政治・経済

持続可能性やSDGsという言葉をよく耳にするが、日々の食卓においても環境への配慮が求められている。現在、食卓から魚が消える可能性があり、漁業の在り方が問題になっているのだ。水産業の持続可能性が問われる今、世界と日本の意識の違いが問題を深刻化させている。文=和田一樹

 

水産物の持続可能性を問う国際社会

 

ノルウェーサバの乱獲で国際認証が停止

 塩焼き、味噌煮、すし、酢じめ、さらには缶詰など日本の食文化には欠かせない魚、サバ。食用魚として日本人になじみの深いこの魚は、漁獲量の低下から養殖品や輸入品も数多く市場に出回っている。

 サバの輸入といえばノルウェー産が有名だ。ところが1月31日、ノルウェーサバが獲り過ぎにより、国際認証を停止されるというニュースが飛び込んできた。ある調査では、日本のスーパーが扱うサバのうちおよそ7割がノルウェー産という結果も出ており、今後の食卓への影響が懸念されている。

 今回停止された「MSC認証」とは、「サステナブル(持続可能)な漁業」に対して与えられる認証であり、通称「海のエコラベル」と呼ばれている。

 1997年に設立された国際的なNPOが、水産資源の豊富さや、生態系への影響、適法性などの観点で審査・認証を行っている。ヨーロッパでは、海のエコラベルを取得した水産物など、持続可能性に配慮された商品が当たり前に求められる。

 ノルウェーサバは安定した管理が行われ資源管理の優等生とも呼ばれてきたが、国際海洋開発理事会によると2011年に479万トンあった北西大西洋のサバ資源量は、若齢魚の発生不足や乱獲が重なり激減。この状況を重く受けとめ、MSCも認証を停止することになったのだ。

国際認証停止でイオンのサバに急展開

 現在、クロマグロやカタクチイワシなど海の水産資源の約20%が、乱獲状態にあるといわれている。このまま放置していては海洋資源が枯渇してしまう。

 しかしある海産物が、乱獲や環境負荷の大きい漁法で獲られた水産物なのか、環境に配慮されたものなのか、加工・流通・小売りに関わる業者でも見分けるのは難しい。専門業者でも難しいのであれば、一般の消費者が持続可能な漁業による水産物を選ぶことは到底無理な話である。

 MSC認証を取得して商品にラベルを貼れば、一目で持続可能な水産資源を見つけることができるようになる。

 この海のエコラベル、日本ではイオンのスーパーで目にすることが多い。イオンは長年にわたり、持続可能な漁業・養殖業者から水産物を調達する「サステナブル調達」を牽引してきた。取り組み始めた時期は早く、06年の段階でMSC認証商品の販売を始めている。さらに14年2月には「イオン持続可能な調達原則」というグループ全体の調達方針を掲げ、水産物のサステナブル調達に取り組んでいくことを表明した。

 

水産物の持続可能性に対する日本の姿勢と国際社会からの批判

 

国際基準を満たさない日本の水産物認証基準

 日本ではなじみの薄い動きではあるが、欧米の大手小売業者の間では、サステナブル調達の動きは既に一般的なものになっている。

 例えばMSC認証商品の取り扱いを積極的に進める英国のスーパー大手「セインズベリー」は20年までに水産物の100%をサステナブル調達されたものにする公約を掲げている。米国の小売り大手の「ウォルマート」や、高級スーパー「ホールフーズ・マーケット」も水産物についてはMSC認証を含めてサステナブルなものだけを扱う方針を明らかにしている。

 欧米で水産物の持続可能性を重要視する取り組みは00年代半ばごろから大きくなっていたが、12年のロンドンオリンピックがさらなる普及の契機になった。オリンピック村で調達されるすべての食糧は国連食糧農業機関(FAO)の定める持続可能な食糧調達基準が適用され、水産物はMSC認証のものが提供されたのだ。

 さらに16年のリオ大会でも同等の基準が引き継がれた。20年の東京大会では、どのような調達方針が採られるか世界から注目されているが、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が発表した食糧調達基準は、持続可能な社会を目指す国際基準とは大きく異なるものだった。

 国際基準の代わりに用いられる日本独自の認証基準は、FAOの持続可能な食糧調達基準に達していない。仮にロンドンオリンピックの基準をそのまま採用するとしたら、提供できる国内の水産物は北海道のホタテや宮城のカキなど、数種類に限られる。

 国際基準を無視したのは国産の水産物を提供しやすいようにするための意図があるのかもしれない。しかしオリンピックの副産物として、開催国の中で、国際水準に達していない部分を改善させるという機能がある。前回の東京オリンピックの時も、インフラなどが大幅に整備された。今回も水産業の基準を改善するチャンスだったはずだ。

太平洋クロマグロ初競りが批判されたワケ

 漁業の持続可能性に関して、世界との温度差を感じるニュースは今年に入って他にもあった。

 1月5日、豊洲市場で行われたマグロの初競りだ。競り落としたのは寿司チェーンすしざんまいを展開する喜代村。3億3360万円の史上最高値を付けた。喜代村社長の木村清氏は競り終了後、報道陣を前にして「ちょっと、やりすぎた」とコメント。その姿をメディアも盛んに取り上げた。

 日本国内では近年、マグロの初競りが新年の恒例ニュースとして伝えられている。12年から17年までは6年連続で喜代村が競り落とし、いつものあの「すしざんまい」ポーズと木村社長の笑顔が正月の風物詩になりつつもある。

 この初競りの顛末は、海外の主要なメディアにも取り上げられた。しかしその論調はどれも批判的だ。

 例えばニューヨーク・タイムズ紙は、クロマグロが近年の乱獲で絶滅の危機に瀕していることに触れ、加えて世界のクロマグロの漁獲高の80%が日本で消費されることを指摘。さらに、国際社会による絶滅危惧種の保存の努力に日本が従っていないのだと警鐘を鳴らした。

 

日本の水産業は再構築できるのか

 

資源回復の水準で意見が割れる

 こうした海外との温度差による日本の食品業界への不信感を懸念する声も多い。しかしながらあくまで企業の宣伝広告だ。日本がバッシングを受けることに関して喜代村に責任はない。責められるべきは水産外交の在り方である。

 太平洋クロマグロは、14年に国際自然保護連合(IUCN)が、絶滅危惧種に指定。その後、16年には漁獲上限が設定された。太平洋クロマグロというのは太平洋を横断して大回遊するため、各国が足並みをそろえて国際的な枠組みで漁獲を規制しなければ意味がない。

 乱獲状態にあって、資源回復が必要なことは、疑問の余地がないといわれているが、どの水準まで資源回復をさせるかという点で意見が分かれてきた。

 基準について考える時、指標として「初期資源量」という値がある。これは、仮に漁業をしていなかったらどれくらい太平洋クロマグロが存在しているかを表す数値だ。

 一般的には、初期資源量の40~60%が水産生物を持続的に有効利用するのに適切な水準とされている。国連のFAOの定義では、初期資源の20%以下が乱獲状態に相当し、10%以下は資源崩壊と判断されている。

 16年に行われた漁獲規制をめぐる国際的な議論の場で、米国は初期資源量の20%にあたる水準まで回復させることを提案。しかしこれに日本は強く反対した。結果的に、初期資源の6%という暫定的な目標で合意した。これには各国の非難が集中。日本の立場を支持したのは韓国だけだった。

漁業法に持続可能性の文言が盛り込まれる

 繰り返しになるが、FAOの基準で初期資源量の10%以下は資源崩壊だといわれる。そこを目標値に設定する日本の態度は厳しい目が注がれて当然だ。こうした日本の水産外交の状況があるからこそ、すしざんまいのニュースの扱い方が変わるのである。

 しかし、そんな日本の水産業界には希望もある。

 18年12月、70年ぶりに漁業法が改正された。今回の改正の最大のポイントは、持続可能性についての文言が盛り込まれたこと。

 現行の漁業法ができたのは、昭和24年(1949)。戦後の食料難の時代だった。とにかく獲れるだけ獲る。市場に持っていけばいくらでも売れる。そんな時代の法律だから漁業の持続可能性に配慮などなくても当然と言えば当然だろう。

 昨年の改正について、水産資源について詳しい東京海洋大学・勝川俊雄准教授は

 「国際情勢に照らし合わせても、日本の国内事情に照らし合わせても妥当な方向転換といえる。ただ、不十分なところも多く、運用次第で良くも悪くもなる可能性がある」と述べた。

 70年ぶりに手が入った領域には課題はいくらでもあるのだろう。しかし、一歩踏み出したことも事実。食は生きることの根幹だ。オリンピックの外圧だと言われようが、日本の水産業を再構築しなければならない。

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