政治・経済

東日本大震災から8年が経ち、被災地は少しずつ日常を取り戻している。その一方で、決して取り戻せないものもある。福島県の主力産業である農水産物、そして廃炉の状況、立ち入り禁止区域での将来における街づくりなど、復興の現在と未来に向けた取り組みを追った。

塩ノ崎の大桜

福島の観光名所として有名な塩ノ崎の大桜(福島県提供)

 

福島の産業―農業、雇用はどう変わったか

 

廃炉への道筋から新産業を創出する試み

 東日本大震災やそれに伴う、福島第一原発事故による避難者数は、発災直後47万人を数えた。

 それが8年の歳月を経て、数としては大幅に減ってはいるが、今も5万4千人(2018年12月現在)もいる、という事実を考えると、復興の道のりは険しい。

 5万4千人の避難者のうち福島県は4万3千人と最も多い。

 福島第一原発によって避難指示が出されていた地域も除染により、少しずつ解除されてきてはいるものの大熊、双葉の全域、浪江、富岡の各町をはじめ飯舘村、葛尾村、南相馬市の一部など今も帰還困難区域は広く、仮に戻ってよいと言われたとしても、これまでの生活やこれからの仕事、子どもの教育、地域の未来を考えると戻る、戻らない、の決断は難しい。

 とはいえ、帰還困難区域を含めて、福島県は今、未来を模索し前に進もうとしている。

 例えば、浜通り地域は津波と原発事故というダブルの被害を受けたが、この地域の産業を新たに創出し、持続的な雇用を生み出すために、福島復興再生特別措置法による国家プロジェクトの「福島イノベーション・コースト構想」がスタートしている。

 地域にとっては今も最大のリスクである廃炉作業や、それを支えるロボット技術などに関する研究開発。浮体式洋上風力発電やバイオマスエネルギーの実証施設などの再生エネルギー関連産業の集積など、先端的な取り組みが行われ、農水産業の分野でも、環境制御型施設園芸の導入や水産研究など先端技術による産業再生の取り組みが行われている。

 今後、帰還困難地域が解除されたのちにも、しっかりと雇用を生み出される地域となる以上に、産業集積や新たなチャンレンジを行うことができる地域として、世界から大学や研究機関、ベンチャー企業を呼び込み、浜通りだけでなく、福島県全体の未来をつくるプロジェクトになっている。

 福島県は2020年に開催されるオリンピックの聖火リレーの出発地であり、野球、ソフトボールの開催地でもある。

 また、オリンピック、パラリンピックの会場で走るバスは浪江町でつくられた水素で走る予定にもなっている。これまで経験したことのない原子力災害という悲劇をも利用しながら地域の再生をはじめているのだ。その一方で、これまで福島の産業の主役ともいえた農業はどうなったのだろうか。

福島県の避難指示区域

福島県ホームページより作成

 

地位を取り戻す福島の農業

 福島県の主力産業である農業もまた着実にその地位を戻してきた。

 東日本大震災の前、10年の福島県の農業産出額は2330億円。この数字は全国で11番目の額になる。

 ところが、震災の翌年には、1851億円にまで落ち込む。現在では、農業出荷額は戻りつつあり16年に2077億円、全国で17位にまで戻している。

 しかしその裏では、玄米に関しては今も全量、全袋検査を行っており、食品衛生法に定める一般食品の基準値(100bq/kg)を超える値は検出されていない。

 さらに検査を通ったラベルが貼られ安全が保証される。しかし、こうした安全、安心のアピールなしでは、まだまだ受け入れられないのが実情であり、今も農家の苦労は続いている。

 消費者の目で見ることのできない放射能への恐怖は分からなくもない。検査を必要とするものへのそもそもの抵抗感もあるだろう。

 ただ、思い込みによる風評被害もいまだに強い。それは国内もそうだが、中国、韓国、台湾などの近隣諸国も顕著だ。これらの国は、福島県を含めた1都7県からの農産物の輸入を認めていない。

 ただ、昨年の安倍首相と習近平国家主席の会談をきっかけに中国が新潟県の米の輸入を認めはじめているだけに、今後の展開が期待される。もし、解禁されれば、その強力な後押しとなるのが、福島県産品のクオリティだ。

 例えばコメ。2月末に日本穀物検定協会が発表した18年産の米食味ランキングで、福島県産のコメ4種類が最高品種の「特A」を獲得。特Aの獲得数は2年連続日本一の快挙で、選ばれたのは会津産コシヒカリ、同じくひとめぼれ、中通り産ひとめぼれに加え、浜通り産のコシヒカリも選ばれた。

 コメ以外にも特産の桃やメヒカリ、アンコウなども人気だが、こちらも定期的に自主検査を行い、安全を確保してから出荷されている。

 その一方で、まだ出荷制限のある作物があるのも事実。産地によっては山菜や野生のキノコ、一部の野菜や果物が流通できないでいる。とはいえ、市場に出てこないのだからスーパーに並ぶ心配も飲食店で食べる心配もないはずだ。

 味などの品質において実力がありながら、抵抗感から需要が伸び悩んでいるのが実情だが、そのお陰でお得に手に入る、というラッキーな面もある。

 楽天市場やヤフーショッピングなど、福島県産の農産物をECサイトで購入できる「ふくしまプライド便」は、メヒカリなどの魚や桃、ブドウなどの果物、福島牛、川俣シャモなどの肉類、野菜やコメと名産品がお値段も手ごろに手に入る。18年6月から翌年1月12日までに売り上げ16億円を突破しており、隠れた人気になっている。

 また、被災直後から、福島県産品を応援する飲食店の“がんばろう福島”応援店も継続中。これも既に2千店を突破し、農産物の風評被害の払拭に一役買っている。被災地への想いを風化させないためにも行く、行けないなら食べる、飲むことはできるのではないだろうか。

福島県の農業

福島県の農業(農林水産省のデータより作成)

 

福島原発廃炉に向けての取り組みと現在地

 

応急処置から長期作業へ

 8年前の3月11日、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の地震が発生し、福島第一原子力発電所も大きな揺れに襲われた。

 当時、1号機から3号機は運転中で、4号機から6号機は定期検査中。運転中の1、2、3号機はすぐに緊急停止したが、非常用のディーゼル発電機によって炉心に関しては冷却を行うことができていた。

 ところが、その約50分後、10メートルを超える津波が押し寄せ、原子炉のある敷地のほぼ全域が水浸しとなり、ポンプなどの設備とともに発電設備も使用ができなくなった。

 それは核燃料に対する冷却機能を失うことでもある(2号機だけはその後約3日間注水が可能であった)。冷却できなくなった燃料棒は水面から露出し、その結果、1号機から3号機のすべてで炉心融解(メルトダウン)が起こる。それにともない水素ガスも発生、1号機と3号機、加えて3号機の排気によって水素が充満した4号機の建屋でも爆発が起こった。

 建屋で水素爆発が起こったことで大量の放射性物質が放出、拡散され、未曽有の大事故につながったことはご存じのとおりだ。

 現在、応急的な対応から長期にわたる廃炉に向けての作業へと移っている。その完了までには事故の発生から30年以上の時間を要する予定。では、廃炉までの進捗状況はどうなっているのだろうか。東京電力ホールディングス福島第一廃炉推進カンパニーの木元崇宏氏を訪ねた。

核燃料の取り出し作業

 今も、これからも重大なリスクである核燃料については、使用済み燃料と原子炉内でメルトダウンを起こした燃料デブリ(融解した燃料)がある。

 プールに入った使用済み燃料の取り出し作業については今まさに行われている途中だ。既に14年12月には4号機内の燃料は取り出され、4号機は事故当時原子炉に燃料が無かったので、リスクもなくなっている。

 この3月末からは3号機内の使用済燃料を取り出す予定で20年度には終了する見込み。1号機については、「水素爆発の後、がれきが散乱したので放射性物質が舞わないようにカバーをかけました。当然、それでは作業が進みませんので、2年前にカバーを取りまして、現在はがれきの撤去を行っている状況です。同様に、2号機は、水素爆発こそなかったのですが、逆に建物の中に放射性物質がこもった感じになっており、建屋の前に部屋をつくりまして、そこから建屋内の壁に穴をあけて、遠隔でなかの放射線量などを計測している状況です」(木元氏)。

 1、2号機のいずれも使用済み燃料の取り出しは、23年度に開始予定になっている。問題はデブリで、溶けてしまったことで、その固さや広がり具合など、何も分かっていないので、遠隔ロボットを使いながら中の状況を確認し、状態を把握しているところだ。

 なかなか進まない理由としては、やはり半減期まで30年かかるセシウムなどの放射性物質の存在があり、各号機それぞれで原子炉内に残るデブリへのアクセス、がれきの状況など状態が異なり、状況に応じたロボットを作成することが必要であることが大きい。30年、40年かかるといわれるこの作業、道筋は険しいが、今年度中にはどの号機の、デブリをどのような方法で取り出すかを決定する予定だ。

福島第一原発3号機(爆発後)

震災直後の3号機(写真提供:東京電力ホールディングス)

福島第一原発3号機

現在の3号機(写真提供:東京電力ホールディングス)

放射能による汚染対策

 地下水を汚染させないように土を凍らせて遮水壁をつくっているといったニュース報道を覚えている方も多いだろう。放射能によって汚染された水を海に流さない取り組みのひとつだが、汚染水を例に挙げると対策はおおきく3つ行われている。

 まずは「汚染源を取り除くこと」。地下に貯まった汚染した水をタンクに移していたが、放射線物質も多量に含まれていたことでタンク自体が放射線源になっていた過去がある。その放射線をトリチウム以外は低減できる多核種除去設備(ALPS:以下アルプス)によって現在は1ミリシーベルトまで低減している。

 2つ目は、「近づけないこと」。雨はやがて地下水となるが、敷地内に流れ込むことによって汚染されることを防ごうとする。先ほどの凍土壁もそうだが、敷地より前に地下水を汲み上げ、敷地内でも土壌への浸透を防ぐためにフェーシングといわれるモルタルで土を覆うことも行われている。

 3つ目は「漏らさないこと」。海側にも凍土壁を設け、汲み上げた水はタンクに入れた後にアルプスで浄化して、地元漁協との取り決め以下の数値でなければ、海へ流すことはない。

 先ほどのフェーシングや放射線源になっていたガレキの処理も進めたことで構内の放射線量は一部を除いて低くなった。

 木元氏によると「放射線源を減らすためにさまざまな取り組みを行いました。防護服もその一つです。ご存じかもしれませんが防護服では放射線を防ぐことはできません。役割としては放射性物質に触れないようにし、広げないようにすることが目的です」といい、続けて、「おかげで構内全体が見渡せる建屋から100メートルほどの高台も、かつては防護服が必要でしたが、今はマスクも手袋も必要なくなっています」とのこと。これもまた意外に知られていないことではないだろうか。

労働環境

 線量の低下は当然ながら労働環境にも影響した。現在、4千数百人の作業員が働いているが、「特に夏場は熱中症の問題もありましたから、給水所や休憩所も設置していましたが、厳しい環境でした。構内は30度を超えると作業禁止にしておりますので、夏場などはほぼ日中の作業ができないため、夜間に作業を行っています」(木元氏)被ばくの状況も、月間の線量限度が1.67ミリシーベルトのところ、19年1月は平均0.31ミリシーベルトと余裕がある。

 しかもこれまでは、20キロほど離れたJヴィレッジを拠点に原発までの行き来を要していたものが、15年の7月に大型休憩施設ができたことで、構内で温かい食事がとれるようになり、コンビニエンスストアやシャワーも設置されたことで随分便利になったという。

 最後に、2月の末に政府の地震調査委員会によって、東北地方の太平洋側における今後30年以内にM7クラスの地震が起こる確率が30%以上あると発表された。これについて福島原発の地震対策を聞くと、備えとしては新たな防潮堤の設置や建屋の開口部分の閉止工事、メガフロートの移設などを進めているという。

 現在、福島原発は見学も行っており希望者も多いという。こうした見て、知ることも福島の復興につながっていくのではないだろうか。

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