアスロンの場合、レース自体は個人スポーツだが、チームの仲間と切磋琢磨したり、レース後に競技者同士でワイワイと盛り上がるのも楽しさの1つだ。

「自分と向き合いながらも、仲間と協力していく点はマネジメントとも共通します」と、内藤氏は語る。

沼津トライアスロン

沼津で行われたトライアスロンに参加した内藤氏のチーム

 

高みを目指す経営者ほどトライアスロンに投資

 

 内藤氏の印象では、経営者に限らずトライアスロンに目覚めるのは、30代、40代の人が多いとのこと。20代で他のスポーツをやっていた人などが、さらに激しい世界を求めて参入するパターンだ。

 トライアスロンはエンジョイする分にはほどほどの投資で問題ないが、高みを目指そうとすれば他の趣味と同じく投資額も増えていく。

 物事に熱中しやすい性格の経営者の中には、バイクの購入やレース場への移動費などに惜しみなくお金をつぎ込む人もいる。ただ、その分、何かを削ってメリハリをしっかりとつけているケースが多いようだ。

 

まとめ

 

 トライアスロンと企業経営との共通点、仕事に役立つ点を述べてきたが、最初からそうしたことを意識して始めたというよりは、競技を継続するうちに魅力にハマったというケースがほとんどだろう。

 頭が真っ白になるまで全身を追い込んで、ゴールした時の爽快感。そんな極限的な自分との戦いや達成感を味わいたい人種が、経営者にはやはり多いということなのかもしれない。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る