テクノロジー

「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」。人類で初めて月面に降り立った宇宙飛行士がそう言ったのが1969年。それから約50年、宇宙ビジネスが盛り上がりを見せている。そしてついに日本からも民間単独で宇宙空間到達を成し遂げた企業が現れた。文=和田一樹

 

堀江貴文氏と民間ロケット事業への取り組み

 

ホリエモンロケットがついに宇宙空間に

 5月4日午前5時45分、北海道大樹町から打ち上げられた小型ロケット「MOMO3号機」は地上を離れて約4分後、高度113.4キロの宇宙空間に到達。民間企業が単独で開発したロケットの宇宙空間到達は国内初。打ち上げから8分35秒後には、発射地点から東南東37キロの太平洋上に着水。その大役を果した。

 歴史的な挑戦を実現したのは、インターステラテクノロジズ(以下IST)。元ライブドア社長で実業家の堀江貴文氏が出資するベンチャー企業だ。

 打ち上げ成功に堀江氏は「宇宙は遠かったけど、なんとか到達しました。高度約113キロメートル」(ツイッターから引用)と喜びを表現。

 稲川貴大・IST社長も打ち上げ後の取材で「新たな宇宙開発の歴史を迎えることができた」と今回の意義を改めて語った。

 2017年7月に行ったMOMOシリーズ初号機の打上実験では、打ち上げ約1分後に通信が途絶え、高度20キロから海上に落下。

 翌18年6月、MOMO2号機で挑んだ打上実験は、打ち上げ直後にエンジンが停止し、機体は落下して爆発。

 この失敗を受け、外部の専門家を含む対策委員会を設立。エンジン内部の設計を見直すなど対策を重ねてきた。

 そして背水の陣で臨んだのがMOMO3号機。全長9.9メートル、直径50センチ、重さ1150キロの液体燃料ロケットで、市販の部品を使うなど開発コストを抑えた。

 当初4月30日の打ち上げを予定していたが、燃料漏れが直前に判明。さらに部品の交換や強風の影響もあり、結局3度延期をした後の打ち上げだった。

 堀江氏はライブドアを率いて世間をにぎわせている頃から既に宇宙への思いを語っている。

 「アポロが月に行ってから随分と時間がたっている。今ならもっと安く飛ばせるはず」(堀江氏)

 05年には民間宇宙開発を目指す組織「なつのロケット団」を結成している。この時、堀江氏を中心にエンジニア、ジャーナリスト、作家らが集まった。その後、エンジン開発など試行錯誤を経て、13年、北海道大樹町に宇宙開発を専業とするISTを設立した。

みんなのロケットパートナーズ

都内で行われた「みんなのロケットパートナーズ」発表会

本格的な商業機への挑戦フェーズへ

 堀江氏が宇宙への夢を諦めないのはなぜなのか。3月19日に都内で行った会見で宇宙ビジネスに参加する理由についてこう語っていた。

 「インターネットの可能性を信じていた時代に似ている。インターネットが普及したことによって、考えもつかなかったような利用方法やサービスが登場した。ロケットによる宇宙運輸サービスも同じで、衛星を打ち上げるコストは現在何十億円とかかるが、この桁をひとつふたつ下げることで、インターネットと同じように、思いもつかなかったようなアイディアを持った人が使えるようになる」

 実際に今、世界で宇宙ビジネスを巡る競争は激しさを増している。

 同じく3月の会見で稲川社長は宇宙ビジネス市場の状況をこう述べていた。

 「18年は世界で250基の超小型衛星が打ち上げられており、今後5年間でさらに2千基以上になるとされる。人工衛星をつくるプレーヤーは多いものの、ロケットの打ち上げ事業者は少なく、大型のロケットに相乗りして打ち上げており、予約待ちで需要と供給が一致していない状態」

 そのため、世界中で安価で小回りのきく小型ロケットの開発が進んでいる。ISTが狙うのも、需要が高まってきた小型衛星の打ち上げ事業への参入だ。

 今回の打ち上げ成功で実験機・MOMOシリーズの打ち上げは終わり、商業機の挑戦にフェーズが移る。今回のMOMO3号機に搭載したのは衛星ではなく、重力などを測定するための実験機器。今後は、小型衛星を搭載できるロケット「ZERO」の開発を加速させ、23年の打ち上げを目指す。

 

民間主導の宇宙ビジネス発展への期待

 

自治体も盛り上がる宇宙ビジネスの求心力

 ZEROの開発はMOMO3号機と同じくIST独自の開発にこだわらず、外部と協力していく。そのため3月からサポートチーム「みんなのロケットパートナーズ」を始動させた。JAXAや丸紅、ユーグレナ、北海道大樹町など既に8つの企業や団体が参加している。

 3月に行われた「みんなのロケットパートナーズ」発足発表会では、丸紅から航空宇宙・防衛システム部長の岡崎徹氏が登壇。「小型衛星の需要は高い」と話し、現場レベルでの宇宙輸送ビジネスの可能性を語っていた。

 一時は、「ホリエモンの道楽」と揶揄されてもいたロケット事業だが、いよいよ大手企業や自治体まで巻き込み、大規模なプロジェクトになってきた。これまで日本の宇宙への挑戦はJAXA頼みだっただけに、ようやく出た民間主導の芽に期待が集まる。

 今後、国内企業の商用化がうまくいくかはロケットそのものだけでなく、発射場の整備の行方にもかかっている。

 実際、今回打ち上げたMOMO3号機の重量が約1トンなのに対し、前述の開発中ロケットZEROは燃料を含む総重量が36トンにも達する。このサイズのロケットを打ち上げるには、現状の大樹町の設備では不十分であり、拡張工事と国の適合認定を受ける必要がある。

 当然、多額のコストや行政手続きが必要になる。ISTは発射場の整備費を集めるために、2年間5400万円で命名権の販売を開始した。

 偉大な飛躍へ、自治体も盛り上がる。

 北海道は打ち上げ成功を受け、5月7日に十勝総合振興局に航空宇宙事業の相談室を立ち上げた。他にも発射場の事業見通しを検討するため、大樹町に加え、帯広市、帯広信用金庫などが企画会社の設立に向けて準備を進めているという。

 今回の打ち上げ成功で鹿児島県の種子島、内之浦に次いで国内3カ所目の宇宙ロケット発射場となった大樹町は宇宙産業の誘致を35年前から進めてきた。悲願の達成は、発射場を拡張する機運の高まりにつながるはずだ。

 酒森正人・大樹町長も4日の打ち上げ後の記者会見で「ZEROを打ち上げられるよう発射場の整備を進める。北海道内外の企業と協力し、国の支援を得ていく」と前向きな姿勢を強調した。

ZERO打ち上げに向け北海道の官民の力を結集

 堀江氏は「ロケットを飛ばすことで関連メーカーが集まり、この町を宇宙港として発展させていければ」と、宇宙ビジネスが地方を盛り上げる可能性を語る。ZEROの打ち上げは、北海道の官民の力をこれまで以上に結集させたものになるはずだ。

 堀江氏はその後、打ち上げ成功からひと段落した5月6日のブログで「ホリエモンは資金を出してるだけで何もしてない、とか悪意のある言葉に傷つくこともあるが一度は社員数千人の上場企業を経営していた身。資金調達や技術者中心のチームビルディングはむしろ本職だし、PR力もある。私が現場でネジを締めるのはむしろ本末転倒であり、ベンチャー企業は適材適所で動かないと余裕がなくなってしまう」(ブログより引用)と心境を語り、最後に「できるだけ多くのご支援をぜひインターステラテクノロジズにお願いします!」とさらなる支援を呼び掛けた。

 明るい話題の少ない日本経済にとって久々の“ロマンある”ニュースだった。

 次の偉大な飛躍に向けての挑戦はすでに始まっている。実業家・堀江貴文の夢は終わらない。

 

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