文化・ライフ

1979年4月7日、「機動戦士ガンダム」のアニメが放送を開始した。あれから40年、ガンダムはその作品の世界観を拡大させながら、熱狂的なファンを世界中に生み出してきた。ガンダムは子ども向けの作品としてスタートしながらも、組織内での葛藤や複雑な人間模様などを描き、大人からも支持を集めた。その証拠に、ガンダムの世界を題材にしたビジネス本が数多く出版された。今回は『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)著者であり自らも大のガンダムファンである労働社会学者の常見陽平氏に、ガンダム世代が歩んだ40年について、ガンダムと共に育った世代の一員として語ってもらった。聞き手=和田一樹

 

常見陽平氏プロフィール

常見陽平氏

つねみ・ようへい 北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業、同大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルートなど複数の企業を経験し、独立。フリーランス活動を経て2015年より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。『社畜上等!』(晶文社)、『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)など著書多数。

 

ガンダムが40年間ファンを魅了し続けた理由

 

多くの人を惹きつける世界観の奥深さ

―― 「機動戦士ガンダム」が40周年を迎えました。

常見 40年続くコンテンツというのはすごいことですよね。私は1974年の生まれなので、79年にリアルタイムで放送があった時はただ動くものを見ていたぐらいの感覚で、当然世界観までは理解できていませんでした。

 その後、一気にガンダムにハマっていったのは再放送の影響が大きかった。「機動戦士ガンダム」は81年から劇場版が公開されたんですけど、その前後の再放送で本格的にハマった記憶があります。当時は私の地元札幌では毎年、再放送をしていたんじゃないかな。同世代もやっぱりみんな見ていて、学校でもガンダムの話をたくさんしました。

 あとは何よりプラモデルですよね。当初は人気で商品が売場に並ばず、全然買えませんでした。何とかやっとの思いで手に入れたのが旧型ザクで、今思えば300円のおもちゃなんですけど、あぁやっと手に入ったぞとすごくうれしかった記憶があります。

 ただそれでもガンダムやシャア専用ザクは全然買えなかったな(笑)。ガンプラの魅力ってあたかもガンダムを設計・操縦している感覚になれることだと思うんです。今回はアニメみたいに子どもっぽい色使いで作ってみようとか、ダークな色で塗ってみようとか、いろんな工夫をして遊んでいました。

 テレビストーリーからどんどん派生するかたちで世界観が広がっていった作品なので、ガンプラを組む時もこれは「機動戦士ガンダム MSV戦記」のジョニー・ライデンのザクだぞとか、シン・マツナガ仕様のザクだぞとか、あるいはジオン公国・黒い三連星モデルのザクだぞとか、サイドストーリーがあって楽しかった(笑)。

 ガンダムって想像力をものすごく刺激する作品で、その世界観の奥深さが多くの人を惹きつけて離さないのだと思います。

―― 想像力を刺激する作品だからこそ40年もファンを魅了しているんですね。

常見 そうだと思います。それに加えて、作品の世界観を広げるのが絶妙で、ファンはそこも楽しかった。ガンダムの世界には「機動戦士ガンダム」から続く「宇宙世紀」という架空の時代を舞台にした作品群がありますが、そういった伝統的な世界観も、「機動戦士ガンダムTHE ORIGIN」や「機動戦士ガンダムUC」という作品で今でも絶えず盛り上げています。

 一方で「機動戦士ガンダムSEED」、「機動戦士ガンダム00」、「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」などそれまでなかった世代や女性のファンを多く取り込み新たなシリーズも生み出している。さらに時にはSDガンダムなど幅広い作風に挑戦していますよね。

 この、ストイックにガンダムとは何か突きつめていく姿勢と、新たに間口を広げていく、そのバランスが絶妙だと思うんです。結果としてガンダムファンはずっと楽しんでいる。

ガンダム世代サラリーマンの悲哀

―― おじさんになってもガンダムに熱狂できるのはなぜでしょうか。

常見 ガンダムって、大人になって世の中を知って、世界史の知識をつけたりすると作品の見え方が変わってくるんですよね。「機動戦士ガンダム」って、一見するとアムロが操縦する連邦のガンダムが正義の味方風に見えますけど、ジオン公国側にも言い分はあるし、そのジオンの中にもいろんな立場があって、じゃあザビ家って腐ったやつらかっていうとそれも言い切れない。彼らなりの立場や言い分、誇りがあるわけです。

 逆に連邦だって一部は彼らのエゴです。そして、組織に巻き取られ新卒一括採用のように戦争に加わっていく若い子たちや、過酷な環境で苦闘する中、アムロが徐々に「僕には帰れる場所があるんだ!」とか言うのってまさに会社員の物語ですよね(笑)。

 ガンダムシリーズは、三国志とか大河ドラマみたいにキャラクターそれぞれに個性があってファンがいる。当時から黒い三連星ファンってたくさんいたし、グフを操縦していたジオンの士官ランバ・ラルやアムロが恋したマチルダさん、もちろん“赤い彗星シャア”とかね。

 ただ、いろんなキャラに感情移入しながらも私たちガンダム世代は社会に出て、戦場のサラリーマンとして働き始めたらみんなジムなんですよ。量産型で、よくやられるジムの姿にガンダム世代のサラリーマンたちの悲哀が重なって見えるんです。戦争ってガンダムとシャア専用ザクだけじゃなくて、その他大勢で進むものです。ジムたち、ザクたちで世界は動いている。時にはコロニーレーザーで溶かされちゃったりするんだけども(笑)。

―― ガンダム世代にとっても40年という月日が経過しました。

常見 月並みな言い方ですけどさまざまなパラダイムの変化を見てきた40年間でした。ただ、見てきたと言うとまるで先頭に立っていたみたいに感じますが、実際は巻き込まれてきたという感覚です。ガンダム世代の中にはそういった社会の変化を目の当たりにしながらも、自分はなかなか変われない、そんな雰囲気の中でもがいてきた人も多いのではないかなと思いますね。

 それから、ガンダム世代の中でも特に「機動戦士ガンダム」に小学生くらいで熱中した世代って、71年から74年の第2次ベビーブームで生まれている層も多いと思うんです。団塊ジュニアとも呼ばれたこの世代にとって、40年という月日は単に40歳年を取っただけじゃなくて、「最後のマス」と呼ばれ消費の対象としてずっと狙い撃ちされてきた時代でもありました。バブルの時代、これから団塊ジュニア世代がお酒を飲み出すぞと、お金をかけたアルコールのCMが派手だったことを覚えています。松任谷由実を起用して、ユーミンの詩の世界を表現した4分の広告を流したりしてましたよね。

 そんな風に消費の対象としてもてはやされる一方で、絶えず「君は生き延びることができるか?」という不安も突きつけられていました。

 私は大学に入学した年が55年体制崩壊の年でした。冷戦構造の緊張感も経験しましたし、やがてバブル景気は弾け、後に就職氷河期と呼ばれる就職難の時代を迎えました。何とか社会に出た年には山一證券の破綻です。当然個人差はあると思いますが、ガンダム世代は同じくらいのタイミングでこうした経験をしています。

 そんな不安定な社会が広がっていく中で、インターネットとかiモードが普及して何か新しい時代が始まる気配を感じてもいました。同世代がIT社長として20代で上場したりと、時代の変化の熱狂と絶望がどちらもあった世代だといえます。

 それから平成というのは、本当はジムなのに自分はガンダムだと思っていられる、そういう自由の罠みたいなものが進行した時代でもありました。

 フリーターとか派遣社員とか、これまでにない働き方として注目を浴び、なんだか自由になれた気がしたんだけど実際はそうでもなかった、そんなジムたちが大量に生み出された時代でした。

 

ガンダム世代の今後の立ち位置とは

 

ガンダム世代を待ち受けるのはどんな社会か

―― 令和時代、ガンダム世代にはどんな社会が待ち受けるのでしょうか。

常見 ガンダムに例えるならば外伝・続編がいっぱい出てくるのだと思います。中には非正規雇用で戦う作品もあれば、ジムよりもっと末端の小隊を描いたようなものもあって、それぞれ多様化の中で生きていく。そんな時代になると思います。

 昨今、「人生再設計第一世代」という呼称が話題になっていますが、ガンダム世代って、従来はロスジェネとか就職氷河期世代と呼ばれた世代と重なるんです。

 就職氷河期っていろんな定義があって、始まりと終わりを明確にするのは難しいですが、90年代前半から2000年代半ばです。中でも特に悲惨なのは、00年代前半に卒業を迎えた世代です。00年に初めてリクルートの求人倍率が1倍を切り、学校基本調査ベースで見ると、00年代前半は就職も進学もしないで社会に出る人が2割前後もいるという時代でした。

 そんな現状を放置してきたわけですからそもそも対応が遅かったとは思いますが、何らかの支援はやらないよりやった方がいい。特に後期、中期ロスジェネくらいの、30代後半くらいの人はテコ入れすればそのまま就職できるかもしれないし、生活が安定すれば結婚、出産できる可能性もあります。だから何らかの手を打たないといけないという総論は同意なんです。そして何より大事なのは、見捨てられる世代がいては社会全体が幸せにはならないということにようやく気がついたということだと思います。

ガンダム世代の役割は大いなる中継ぎか

―― 社会構造的に理不尽な思いをしてきたガンダム世代がこれから担う役割とは。

常見 確かに世代の役割って気になりますよね。今はバブル世代が50代になって、彼らが社会に何を残すのか非常に注目しています。同時に、次はわれわれの世代が50代を迎えます。その時に、一体どんな社会をつくれるだろうって考えることが増えました。考えてみると、われわれガンダム世代って中継ぎとしての役回りかなと思うんです。上の世代と下の世代をつなぐ役割。確かに割を食った狭間の世代だと思います。それでも社会の役割を果たす必要があると思いますから、貢献できる方法は考えていかなくちゃならない。

 74年生まれの松井秀喜さんも73年生まれのイチローさんも現役を引退しました。ほかに同世代では72年生まれの堀江貴文さんとか73年生まれの藤田晋さんとかいろんな人が出たけど、それでもどこか中継ぎ感がある世代なんです。

 結局私たちの世代の立場は大いなる中継ぎ、でもそれでいいんじゃないの? そう思います。もちろんもっとヒーロー、ヒロインが出てほしいですけどね。でも盛り立てる役とか語り部とかそういう役でもいいんじゃないかなって思うんです。

 世界はジムやザクが動かしているわけですから、無理にアムロやシャアを目指さなくてもいいんです。

 

【文化・ライフ】の記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る