国際

成熟社会を迎え、子どもの教育、就職、働き方など、さまざまな面において、これまでのやり方が機能しなくなってきた日本。難病を抱えながら息子とともにハワイに移住し、事業家として成功を収めたイゲット千恵子氏が、これからの日本人に必要な、世界で生き抜く知恵と人生を豊かに送る方法について、ハワイのキーパーソンと語りつくす。

 

松本吉弘氏プロフィール

松本吉弘氏1

(まつもと・よしひろ)1975年生まれ、栃木県出身。日本で飲食業界にいた2001年に枝魯枝魯本店の評判を聞き来店。オーナーシェフの枝國栄一氏と交流を深め、枝國氏と同店の顧客だった陶芸家の伊藤南山氏がハワイに出店するのを機にハワイに移住。ハワイでは珍しい懐石料理店「南山枝魯枝魯」でシェフとして活躍している

 

南山枝魯枝魯の松本吉弘氏が料理人としてハワイに来た経緯

 

枝魯枝魯が創り出す懐石料理との衝撃的な出会い

イゲット 南山枝魯枝魯(なんざんぎろぎろ)の 松本シェフです。いつ頃から料理人になろうと思ったのですか?

松本 小学生ぐらいからです。中学1年の時、「将来の事を考えましょう。図書室にいろんな本がありますから」と言われて書いたのが、学校の先生と料理人でした。

イゲット そのころから料理が好きだったとか?

松本 作るのは好きでしたね。家が栃木の田舎の兼業農家で、母がかなりちゃんとしている人で、祖母はおっかない人、野菜とかは買わないで、田んぼで取れたものを食べていましたね。父は公務員で学校の先生をしていました。

イゲット 新鮮な野菜に慣れているんですね。

松本 あんまり記憶はないんですよね。タルタルソースが出てきた時の事は良く覚えています。マヨネーズなど、子供が喜ぶようなものは滅多に出てこなかったですね。

イゲット 本格的に料理人を目指すようになったのは?

松本 大学に通っている間からバーテンダーをやっていて、当時知り合いになった町の顔役みたいなお兄さんが独立すると言うので、そこのバーレストランで働きだしたのが飲食業に入った最初でした。ただ僕はお酒が飲めないので、バーで一生食っていける自信はなかったんです。

大学を辞めて、バーテンダー、レストランと務めていた時に、枝國栄一さんという方が、枝魯枝魯本店をオープンして、評判を聞きつけたんです。それが枝魯枝魯との出会いでした。

イゲット 枝國さんは料理人なのですか?

松本 オーナーシェフです。京都も東京の店も彼の料理だし、フランスも半分は彼の料理です。初めて来店した時丸坊主のお兄さんが、もう鬼の形相で仕事をしていたんですが、僕の目の前に来るとニコっとして、胡麻豆腐やトウモロコシのすり流しの説明をしてくれたのを覚えています。

胡麻豆腐は食べたことがないし、トウモロコシのすり流しがお椀で出てきたりして、目の前で作ってくれる懐石料理がとても新鮮でした。懐石料理というと法事でしか食べたことがないから「美味しい」と思って食べて、そればっかり。

イゲット (笑)。衝撃的だったのですね。

松本 7坪でカウンター12席だけの店で、料理を作っているところが丸見えの店でした。これだったら一生やれるなと思ったんです。

店名の由来は枝國氏の「枝」と魯山人の「魯」

松本 枝魯枝魯という名前は、枝國さんの枝に、魯山人の魯で枝魯枝魯。その店はもうありません。枝國さんがパリに行きたいという想いがあったので、今はパリと京都を行ったり来たりしていて、ハワイには1月、3月、年度末に顔を見に来てくれます。

イゲット 枝魯枝魯に「南山」が付いたのは後からなのでしょうか?

松本 ハワイだけですね。南山さんという方が、枝魯枝魯のお客様で、その方も出資する形でハワイに出店しました。

イゲット 陶芸家の伊藤南山さんですね。

松本吉弘氏2

枝魯枝魯を来訪し、衝撃を受けたという松本氏。

ハワイに住むきっかけは新婚旅行

イゲット なんでハワイに住みたいと思ったんですか?

松本 最初は新婚旅行で来ました。シェラトンのワイキキの25階で、ダイヤモンドヘッドビューの部屋でした、カーテンを開けた瞬間に、「わぁー!」「キレイ!」って思いましたね。

さらに次の年にはビッグアイランドに行って、キラウエアで同じぐらいの衝撃を受けました。そこからもう、毎年ハワイに行くのが絶対条件でした。

枝國さんがパリに行きたいというので、完全に京都のお店を僕がやるんだろうなと思っていたんですが、ハワイで店を出せるかもしれないと考え始めたのは、ハワイのある寿司・居酒屋さんにご飯を食べにいった時のことでした。

僕としては小料理屋さんみたいな印象で、ちゃんとした料理で器にも気を使っていて。どこへ行っても独立して自分で店をできるような人たちが3人もいるカウンターっていうのは強いなと思ったんです。

それで、いい意味で値段が高い。気持ちよく払っている人はいっぱいいると思ったし、話し込んでいろんな事を聞いてるうちに本気になってきて、京都に帰ってからもハワイの事ばかり考えていました。

当時、伊藤南山さんが自分の陶器を使ったお店を、ハワイで持ちたいと考えていたようなんです。それで「こういう男がいる」と、枝國さんから伊藤南山さんの話をされて、最初は「ふーん」みたいな感じだったんですけど、徐々に本気になってきて実現しました。本当にラッキーでした。

 

枝魯枝魯の懐石料理スタイル

 

全部を計り納める枝魯枝魯の懐石料理

イゲット 懐石料理スタイルって最初はハワイではすごく珍しかったですよね。

松本 懐石料理はありそうでなかったですね。レストランの中で、コース料理を置いているお店は増えてきましたけど。

懐石って何?と言われたら、アメリカ人は大体「リレーションシップ」と言います。美味しい美味しくないはお客さんが決める事。季節と料理の関係性だけが僕の根っこにあります。

イゲット それを理解してもらうのに、時間がかかりましたか?

松本 かかりました。「お寿司ないの?」って今だに言われますよ。

「シャリは使う事があります。でも、ほぼないですね」と言うと「どういう事?」と尋ねられるので、「6コースで大体1時間半、58ドル」という感じで説明します。

毎月来て貰いたいというコンセプトがあるので、メニューは毎月変えています。お客様と人間関係を構築して、「また会いにいこう」と思ってもらえるようにしています。

イゲット 自分で毎月6コース考えているのですか?

松本 そうです。

イゲット 材料は日本と全然違うと思うのですが、どのように準備をしているのですか?

松本 できるだけハワイの食材を使って料理します。懐石にとって季節というのは圧倒的に大事なので、何品かはやはり分かりやすい季節の食材を準備しますね。それで58ドルに落とし込みます。

 塩加減とかだけじゃなく、それらを全部合わせて僕は料理だと思っています。それが枝國さんとか枝魯枝魯で教わったことです。

京都の味をハワイで提供する

イゲット 外国人に受けなかったメニューはありましたか?

松本 絶対受けなかったものは無いです。白子を使う事もあるし、ハモも目の前で骨切りをしているし。ただ、内臓系は小さめにするとか、天ぷらにするといった工夫はしています。駄目な人もいますが、これが京都で出しているものですよというのを言ってあげないと失礼になってしまいます。彼らは京都から来た料理屋のご飯がハワイにあるから食べたいのでしょうから。

 味については「ハワイ流に濃くしてるの?」と聞かれることもありますが、それはしていません。出汁の付け方、味の付け方、出汁のひきかた、胡麻豆腐の練り方、ソースの作り方、醤油の割合など、完全に京都で習ったことそのままです。

松本吉弘氏PHOTO3

南山枝魯枝魯の懐石料理はできるだけハワイの食材を使っている

 

南山枝魯枝魯の今後の課題とは

 

イゲット 飲食業は1年で結構潰れてしまうケースが多い中、10年近くずっとハワイでやっていますよね。お客さんはどういった層が多いのでしょうか?

松本 日本人も含めて、住んでる人が6割強ですね。

イゲット 観光客もいるのでしょうか?

松本 西海岸から来る人はとても多くて2、3割はいます。そういう人たちで予約がほとんど埋まることもあります

イゲット 何で調べてくるのでしょうか?

松本 フェイスブックやインスタではなくて、小さくてマニアックなコミュニティがあって、そこで結構いい感じに言って貰えているみたいです。それを見て、ヨーロッパからもちょくちょくお客様が来ますよ。

イゲット あとはWEB予約ができるようにすることですかね

松本 それがまず課題の1つですね。ドタキャンもあるし、遅刻もあるし、早めに来たりもあるし。

お店の回転率としては 2回転または2回転半を考えているんです。WEB予約を入れるとそれが根本的に変わって、1回転に減ってしまう。そうなると料理の値段が変わってしまうので、どうしようかと考えている所です。

松本氏とイゲット千恵子氏

イゲット 今後の目標は、次の手を考えることという感じですかね。

松本 そうですね。「お店をどうしたいのか」「常連さんを維持できるか」「値段が高い、安い以外の部分を考える」とか。

イゲット ハワイでは、値段が高くても払う人は払う印象です。

松本 枝魯枝魯は「安くて美味しくて良いもの」を、どこまでいけるかでできた組織だし、僕も枝國さんもそのような考え方をしています。ハワイに来て、高くてまずくても、流行る店があるという概念を覚えました。

イゲット 食がエンターテインメントというか、そこに行くのがイベントだったりするんでしょうね。

松本 58ドルでも100ドルでも150ドルでもそんなに変わりません。300ドルぐらいになってくるとまた違いますが。

そこを踏まえたうえで、南山枝魯枝魯はどうするか、という事を考えなければいけないと思います。

 

(いげっと・ちえこ)(Beauti Therapy LLC社長)。大学卒業後、外資系企業勤務を経てネイルサロンを開業。14年前にハワイに移住し、5年前に起業。敏感肌専門のエステサロン、化粧品会社、美容スクール、通販サイト経営、セミナー、講演活動、教育移住コンサルタントなどをしながら世界を周り、バイリンガルの子供を国際ビジネスマンに育成中。2017年4月『経営者を育てハワイの親 労働者を育てる日本の親』(経済界)を上梓。

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