マネジメント

今やブランド開発が、地方創生には不可欠だ。そのためあらゆる地域で、ブランドづくりが行われている。その競争は激しく勝ち抜いていくのは至難の業だ。ではどうやったら、地域ブランドを人気ブランドに育てていくことができるのか。地域ブランドに詳しいブランド総合研究所の田中章雄社長に聞いた。

取材協力者プロフィール

田中章雄氏

田中章雄(たなか・あきお)ブランド総合研究所社長。 1959年生まれ。東京工業大学理学部卒。日経BP社に入社し雑誌記者、新雑誌の企画、新事業開発などを担当。開発部次長、調査部次長、日経BPコンサルティング調査部長、日本ブランド戦略研究所代表取締役社長などを経て、2005年ブランド総合研究所を設立した。

 

国によって異なるブランドの定義

 

―― ブランドとはなかなか定義がむずかしい。田中さんはどう定義しますか。

田中 ブランドとは消費者の評価です。価格が高く手に入りにくくてもほしいもの。それがブランドの定義です。

 もともとブランドは、ヒツジの焼き印を意味していました。つまり手間をかけても差別化するだけの付加価値があるものです。安くなければ買ってもらえない、というのはブランドではありません。

 ただし、国や地域によって、意味するものが違ってきます。例えばアメリカで調査をした場合、ブランド力で圧倒的トップに立つのはマクドナルドです。

 そして2位がコカ・コーラ。つまりアメリカ人はシェアの高いものに対してブランド力を感じる。商品そのものというより、それをつくりだしたシステムを評価する傾向があります。

 ところがヨーロッパは全く違います。マーケットシェアとブランド価値はほとんど関係なく、歴史や信頼に重きを置いています。

 例えばロイヤルコペンハーゲンのように、王室御用達や貴族が愛用しているといったところに価値を認める。歴史のあるヨーロッパと、まだ200数十年の歴史しかないアメリカとでは国の成り立ちが違います。それがブランドの定義にも影響しています。

―― 日本の場合はどうですか。

田中 日本で最初にブランドが注目されたのが1970年代です。百貨店がヨーロッパのブランドを競って仕入れるようになったのです。

 当時のブランド品はヨーロッパからの舶来品と同義でした。その後、国産品についてもブランドという言葉を使うようになりましたが、ここで言うブランドは全国で販売され誰でもが知っている商品です。

 つまりナショナルブランド(NB)だけがブランドで、町工場でつくったものや、地方の特産品はブランドとは呼びませんでした。その部分では、アメリカと共通しています。

 

地域ブランド開発が進む背景

 

―― その後流通各社がプライベートブランド(PB)商品をつくるようになりました。今ではPBは企業の業績を左右するまでになっています。

田中 PBの場合、最初は価格訴求型でした。NBと同等の質の商品を、安い価格で販売することで人気を集めました。

 でも今のPBはそうではありません。ものによってはNBよりも高い商品もあります。多少高くても、それだけの価値があれば消費者は手に取ってくれます。

―― 本当の意味でのブランド価値が出てきたわけですね。一方で日本全国で地域ブランドの開発が進んでいます。地域ブランドは地方創生の成否のカギを握っているとまで言われています。

田中 その地域にある資源を活用して、魅力ある地域へと成長させる戦略です。

 昔は「北海道ブランド」のように、非常に大きなくくりでしたが、今では範囲が狭くなっています。例えば以前なら「沖縄」でくくられていたものが、どの地域なのか、どの島なのかがブランドの大きな要素となっています。

 そうした状況下で、地域ブランドを成功させるためにはどうするかといえば、一番簡単なのは差別化を訴えていくことです。

 一次産品の地域ブランドで、有名なのが夕張メロンや松阪牛ですが、夕張メロンの場合なら、赤い果肉が一番の差別化ポイントです。

 夕張メロンが、日本で生産されるメロンの中で一番甘いわけではありません。しかし、あの赤さと、さらにはその種を農協の金庫で厳重に保管しているといった要素が加わって、夕張メロンのブランドが確立していったのです。

 松阪牛も同様です。松阪牛は黒毛和種という品種ですが、日本の黒毛和種を遡れば、ほとんど同じ牛に行き着きます。

 ですから、近江牛でも神戸牛でもDNA上の違いはありません。それでも他のブランド牛より松阪牛の知名度が高いのは、ビールを飲ませて育てるといったようなユニークな飼育法が国際的にも有名になったからです。

 一方、伝統工芸品の場合は、その製作工程を厳格化することで、ブランド力が上がります。輪島塗なら、素材にこだわるだけでなく、124もある工程を守って初めて輪島塗を名乗ることができるのです。それがさらなる価値を生んでいます。

 

地域の人たちだけが知らないブランド価値

 

―― 愛媛県今治市のタオル産業は、中国産タオルに押されて危機的状況にありましたが、「今治タオル」とブランド化したことで復活しました。

田中 今治タオルは、吸水性にすぐれるだけでなく、赤ん坊にも安心して使える安全性も魅力のひとつです。

 今治タオルのブランド化にあたってはデザイナーの佐藤可士和さんが関わったことで知られています。佐藤さんに依頼したのは、ユニークなデザインを求めてでしたが、佐藤さんは品質こそが差別化だと言って、無地のタオルを提案しています。結果的には、それが成功しました。

 私が関わったものに、飛騨高山の家具があります。この地方は古くから家具の産地として知られていますが、一時は、工場を人件費の安い中国に持っていく企業が相次いでいました。

 そのため、「家具フェスティバル」を開催しても、そこにある家具の多くが中国産ということもありました。これでは未来はありません。

 そこで、飛騨高山の家具の定義を決め、この地域で製造したものにかぎる、10年保証をつける、デザイン憲章、環境憲章を定め、これを順守している企業にだけ、金色のシールを貼るようにしたところ、人気を回復することができました。

―― 今治タオルもそうですが、安さを追求するのではなく、高くしたことが人気につながった。

田中 ブランド化とはそういうことです。高くてもほしいという商品を出していく。実際、そうしたところだけが生き残っています。

―― とはいえ一次産品でも工業製品でも、ブラッシュアップして輝く製品がもとからあればいいですが、多くの地方では、特産品がないという現実があります。

田中 そんなことはありあません。その地域の人たちが気づいていないだけで、外から見れば魅力的な商品はいくらでもあります。

 例えば古くからの産業が今に続いているとしましょう。今もあるということは、何かしら差別化されたものがあるということです。

 ですから、そこを見つけて磨いていく。そしてその部分をうまく発信していく。そうすれば、地域ブランドとして輝くことができるはずです。

 

【マネジメント】の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る