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「食」による地方創生の効果はどれぐらいあるのか?

日本の「食」最前線

「地方創生」は日本全国の自治体の合言葉だ。人口が減り続け、衰退を続ける地方都市を甦えらせようと、各自治体が取り組んでいる。その大きな武器となるのが、「食」だ。ひとたびブームが起きれば、その食を目当てに観光客が内外から集まってくる。どんな地域にもおいしい料理、魅力的な食材はある。あとはそれをどう売り込むかだ。

地方創生の大きな武器となる「食」

地方に最大の経済効果をもたらすのは、NHKの大河ドラマの舞台になることだとよくいわれる。

例えば、2016年に「真田丸」の舞台となった長野県では、その経済効果は200億円に達したともいわれている。大河ドラマ効果のいいところは、放送された1年間だけでなく、その後もしばらくは続くこと。そのため「我が地元で大河を」と熱望する自治体は多い。

それと並んで、地域振興の大きな武器となるのが「食」だ。

毎年行われるB級グルメの祭典「B1グランプリ」。昨年、一昨年と2年連続で休止となっていたが、今年は11月に兵庫県明石市で再開される。

12年に福岡県小倉市で開かれた第7回大会では過去最高の61万人が参加する大イベントとなり、その経済効果は26億円と推計されている。しかも、経済効果はそれにとどまらない。B1グランプリでグランプリに輝いた料理は、その後しばらくブームとなる。その効果も無視できない。

有名なのが、10年にグランプリを獲得した山梨県の「甲府鳥もつ煮」のケースだ。この鳥もつ煮を目当てに山梨県を訪れる人が増えたこともあり、その経済効果は28億円ともいわれた。つまりB1グランプリのイベントよりも大きな経済効果を生んでいる。3年前にグランプリを獲ったのは千葉県の「勝浦タンタンメン」だが、そのお陰で勝浦は千葉県の人気観光スポットとなった。

日本は小さな国ながらも、各地にさまざまな食材・料理がある。これをうまく売り込むことができれば、国内外から人が訪れ、売り上げが伸びる。

また直接訪問できない場合でも、通販などで購入してくれる。今や日本全国で地方創生に熱を上げているが、食はそのための大きな武器になる。

地方創生と「食」のブランド化

日本全国で進む「食」のブランド化

そこで各地で食のブランド化への動きが活発化している。コメなら「魚沼コシヒカリ」(新潟県)が知名度では一番だが、最近では「青天の霹靂」(青森県)、「ななつぼし」(北海道)、「夢しずく」(佐賀県)、「森のくまさん」(熊本県)なども最高品質である特A銘柄に選ばれるなど、今や群雄割拠の時代に突入した。

海産物では、富山県の「氷見の寒ブリ」や大分県の「関サバ・関アジ」などが有名だが、例えばズワイガニひとつとっても、「松葉ガニ」(山陰地方)、「間人ガニ」(京都府丹後半島)、「柴山ガニ」(鳥取県香住町)、「津居山ガニ」(兵庫県但馬地方)、「越前ガニ」(福井県)、「加能ガニ」(石川県)などのブランドがある。

このほか、牛肉なら「松阪牛」「飛騨牛」「佐賀牛」「但馬牛」など、地域名を冠したブランド肉が昔からある。豚肉なら「平牧三元豚」(山形県)、「TOKYOX」(東京都)、「あぐー豚」(沖縄県)などが有名だ。鶏肉でも「名古屋コーチン」(愛知県)、「比内地鶏」(秋田県)などはよく知られている。

そして最近では青果にもブランド化が飛び火した。「夕張メロン」(北海道)、「九条ネギ」(京都府)、「丹波の黒豆」などは以前からあるが、最近では「博多ナス」(福岡県)、「淡路島タマネギ」(兵庫県)など、地域名をつけた青果を、スーパーなどの店頭でよく見るようになった。

ブランドが確立されれば、消費者はそのブランドに対する信頼性が生まれ、リピーターとなる可能性が高い。それだけに日本全国で同様の動きが起きている。

この農産物ブランド化に大きな役割を果たしたのが、2006年に施行された地域団体商標制度で、地域名+商品名を商標として登録できるようになった。

その結果、前述のような地域名を記した農産物が続出する結果となったが、逆にこれだけあると差別化がむずかしい。単に商標を取るだけでなく、そこにさらなる付加価値をつけなければ、消費者の心をつかむことはできないし、地方創生にはつながらない。

自治体、金融機関が全面的にバックアップ

食のブランド化により最大の成功を収めているのが北海道で、「北海道の食」そのものが一大ブランドとなっており、百貨店で「北海道展」を開けば決まって大人気となる。北海道の観光客は毎年増え続けているが、それも雄大な自然とともに食の魅力も大きい。

そして最近では、食の北海道ブランドは、外国人にも知られるようになり、小樽市のすし屋や函館の朝市には、日本人だけでなく、外国人観光客も数多く訪れる。昨年の訪日外国人観光客数は3100万人。そのうちの7.8%が北海道を訪れた。これは全国8位だが、東京と北海道の間にある東北がわずか1%であることを考えると驚異的ともいえる。

言葉を変えれば、東北地方にもおいしい食材・料理はいくらでもある。これをブランド化することができれば、今後大幅に訪れる国内外の観光客を増やせるということだ。

実際、食を切り口に地方創生を目指す動きは全国で起きている。またこれを、自治体や金融機関、農協などが全面的にバックアップする。

毎年6月に開かれる「地方創生『食の魅力』発見商談会」は年々規模を拡大しており、昨年は2600人と過去最高の人で賑わった。11年の第1回の参加者が500人。それが7で6倍以上に増えたことになる。この商談会を中心になって進めているのが第二地方銀行協会。第二地方銀行の取引先で全国に向けた販路拡大を希望する「食」関連の企業と、食品バイヤーのマッチングを目的に開かれている。

第二地方銀行は、地方銀行の中でも規模の小さいところが多い。地方では企業の資金需要が小さいこともあり、多くの金融機関が苦しんでいる。そこで地元企業の販路獲得のために、地方銀行が汗を流す。これは地方銀行に限った話ではなく、地域に密着する信用金庫の中にも、この手の商談会を積極的に開催しているところがある。

しかし単にバイヤーを紹介するだけでは、大きく成長させることはむずかしい。販路紹介とともに、商品にさらに付加価値を加えるサポート行い、さらには販路を自ら開拓する。

例えば北海道銀行は、関係会社として地域密着型商社を設立、北海道産品の輸出のサポートを行っているが、こうした動きが今後活発になってくるのは間違いない。

農産物・食品と、他の工業製品の違いは、工業製品の場合、いくら気に入ったとしても、その工場を訪れてみたいとは思わない。しかしある食を気に入ったら、必ず現地へ行きたくなる。取り寄せておいしいなら、現地にいけばもっとおいしいのではないかと思い、ある地域の特産品ならそこに出掛け食べ比べをしてみたいとも思う。

つまり、食は人々の行動欲求を直接刺激する。だからこそ、地方創生には最適の手段である。

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