マネジメント

 ブランドは一朝一夕にできるものではない。長い時間をかけてユーザーの信頼を獲得し、高い付加価値を提供することでユーザーの満足を得ることで初めてブランドが確立する。特に美容や健康の分野では、安全性や効果が求められるため、よりむずかしい。しかしMTGはその分野で、いくつものヒットブランドを生み続けている。起業から20年強の企業になぜそれが可能なのか。松下剛社長に聞いた。

松下剛・MTG社長プロフィール

松下剛氏

まつした・つよし 1970年生まれ、長崎県五島列島出身。高校卒業後、愛知県に移りデンソー入社。94年に中古車販売業を始め、96年MTGを設立。「ReFa」や「SIXPAD」などのヒットブランドを次々開発。昨年7月、東証マザーズに上場した。

 

MTG創業とブランド開発企業になるまで

 

上場によって起きた変化

―― 昨年7月に東証マザーズに上場しました。それによって何か変化はありましたか。

松下 何よりうれしかったのは、社員およびその家族が喜んでくれたことです。ほかにもいろんな紹介が以前よりも増えていますし、入ってくる情報の質も上がってきました。それと、株主の大事なお金を預かっているということで、社員の責任感、緊張感も増しています。それも上場効果です。

―― MTGの創業は1996年。松下さんが25歳の時ですが、その2年前、23歳で中古車販売の会社を立ち上げています。松下さんは現在48歳ですから、既に人生の半分以上を経営者として生きてきたことになります。学生時代から、将来は独立しようと考えていたのですか。

松下 私の場合、少し特別で、小学校5年生の時に自分が養子だと知りました。その時から、親に言われたわけではないですが、自分の食い扶持は自分で稼ごう、親の負担をできるだけ減らそうと、子どもながらに考えるようになり、パンダウサギやニワトリを育てて販売するといった商売を始めました。

 中学生になる頃には、将来、会社を経営しようと決め、一緒に働こうと仲間を誘っています。彼は今もMTGで活躍しています。高校卒業後は愛知県に出て、デンソーに勤めました。ここで起業資金を貯め、23歳の時に中古車販売業を始めました。当時の若者にとってクルマを持つことが夢だった。そこでクルマを売ろうと考えたのです。

ブランディングなしではグローバルには戦えない

―― それがどういう経緯でブランド開発カンパニーにつながっていったのですか。

松下 起業して1年半後には、新規事業に取り組み始めました。愛知県は製造業の集積地です。しかも焼き物などセラミック産業も盛んです。そこで最初はセラミックを使った活水器の代理店販売を行い、その後活水器メーカーに転身。販売先も最初は住宅設備会社でしたが、のちに訪問販売会社へと変わっていきました。

 その後、海外に行く機会が増えると、技術的には日本製品のほうが優れているのに海外製品に負けているケースをよく目にするようになりました。そこで技術だけでは勝てない、マーケティングとブランディングにもモノづくりと同等の力を入れていかないとグローバルな競争には勝てないことに気づいたのです。

 そこで10年ほど前から、クリエイション、テクノロジー、マーケティング、ブランディングの4つを軸足にしたモノづくりを意識するようになりました。

 その中から生まれたのが、累計1千万本を突破した美容ローラーを中心とした「ReFa」や、トレーニングギアの「SIXPAD」、スキンケアブランドの「MDNA SKIN」です。

 

世界のスーパースターがCMに出演した理由

 

未上場だからこそできたチャレンジ

―― SIXPADではサッカー界のスーパースター、クリスティアーノ・ロナウド、MDNA SKINでは世界の歌姫、マドンナをブランド・パートナーに起用しています。これによって両ブランドの認知度は飛躍的に高まりましたが、どうやって世界のトップスターを口説いたのですか。

松下 ロナウド、マドンナは数多くの企業と契約していますが、その中でMTGは最も小さい会社だそうです。でもだからこそ、ブランドを世界に展開するために2人を起用したかった。

 マドンナはビューティのアイコンで、世界中の誰もが知っています。一方、ウェルネス、スポーツの世界ではロナウドを知らない人はいない。しかもこの2人は商品企画や経営にまで深く関わっています。それは奇跡だと、海外でもよく言われます。

 2人の共通点は先進的な商品、革新的な商品、絶対的差別化商品への興味が極めて強いことです。デザインにもこだわりを持っている。

 しかもお金だけで動くのではなく、商品、ブランドの持つフィロソフィーや企業の考え方を重視しています。つまりは商品とフィロソフィーの掛け算です。それが2人の考え方と一致したので協力してもらえたのだと思います。

―― 普通は最初から無理だと考えアプローチさえしません。

松下 マドンナに最初にアプローチした時は、売り上げが100億円にも届いていませんでした。それでもあきらめずに交渉を重ねた結果、引き受けてもらえました。

―― 交渉するには準備もかかるし資金も必要です。企業規模もまだ小さい。リスクが大き過ぎませんか。

松下 MTGは昨年上場しましたから、2人に交渉した時は未上場でした。でも未上場だからこそ、徹底的に挑戦を続けていきたいと考えていました。

 仮に今、ロナウドやマドンナを起用したいと言ったら、株主のみなさんはどう思うでしょうか。そんな無謀なことはやめろと言われかねません。未上場だったから思い切りチャレンジができました。

 もっとも当時でさえ、信じていない人はたくさんいました。「あのマドンナ? 究極の詐欺じゃないのか」とも言われました。交渉している相手は本物ではなく、だまされているのではないか、というわけです。ですから実際にマドンナと契約できた時は、とても驚かれると同時に、大変喜んでもらえました。

 ただし大切なことは、マドンナと契約できたから認知度が高まりブランド力が上がり、商品が売れるということではないことです。認知度が上がれば上がるほど商品力が重要になってきます。

 MDNA SKINの商品にはイタリアのモンテカティーニ地方のクレイが使われています。モンテカティーニには2千年前から利用されている源泉があり、肌との親和性が極めて高く、医療にも使われています。

 これを現地で市長と交渉し、世界で唯一使用を許されました。このクレイに日本のテクノロジーで付加価値をつけて世界にないものに仕上げていく。そういうプロセスがあって初めて「MDNA SKIN」というブランドができ、お客さまに喜んでもらうことができるのです。

ロナウドの理論を使いSIXPADを改良

―― SIXPADは電気で筋肉を刺激するEMSです。過去にも何度かブームを起こしています。それとどう違うのですか。

松下 EMSは実際に効果のあるいい技術です。ところがこれまでは学術的な裏付けがされてきませんでした。そのため誇大広告とられかねない商品もあり、それが「本当に効くのか」という不信感につながっていました。

 だからこそ私たちは本物の商品をつくりたいと考え、世界中の研究者を探したところ、森谷敏夫・京都大学名誉教授と巡り合いました。森谷教授は40年間にわたりEMSの技術研究をしてきた世界的権威です。その森谷教授に本物をつくりたいという私たちの思いを伝えたところ、共感していただき、40年の研究の成果を提供していただけました。

 その一方で、ヨーロッパのアスリートの間では、常日頃からトレーニングの一環でEMSを取り入れていました。ロナウドも当たり前のようにEMSを使っていた。だからこそロナウドは、EMSで世界一の商品をつくりたいという私たちの思いに共鳴し、開発段階から関わってくれました。

 われわれが試作したものをロナウドに使ってもらう。さらには休憩の重要性などが含まれたトレーニング理論を提供していただきました。

 その理論に基づき、当初20分だったSIXPADのプログラムは23分になりました。つまり森谷教授の世界トップの研究と、ロナウドの世界一の肉体をつくったトレーニング理論、そしてMTGの技術の3つが融合してSIXPADは誕生したのです。恐らくSIXPADは世界一エビデンスのあるブランドです。

SIXPAD

クリスティアーノ・ロナウドが開発段階からかかわった「SIXPAD」

 

―― MTGは自らをブランド開発カンパニーと位置付けていますが、松下さんはブランドをどう定義しますか。

松下 ブランドとは何かとクリエーターに質問すると100人が100人違う答えをすると言われています。それほどブランドという定義づけはむずかしい。そこで私は付加価値が高く、お客さまに期待していただき、その期待をさらに超えた商品であることだと考えています。さらには安心感。あのブランドなら安心と思っていただけるかどうかも重要です。

 例えばReFaは美容ローラー市場の中で一番高い商品でした。発売当時、こんな高いものが売れるのか、と多くの人から言われました。でも実際にそれを決めるのはお客さまです。もし納得していただけなければ2度と買ってはもらえません。逆にいくら高くても、それ以上の価値を提供できれば、お客さまは支持してくれる。

―― 美容ローラーの価格はピンキリで、安いものは1千円前後で買うことができます。一方ReFaは2万円以上します。それでも売れているのはそれだけの理由があるわけですね。

松下 ReFaはベアリングひとつとっても全く違います。肌に当たる部分はプラチナコーティングされています。これは見た目の付加価値だけでなく、肌に優しく金属アレルギーの方にも使っていただける。

 さらにはデザイン、パッケージなど、すべてに関してこだわりをもってつくっています。その思いがあるから、お客さまも大事に使い続けてくれる。私たちにとってうれしいのは、ReFaを複数買いしてくださっているお客さまがとても多いことです。これはお客さまが満足してくれているということだと思います。

 

MTGの今後のブランド戦略とは

 

それぞれのブランドが会社に発展する可能性

―― そうしたブランド戦略により、一つ一つのブランドの認知度は上がっていますが、その一方でMTGという社名はそれほど目立っていません。会社のブランディングをどう考えていますか。

松下 MTGはブランドを生み出す会社です。今はMTGがすべてのブランドを手掛けていますが、将来的にはブランドごとが会社に発展していくかもしれません。

 例えばLVMHの下にルイ・ヴィトンやモア・ヘネシーがあるイメージです。LVMHのことは知らなくても、ヴィトンを知らない人はいません。日本でもユニクロとGUが同じ会社であることを知らない人はたくさんいます。

 われわれもそういうように、複数のブランドを展開していけば、「これもMTGだったのか」といった具合にMTGの社名は自然に発展していく。ですから今は、それぞれのブランドを育てていくことに力を注いでいます。

テクノロジーを強化し新たなブランドを開発

―― 今後はどのようなブランドを立ち上げていきますか。

松下 われわれは今後もブランド開発カンパニーであり続けます。そのため既存のブランドの磨きをかけるとともに、さらに新しいブランドをリリースしていきます。

 今はビューティ&ウェルネスを中心にブランド開発を行っていますが、それぞれの概念が大きく変わってきています。

 例えばビューティなら、今までなら化粧品を使ってメークをするというのが一般的で、身体の外からのアプローチでした。ところが最近は、ヨガやジョギング、あるいはアロマテラピーなどもビューティの領域に入ってきています。われわれも体の外および中から、ビューティ&ウエルネスに貢献していきたいと考えています。

 それと今後さらに重要になってくるのがテクノロジーです。AIやIoTの活用を加速させ、本格的な開発を進めていきます。ビューティ&テクノロジーの分野に新しいテクノロジーを取り入れることで新しい付加価値、新しい機能を提供していきます。そのためにも、若い人たちが今まで以上に活躍できる会社を目指します。新卒で入ってくる若い社員は、スマホが体の一部になっています。この感性は非常に重要で、それをブランド開発にも反映させていく。そしてビューティに関しては女性の活用は欠かせません。つまり20代と女性社員がチャレンジする会社にすることができれば、MTGはさらに成長していきます。

 私は以前から、バトンタッチするまでにMTGを1兆円企業に育てると言い続けています。そのためにも、社員が活躍できる場を提供していきます。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る