政治・経済

政策通。官僚出身(財務省)で経済政策などにも明るい。永田町でのイメージどおり、今国会で国民民主党の玉木雄一郎代表が質問に頻繁に立ち、安倍首相や閣僚に迫る場面が多く見られた。一方で、野党の一員として玉木氏が負う重要な仕事は参院選へ向けての野党結集である。野党各党各会派、連合幹部らとの一対一交渉を続けているが、「なぜあいつに会うのか」「どっちの味方か?」など心無い批判も受ける。しかし玉木氏は「結集のために、じゃあ誰が動くのか」と意に介さない。常に緊張のある民主的な政治状況を生み出すために野党結集で自民党に対抗する勢力を作るしかないと信じている。そんな玉木氏に、政局と併せ、アベノミクスからの転換や安倍長期政権の歪みなどを聞いた。Photo=幸田 森

玉木雄一郎氏プロフィール

玉木雄一郎

たまき・ゆういちろう 1969年生まれ。香川県出身。93年東京大学法学部卒業後、大蔵省(現財務省)入省。97年米国ハーバード大学ケネディスクール修了。2005年財務省主計局主査を最後に財務省を退官、第44回衆議院議員総選挙に香川2区から初出馬し落選するも、09年第45回衆議院議員総選挙に再び香川2区から挑戦し初当選。民主党副幹事長及び政策調査会副会長、民進党幹事長代理などを歴任。18年国民民主党代表に就任。

 

玉木雄一郎氏が指摘する経済政策の問題点

 

家計第一の経済政策への転換が必要

―― 国会で質問に立つ頻度が凄い。今国会のテーマは何か?

玉木 1つは毎月勤労統計不正の問題ですね。データに基づく政策こそ重要で根っこのデータが違うとそれに伴う政策も間違う。極めて深刻な問題です。特に賃金のデータは重要。年金額もそれで決まる。働く人にも退職された方にも影響が出て、国家に対する信頼が揺らぐ事態といえます。

―― かつて吉田茂元首相は「日本が戦争に突入して行ったのはデータがいい加減だったから」とデータこそ政治と政策の柱と言いましたね。

玉木 私が最も問題だと思っているのは、長期にわたって日本の賃金が下がり続けているということ。

 賃金のデータについて言うと、実質賃金指数は2015年を100としたら1996年を最後にずっと下がり続けています。諸外国は上がっていますが、日本だけが下がっている。この問題を解決しないと日本は豊かにならない。

 企業は業績を上げているし、戦後最長の好景気と言われていますが労働分配率はずっと下がっていて、43年ぶりの低さです。経済政策を大きく変えていく必要がある。

 私は企業対労働者という対立は嫌いです。企業はもちろん潤えばいい。ただ、お金が労働者に十分に行きわたっていない。ここを改めないと、社会は安定しません。

―― 回復基調を労働者がなかなか実感できなかった理由はそこにある。

玉木 企業が稼いで内部留保が多いと言われていますが、結局そのお金を何に使っているかというと、一つは自社株買いです。自社株を買えば株価は上がり、既存の株主は得して、かつ配当性も高まります。でも大企業の株主は外国人が多い。そうすると外国にお金が出ていくし、働く人への労働分配は下がる一方なので実質賃金は下がっている。これではいくら働いても豊かになれない。

 私は“家計第一の経済政策”に変えろと言っているんです。家計を安心できるものにして、消費が安定的に拡大できるような経済体質に変えていくというのが平成から新しい時代に入る日本がとるべき戦略です。

深刻な高齢者の貧困率

―― 具体的には?

玉木 安倍政権はトリクルダウンで企業の利益が上がれば、それが行き渡って全員が豊かになると言ってきたが、そうはいかなかった。

 そこで、直接家計を豊かにする政策として、例えば教育費を軽減するとか、老後の所得が低い人も増えているので、ある程度税負担を増やしてでも最低限暮らしていけるだけの年金額をすべての国民に保障する。つまり最低保障年金を創設するのも方法でしょう。

 今、国民年金、基礎年金の半額は税金です。12兆円くらい入れていますが、そこをもっと拡充すべきです。今、高齢者の生活保護受給者がどんどん増えていて、受給世帯の54%は65歳以上です。今対処しないと結局生活保護ばかり増えてしまいます。

―― 超高齢化社会を分かっていながら政治の取り組みが遅い。

玉木 子どもの貧困問題がよく言われますが、高齢者の貧困の方がもっと深刻なんです。高齢者の相対的貧困率は近年上昇しています。

 高齢者の絶対数が増えている中で、さらに貧困の比率が上がっているということは、ものすごく数が増えているということです。高齢者の貧困率は20%なので5人に1人です。しかも一人暮らしの半数が貯金ゼロ。こういう社会を放置したまま次の時代に行くべきではない。

 二重課税をする気はないけれども、法人税を減税しても、それが働く人や国内の設備投資に回らないというのであれば、法人税は上げてもいい。そのかわり労働分配したり、設備投資したりすれば減税するなど、メリハリをつけたほうがいいのではないでしょうか。

 

消費増税の問題点はどこにあるか

 

「公平、中立、簡素」の原則から外れる消費増税

―― 月例経済報告が下方修正されたが、そんな中で消費税問題が再び浮上するのではないか。

玉木 そのとおりで、2つ目の大きなテーマは消費税です。そもそもの必要性は認めますが、今回のやり方は絶対やめたほうがいい。

 まずは、軽減税率という名の複数税率を入れていることですね。食料品が安くなっていいとか、低所得者対策だとされていますが、全然低所得者対策になっていない。軽減税率の対象は本来10%に上げるものを8%に据え置きますが、それによって約1兆円税収が入ってこなくなる、逆に言うと1兆円分減税しているわけですよね。

 では、その1兆円が誰に行くのか、所得階層別に調べると明確なんですが、年収300万円以下の人たちに行くのはたった11%。90%近くが高所得者と中所得者に行くんです。冷静に考えたら当たり前で、お金を持っている人ほど食料品もたくさん買うからです。

―― 軽減税率は自公両党の間で政治決着した経緯もあり、不備も多い。

玉木 何を10%にして何を8%にするのかが極めて曖昧で恣意的。新聞も家に届くのは8%だけど同じ新聞を駅やコンビニで買ったら10%。家で読んでも電子版だと10%、意味がわかりません。

 税金で一番気をつけなければならないのは、公平、中立、簡素という三原則を守ること。

 誰にとっても税金は嫌なものですが、税金がないと社会が成り立たない。ならばそのときに基本原則が必要で、公平であり、シンプルで簡素、経済体質をねじ曲げない中立性という原則を守りながら、これまでは増税してきた。今回はその原則が全く守られていません。

再分配の機能が上手く働いていない

―― 消費税率アップはそもそも社会保障のためということで国民が納得したが使い道も変わってきている。

玉木 大きな問題は使い道のところもあります。安倍政権は消費税を上げたときに、保育園の無償化に使うと言っていますよね。

 ところが、既に市町村の努力によって、所得の低いご家庭の保育料はほぼ無料なんです。

 だから、今回増税したときに新たに無償化することでメリットを受けるのは、所得が高くて少々高い保育料でもお金を払って通わせている人たちです。消費増税分の内5千億円を使って保育園の無償化をすることになっていますが、結局そのうち半分は年収650万円以上の人たちの保育料をカバーすることになる。

 少し余裕がある方から税金を頂いて所得の低い人に渡すという、いわゆる再分配が財政の本来の重要な機能ですが、今回やっているのはみんなからもらって所得の高い人にもう一回配り直すということなんです。それは税の論理としてもおかしい。

―― キャッシュレスを進めたい経産省主導で、消費税を利用してカードのポイント還元をやるようだが。

玉木 ポイント制度も複雑すぎます。それぞれにポイント還元が0、2、5とあって、5~6種類の値段が同じ財やサービスにつくわけです。

 また、高齢者の方はクレジットカードを持っていなかったりしますし、地方では現金商売もたくさんあります。その分ポイント還元のメリットを受けにくくなります。

 他にもブラックカードのような上限がないカードで、例えば銀座の画廊で絵を1億円で買って、5ポイント還元だったら500万円戻ってくるわけです。さらにその絵を転売して儲けるとか。ポイント還元というのは非常に問題が多い。

 

玉木氏が考える野党結集の必要性とその行方

 

国会の機能が失われつつある

―― 安倍1強の歪みや緩みがさまざまなところに出てきている。

玉木 軽減税率などについて、一部の自民党議員や公明党の議員でさえ私の主張に対して「おっしゃるとおりだよね」と言うんですが、政策として決まってどんどん執行されていくんですね。

 みんながおかしいと思うことが止まらない。今回はたまたま税の話ですけど、じゃあ戦争だったらどうなんでしょう。みんなが絶対おかしいと思うことが止められることなく進んでいくことの怖さ。これがいまの日本の政治の最大の課題です。

 いろんな考えの人が集まって議論することによって問題を発見し、修正していくのが議会の機能です。でも、今の国会は問題発見機能も修正機能も著しく低くなっている。単なる追認機関のように、安倍政権、政府が持ってきた法案をそのまま通してしまう。

 もう一度、議会制民主主義が正しく機能する議会を取り戻さなければいけません。

―― そのための野党結集?

玉木 だから野党が大きな塊になって、選挙で勝つしかないんです。国民民主党は、国民生活を守りたいということと、民主主義を守りたいという2つのことを実現したい。

 国民生活が消費税の増税によってさらに悪化するかもしれない。それを修正するはずの国会の機能が失われつつあって、議会制民主主義の危機ということであれば、この2つをセットで直していかないといけません。

 その方法は、やはり次の参議院議員選挙で野党が力を伸ばして、政権交代まで行かなくともせめて緊張感のある、議論のできる国会を取り戻していくのが第一歩だと思います。

野党共闘は実現するのか

―― 野党共闘で批判されるのが政策の一致はどうかということだが……。

玉木 大企業重視だった経済政策を家計第一の経済政策に変えるということを野党統一の政策テーマとして、この夏の参院選で訴えていきたいですね。

 生活や暮らしに着目した共通政策をしっかり野党間で詰め、それを掲げて戦う。それをこの夏にやらないと、私は日本の民主主義は死んでしまうのではないかという危機感を持っているわけです。 

 私は政策を重視してきた政治家だと自負しています。でも、野党が主張していることを実現するためには、やはり勢力を増やして政権を取るしかない。苦しい時期ですが、貪欲にならないとダメです。

―― 取材しているとまとまらない野党議員の間に私怨を感じる。

玉木 ずっと同じ政党が政権に就いている中で、制度疲労や権力の癒着が起きます。新しい政治をつくりたいと思って、2009年に民主党で頑張って政権交代できたときは本当にうれしかった。

 でも、アイツが嫌いだと喧嘩したり、政策が違うとバラバラになって今日に至っているわけですが、当時もなぜそんなに簡単に権力を手放すのかという思いがあった。今の野党が信頼されない一番の理由は、またこの人たちは喧嘩して別れる人たちだと思われていることではないでしょうか。

 だから私は、融和と和解のストーリーを今後野党間の連携を進める過程で国民に見てもらいたいと考えています。国民の期待に応えることができなかったということにおいては、私も含めて旧民主党のみんなが反省すべきです。

 だからその中で、もう一度国民のための政治をどう実現するのかという大義の中で、結集するしかないんです。

 

なかなか進まない野党結集。そんな中で年明けに国民民主党と自由党が先行して結集へ動き出した。当時玉木氏は私に「前へ進むしかないんです」と語ったが、結集がもはやギリギリのラストチャンスに追い込まれている必死さも感じた。野党結集に対してはすぐに「野合」といった批判が飛び交う。しかし、玉木氏は「自民党の派閥を見てほしい。改憲からリベラルまで政策はあんなに違うが一つの党になって政権に就いている。われわれ野党は派閥のようなもの。そう考えれば野合批判なんか気にする必要はない」。野党の選挙協力はどうなるのか。玉木氏のしたたかな立ち回りに注目だ。(鈴木哲夫)

 

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