マネジメント

経済が良くない時は、逆に良い時だ

 前回は、米国のフィラデルフィアで始まった都市再生の取り組みについて紹介した。都市の犯罪や頽廃、さらには人種格差の問題を新しいアプリ経済を通じて改善しようという試みである。この取り組みは、今注目を集めるBOP(ベース・オブ・ピラミッド)を新しいフロンティアととらえ、そこに大きなビジネスチャンスを見いだそうという動向と同じように、都市の根本問題を新たなビジネスチャンスととらえ直そうというものである。そして、打ち捨てられた都心の暗部をどのように再生するかは、アフリカでも大きな問題になっている。

 11月の初めに、建築家・隈研吾氏を南アフリカのプレトリア大学に招聘することができた。日本研究センターが進める「クール・ジャパン」プロジェクトの一環で、日本の建築力を南アに紹介しようという試みだった。驚いたことに、プレトリアにあるプレトリア大学本校、ヨハネスブルグにあるビジネススクール、そしてケープタウンのケープタウン大学で開かれた3つの講演会はすべて満員、建築学科があるプレトリア大学やケープタウン大学では300人の会場に350人のキャンセル待ちが出るほどの大盛況だった。

 なぜ、これほど隈建築が評価されるのであろうか。僕は建築が専門ではないが、その原因はミニマリズムや現地主義にあるようだった。すなわち、建物の偉容や賑々しさを誇るのではなく、現地に存在する素材や伝わる技法を利用しながら自然の中に建築を埋め込んでいくという姿勢が受けているようだった。オッペンハイマー夫人は、「禅の精神」が流れていると表現した。確かに、隈さんの建築は竹、土塀、千鳥組、茅葺き等の自然素材や地元のタイル、レンガ、石などを駆使したものが光る。仰々しく飾らない建築が、アフリカをはじめとする世界の人々を魅了しているのだ。

 プレトリア大学の講演で、ある学生が、「従来の重厚な建築と趣向が異なる挑戦的な隈建築が、どのようにして世界に受け入れられるようになったのか」という質問をした。その学生だけでなく多くの参加者が聞きたい疑問だった。

 隈さんは少し考えて、「経済が良くなかったからだ」と答えた。隈さんが自分の建築事務所をはじめたのは1986年、日本経済がバブルに突入した直後だった。その意味でラッキーなスタートだったが、バブルは91年には砕け散り建築業界にはその後20年にわたって暗雲が立ちこめることになった。そうした中で隈事務所が生き残るには、地方の小さな仕事やなるべく安い素材を使う仕事をとっていかざるを得なかったという。その試行錯誤の中で、隈さんは地域に根ざす建築、地域の素材を生かす建築、そして飾らない建築を目指していく。このやむにやまれぬ必死の模索が、21世紀になると実は世界が求めているものと一致したのだという。

 隈さんは、「経済が良くないというのは決して悪いことばかりではない。本当に大事なことを考える時間ができるからだ。何しろ、仕事がないんだから暇だった(笑)」、と会場を沸かせた。

 この話を僕は、自社の不振を日本経済の不振のせいにしてきた日本の経営者たちに聞かせたいものだと思った。経済が悪い時、仕事がない時、仕事から外された時などこそ、イノベーティブなアイデアをじっくり考えられる時なのである。多分、スティーブ・ジョブズもアップルから追放された時に、いろいろ考えていたに違いない。不遇は決して悪いことばかりではないのである。

安倍イニシアチブと都市開発

 現在アフリカでは資源をめぐる争奪戦が激しい。しかし、天然資源はあくまでもそこに住む人たちのものであり、彼らが将来にわたって成長と発展のために使っていくべきもので、植民地的な争奪は禍根を残す。

 今回アフリカにおける日本の建築力に対する人気を見て実感したのは、日本がアフリカで存在感を示し、大きな尊敬を得られる方策の1つとして、アフリカにおける都市問題や都市化への国際支援であった。南アではアパルトヘイト時代の名残としてソエト地区に代表される黒人居住地があり、その貧困と無秩序が大きな問題となっている。そのリニューアルに、隈建築のようなシンプルで現地素材を使った建築が生かされると素晴らしい成果を生むだろう。また、日本が60年代の都市集中に対応して開発したユニットバスやシステムキッチンなどの、大量生産が可能で安価で機能的なインテリアを美しい設計と組み合わせると、それこそアフリカの生活を一変するような社会貢献ができるのではないか。

 現在の安倍政権は、安倍イニシアチブと銘打ってアフリカにおける積極外交を仕掛ける予定である。5千人の留学生やエンジニアの受け入れなどは素晴らしい提案だが、同時に日本の経験を生かした人口爆発に対する解決策の提供も重要な援助だ。日本は高度経済成長の中で、深刻な公害や都市問題を抱えながら、それなりの解決策を模索してきた。いまこそ、この経験を世界と分かち合う時ではないのか。

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