政治・経済

 稀有の発信力を保ってきた自民党の山本一太参議院議員が今年夏に実施される群馬県知事選挙への出馬を表明し注目を集めている。

 ところが、現職知事も現時点で進退を明言せず、4選出馬のチャンスをうかがっていると噂されている。現職知事が立候補を表明すれば、自民党分裂、保守分裂の構図となる。

 地域事情で見れば、現職を中心に築いてきた県政運営とこれを変えようとする山本氏の対決構図ということになる。

 しかし、この群馬県に限らず、全国の他の地方自治体そのものが少子高齢化や東京一極集中によって、税収減や政策転換など危機に面している。

 地方創生をそれぞれが目指す中で新しい発想が求められている。山本氏に、出馬の経緯と新しい地方自治体の在り方などユニークなヒントを聞いた。 聞き手=鈴木哲夫(ジャーナリスト) Photo=幸田 森

 

山本一太・参議院議員プロフィール

山本一太参議院議員

(やまもと・いちた)1958年生まれ、群馬県出身。82年中央大学法学部卒業。85年米国ジョージタウン大学大学院(MSFS)修了。86年より国際協力事業団(JICA)勤務。95年17回参議院議員通常選挙に立候補し初当選。内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策、科学技術政策、宇宙政策)、情報通信技術(IT)政策担当、海洋政策・領土問題担当(第2次安倍内閣)、外務副大臣、外務政務次官、外交防衛委員長、参議院自民党政策審議会長、自民党外交部会長、同遊説局長等を歴任。2019年に実施される群馬県知事選への立候補を表明している。

 

山本一太氏が群馬県知事選に出馬する理由

 

群馬に戻る決断の裏にあった支持者からの言葉

―― 参議院議員から群馬県知事に転身を決断したのはなぜか。

山本 国政を4期、23年以上やってきました。その間、閣僚、副大臣、予算委員長や党の役職も経験し、国会議員としてのやりがいを日々、感じてきました。

 そうした中でも、政治家として終盤のステージで何をするべきかを考えてきました。自身のライフワークである外交安全保障政策や科学技術政策等の分野で国益に貢献することも含め、やりたいことは山ほどあります。

 でも、あるとき、支持者の方からこう言われたんです。

 「例えば衆院に鞍替えして総理を目指すのだったらそれはそれでいい。でも、参院議員としてこれ以上、何をやりたいのか? 例えば、これから防衛大臣や農水大臣として活躍してくれたら、俺たちは嬉しい。でも、山本一太の人生としてどうなんだ。このまま参議院議員を続けるより、群馬県に戻って、地元のために尽くしてほしい。そっちのほうが政治家としてやりがいもあるし、人生として意味があるんじゃないか」と。

―― 随分前から考えていたのか。

山本 今年は参院選と知事選が同時にある年です。数年前からいろいろ考えていたこともあって、支援者の方の言葉は説得力がありました。私のようなタイプの政治家はいなかったからこそ、知事として群馬のポテンシャルを引き出してほしいと。

先進的な地方自治モデルを群馬から発信したい

―― どんな地方自治体の首長を目指すのか。

山本 群馬県のさらなる飛躍と県民生活の向上を目指すのは当然ですが、加えて、群馬県のモデルを先進的な地方自治のモデルとして内外に発信したい。それを日本の地方自治の仕組みや中央と地方の役割分担のスタンダードにしていけるような首長になりたい。

 地域から中央を変えるという流れを作りたいのです。地方創生は容易い仕事ではありませんが、これからは、首長の時代だと確信しています。

―― 具体的には?

山本 まず、今までやってきた外交の経験を生かせると思います。

 例えば、米国の州知事は外交にも積極的です。州知事ほどの権限はないとしても、日本の知事だって、群馬県とカリフォルニア州とか、群馬と台湾、韓国、中国という関係で地域外交を展開できるはず。経済や文化、人的交流を通じて地方自治体の可能性を広げられるはずです。

 今まで培ってきた各国要人との人脈、外交センスを駆使すれば十分、可能だと考えています。群馬モデルの地域外交を、全国の自治体に示したいですね。

 

群馬県知事としての山本一太議員の構想とは

 

群馬県民の新たなプライドをつくっていく

―― 地域外交は、政府の外交をカバーすることもできると。

山本 そう思います。加えて言うと、知事が県のGDP増加とか、県民所得の向上を目標に掲げるのは当然ですが、私がやりたいのは県民の新たなプライドを作り、根付かせること。

 群馬にはいいものがいっぱいあるのに、魅力度ランキングも幸福度ランキングも低い。郷土愛も低い。こういうものをぶち破って行きたい。

 同じ課題を抱える北関東の3県では、東京に引け目を感じている人もいる。でも見方を変えると違う世界が見えてくる。例えば、関東全体を3千万人が住むスーパーシティーだと考える。東京をその中の1つの核だととらえれば、群馬を含む3県も、それぞれ個性を持つ複数の核になる。こうしたポテンシャルを示しつつ、群馬県民の新たなプライドをつくりたいのです。

 私は、群馬を関東全体の中で、最先端のアーティストやクリエーターたちの居住区(拠点)にしたいと考えています。今は多くの人がインターネットで仕事をする時代。どこにいても会議ができるし、提案や資料のすりあわせもできます。事実、実力と才能のある私の友人たちは、パリや香港、軽井沢に住んで、自宅で仕事をしています。彼らは、どこに住んでもいいのです。

 エンジニアやプログラマーなどもそうですね。藤岡市には、“アーティストインレジデンス”というプロジェクトを実施している住民の方がいらっしゃいます。世界各国のアーティストが市内に滞在し、創作に励む。彼らがなぜわざわざここを選ぶかといえば、便利で落ち着きがあり、地域の人との交流も密な群馬という土地に、世界の他の場所にはない魅力を感じているからです。

 こういう流れをさらに発展させて、プログラマーとかエンジニアとかクリエーターを群馬県に呼び集める。群馬にはそれを実現できる条件が揃っていると思うのです。

 第一に物価が安く東京よりも広い家に住める。食べ物もすごくおいしい。物流のコスト面でも首都圏(東京)に近い強みがあるし、何より温泉がある。群馬に住んでもらう前段階として、閑散期に温泉地の旅館に受け入れるとかいろいろ工夫できるはずです。

―― 住環境は大きな武器になる?

山本 群馬県内をくまなく歩き回っていろいろ見ていて思うんですが、バランスがいいんですね。経済成長率も高いし、工場誘致の件数も昨年の1月から6月では全国でトップ。工業の生産額も14位から5位まで上昇している。県民所得の伸びも2009年から15年まで全国で4位です。

 にもかかわらず、地元の方々がよく言うのは「so what」なんです。群馬は中途半端だ、と。だから、もちろんこれからは突出した何かをPRすることも考えなければなりません。ただ、一方でバランスの良さも、もっと付加価値をつけて発信すれば大きなウリになると思います。

茨城、栃木、群馬でベネルクス三国のような枠組みを

―― 地方自治体として、産業での新しい試みを考えているのか。

山本 いわゆるハードの予算、インフラ整備はもちろん必要だし、企業誘致も重視すべきでしょう。しかし、問題はそこにプラスアルファ何をするかということなんです。

 例えば群馬県の農産物を分析するR&Dセンターみたいなものを他の県よりも高いレベルで整備できないのかな、と。

 もともと群馬県はイノベーション力があって新品種の開発で優れています。群馬で作ったリンゴの新品種を他県で生産していたりする。県内にR&D拠点を作ってそこに著名な研究者を集め、他の県と群馬の農産物がどう違うか。群馬と宮崎のキュウリのどこが違うか、トウモロコシでも群馬の高原トウモロコシのほうが北海道のそれより数段おいしいのですが(笑)、なぜそうなのかということを、成分を含めて徹底的に研究する。

 世の中は健康志向で予防医学がキーワードです。群馬の農産物を食べるとこんなにいいことがあるとか、そういう科学的分析をプロモーション部門につなげるサイクルを作る。そこに知事自身の発信力を加えられると面白いですね。

―― 他の自治体との連携などは考えているか?

山本 たかがランキング、されどランキングです。いわゆる北関東3県の茨城、栃木、群馬は魅力度ランキングで最下位レベルに低迷していますが、実はすごい潜在力がある。

 例えば、茨城は農業生産額が北海道についで全国2位。栃木は県民所得が全国で4位。もし知事になれたら、直後に茨城県知事と栃木県知事に会いに行こうと決めています。そしてベネルクス三国みたいな枠組みを提案し、共通の課題に当たる(注・ベルギー、オランダ、ルクセンブルクの3カ国。いずれも立憲君主制で小国。大国に対抗するために緊密な経済協力を行っている)。

 例えば農産物の輸出問題。実は、福島原発事故の影響で、中国、韓国、台湾は北関東3県の農産物の輸入を、まだ止めています。ここは3県の知事が協力すればいい。

 3人で政府に働きかけ、3人で中国等にも足を運ぶ。標的を絞ってアプローチすれば、きっとビジネスチャンスを開拓できるはずです。

山本一太氏

群馬県の良さを引き出すと語る山本一太氏

 

ネットを使った山本一太流の群馬県PR構想

 

―― 山本さんはずっとメディアと政治の融合に挑戦してきたが、地方自治でも生かさない手はないのでは?

山本 私にしかできない独自の発信力を駆使して、いままで誰もやれなかったことをやりたい。

 例えばローカル局の群馬テレビなどもネットと組み合わせることで強力な武器になります。私はいま「直滑降ストリーム」というネット番組のプロデューサーとシナリオライターとキャスターを一人でやっています。総理はもちろん、第2次安倍内閣の全閣僚が出演した唯一の番組です。

 群馬テレビに、他県の知事や財界人や文化人やクリエーターなど多くの人を呼び、話を聞き、政策を議論し発信する。ネットTVやSNSとも連動させ、中央の大臣も毎月、番組に呼ぶ。地方自治体が時間を費やして政策の相談や陳情などに毎回、中央の大臣のところに足を運ぶという概念自体を変えたい。地方自治体と中央省庁の立場をそんなところからも対等にしていきたい。

 このネット時代、知恵と行動力があれば誰でも発信の拠点を作れることは、私自身が実践して証明してきました。県庁に動画を作る部署くらいはないとダメだと思います。

―― 県庁内にスタジオができるかもしれない(笑)。

山本 知事自身が群馬県の農産物や名産品などを販売する番組を作ることにも挑戦してみたい。もし、毎回、知事が登場すれば、群馬県の経済人はみんな見ます。日銀の前橋支店長もチェックせざるを得ないでしょう(笑)。

 このPR戦略をネットやCS放送などにも展開する。誰もやったことないから、絶対話題になります。その番組に直結する流通部門のセンターを作ったら雇用も生まれるじゃないですか。それを英語でもやる。群馬テレビとネットを結びつけて海外にも発信する。コンテンツは私(知事自身)ですから、出演者の予算はゼロですよ(笑)。

―― 地方自治にはあらゆる可能性があることが証明される。

山本 もちろんいま全国の地方自治体が抱えている課題は多い。少子高齢化が進んで税収減になり、自治体が消滅してしまうという予測もあります。群馬県の財政も実はかなり厳しい。財政調整基金がどんどん減っているんです。財政健全化も考えつつ、県政を進めていく必要がある。県民のみなさんと一緒に厳しい課題に向き合うこともしなければなりません。激動する時代の中で長く国会議員を務めてきた経験は、ガバナー(知事)としての仕事に生かされると信じています。でも、同時に大きなプレッシャーも感じています。大臣はいわば政府という会社の部長。最後に責任を取るのは社長である総理です。今度は自分自身がCEOを目指すのです。覚悟を持って、この挑戦を乗り越えていきたいと考えています。

 

この春に実施される統一地方選挙をはじめ、今年全国で行われる首長選挙は自民党分裂選挙が多く見られる。理由は簡単だ。長く安倍1強の自民党政権が続き野党が相変わらず弱いと、やがて今度は自民党内の身内の争いになって行く。群馬だけではない。しかし、安定政権は同時にそこに緩みや既得権益の固定化を生む。むしろ党内にライバルや意見が違う者が出現し、争うことで緊張感が生まれ為政者もまた成長する。山本氏が、硬直化した地方自治に対し、分裂と言われつつも挑戦することを私はむしろ政治の活性化と前進のために「良し」とする。(鈴木哲夫)

 

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