政治・経済

 改元がきっかけで急浮上してきた注目の政治家がいる。「令和」の文字を掲げて新元号を発表した菅義偉官房長官だ。

 永田町では、今ポスト安倍に名前が挙がっている。自民党の二階俊博幹事長が「(党総裁に)十分耐え得る人材」と語ったことがきっかけだった。

 菅氏と言えば、一般には毎日淡々と定例会見している地味な官邸の顔といった印象かもしれないが、永田町では、安倍政権の危機管理を全面的に担う一方で、霞ヶ関の官僚を抑え、戦略的で剛腕な政局の舞台回しで知られる存在だ。

 二階氏が名指ししただけではない。新元号の発表直後から、平成を発表した当時の官房長官だった小渕恵三氏が首相になったことを並べて報じられたり、先の統一地方選挙では「候補擁立で選挙力を証明した」(菅氏を支える無派閥議員)ことなども菅氏の名前を高めた。

 その菅氏、元号発表後ニコニコ生放送番組で私との対談に応じてくれた。貴重な単独インタビューでもあり今回はそれを紹介したい。(取材協力・写真協力=niconico)

『経済界』2019年8月号より転載)

 

菅義偉氏プロフィール

菅義偉官房長官

すが・よしひで 1948年秋田県生まれ。内閣官房長官。衆議院議員。法政大学卒業後、代議士秘書、横浜市議を経て96年衆議院選挙で国政に。以後6期連続当選し、総務大臣、自民党選挙対策総局長、組織運動本部長を歴任。著書に『政治家の覚悟 官僚を動かせ』(文藝春秋)がある。

 

菅義偉氏の政治家としての原点

 

―― 「令和」の元号発表の記者会見はさすがに緊張したのでは。

 緊張というよりは気合が入ったというか、気負ったというのか(笑)。前の晩に10分ぐらいですかね、練習したんです。(額を)掲げるときに見えてしまったらまずいので。これが意外に難しくて、私の前の会見台が斜めになっていて、それに合わせると見えてしまうんですね。練習していて良かったと。元号を徹底管理していて最後に見えてしまったらシャレにならないですからね(笑)。

 歴史的な元号発表の瞬間を私がやらせていただいたというのは本当に巡り合わせですね。天皇陛下の生前退位の話があって、新元号発表……。運命というものを感じました。

―― 菅さんの故郷の秋田では、新元号の額を掲げている様子が描かれたお菓子なども出ていて、そこには「秋田出身」って書かれている(笑)。菅さんは集団就職で上京し働きながら大学を出て地盤も看板も資金もない中で政治家を目指した。政治の原点の一つが故郷にあると思うが。

 私は故郷を断ち切れないです。38歳のときに横浜市議会選に出馬したんですが、そのときの選挙区というのがなかなか地元意識が強くて、私のようなよそ者は厳しいかなと。

 でもそこで、あえて私はチラシなどに秋田出身と書いたんです。都会には地方から出てきた人が多いですから、「俺も秋田だ」「東北出身だ」「俺は九州だが同じ地方出身だ」と逆に応援していただきました。

 総務大臣の時にふるさと納税を提唱したんです。地方から出てきた人間というのは、一定の年齢になったら自分を育ててくれて自分の両親の面倒も見てくれた故郷に何らかの形でお返しがしたいと思うんじゃないでしょうか。私の場合は当選2回の頃からふるさと納税の考えを温めておいて、4回生で総務大臣になったので「やるぞ」と。随分抵抗もありましたけどね(笑)。

 

少子高齢化時代の社会保障改革

 

―― 令和がスタートし、希望を持っていい時代にしたいのはもちろんだが、あえて言えば決して明るいだけの時代じゃない。急速な少子高齢化で、社会のすべての仕組みや価値観が変わる。政治が何をやるのか相当厳しい時代ではないか。

 発足以来、第2次安倍政権は何をやるかを明確に打ち出して、それを政治主導でやってきました。まず経済ですよね。政権交代当初は経済が大変でしたから、就職なども思ったところに入れないだけでなく仕事にも就けなかった。

 そうしたことから第1は経済再生を最優先に掲げてやってきました。その成果として、この6年間に384万人雇用を増やしましたし、有効求人倍率も1.63にまで上げることができました。

 2つ目が日米関係の再構築。アメリカとの関係も最悪の状態でしたが、信頼関係をしっかり築くところまできた。そして3番目に掲げたのが、一昨年の総選挙でも掲げた全世代型社会保障です。少子高齢化が進む中で、社会保障全体を見直して行こうということです。

―― 社会保障こそ、令和の一番の政治課題だと思う。

 日本は、国民皆保険制度や国民皆年金制度がありますが、こうした仕組みがつくられて58年たっています。当時の平均寿命が男性は66歳、女性は71歳。それが今は男性が81歳で女性が87歳。また出生率は当時が1.96で今は1.43。ここまで変わってきている中で、それにふさわしい社会保障改革はどうしてもやらなければならない。

―― 具体的には、何をどう変えていくのか。

 今、社会保障費の7割が高齢者の方々への給付に使われています。この10月から消費税を引き上げる予定ですが、その税収分、2兆円を子どもと若者に充てていきます。所得の低い方に幼児教育の無償化、大学なども無償化へ。思いきって少子化に投資して行く形にしていこうということです。

―― 話の腰を折るようだが消費税10%は本当にやるのか。

 リーマンショック級のことがなければもちろんやります。

―― 菅さんがそれを必ずセットでいうことで、いや上げないんじゃないかとみんな疑心暗鬼になる(笑)。

 いや、これは前から必ず言っていることで(笑)。でも上げるというのが基本ですから、その税収増を新しい社会保障の形として具体的に示すということです。

―― 高齢者の給付が問題というが、人生100年と言っても元気な人ばかりじゃない。そこにも給付は必要だし、高齢者だけ削るというのはどうか。

 今の社会保障の対応の仕方は、かなり問題もあるんです。例えば医療費ですけど、75歳以上の方の平均は年間94万円、一方74歳以下で0歳以上は平均年間24万円。これだけ違うんですね。これからは健康寿命という視点で、制度も見直して行かなければならない。今までの社会保障は病気になってからだったが、病気にならないようにすることが大事で、そこに何らかのインセンティブをという考え方です。

 例えば、糖尿病で苦しんでいる方がたくさんいらっしゃる。最初の医療費は年間5万円ですが、これが悪化して人工透析が必要だということになると医療費は一気に600万円になります。そこにいかないように予防しないといけない。

 広島県呉市では、糖尿病患者の方が260人いましたが、徹底して予防して、5年たっても誰一人透析まで行かなかったという成功例があるんです。こういう努力をしたところに、財源を何とかして社会保障としてのインセンティブを与えるとか。これまではそうした予防や、事前の取り組みへのインセンティブは何もなかったんですね。

―― 少子高齢化の社会保障改革は、これまでの概念を思いきり変えなければならないということか。

 覚悟を持ってやらなければならないと思っています。高齢者については社会保障と併せて働き方も同時に考えなければなりません。65歳以上になっても、継続して働く意欲がある人が働けるような仕組みをつくるということです。年金受給の選択もできる。そういう大胆な改革ですから覚悟は当然必要です。令和の課題はまさにそこではないでしょうか。

菅義偉氏

社会保障政策が令和の最重要政策課題となる(左は鈴木哲夫氏)

 

拉致問題はいよいよ日朝トップ会談の段階に

 

―― 菅さんは拉致担当に就いているが、拉致問題は今後どう対応していくのか。

 安倍総理と私が最初に出会ったのが、この北朝鮮による拉致問題でした。当時、北朝鮮の万景峰(マンギョンボン)号の入港を食い止めるための法律を作ろうとしていて、そこで一緒にやりました。安倍政権の最重要課題として何としても解決しなければならない。ご家族のみなさんの高齢化もあります。もう待ったなしです。ありとあらゆることを実行に移すという決意でいます。

―― 拉致担当大臣としての訪米の目的と役目は何なのか。

 拉致問題は、いよいよ今度は安倍総理自身が金正恩総書記と直接向き合って、トップ同士で会談して解決する段階にきたと言えます。そういう意味で、アメリカの(日朝首脳会談実現への)協力は非常に大事です。トランプ大統領もこれに対しては協力的で、米朝会談のときに2度もこの話をしてくれています。ですから、私自身の役目は、アメリカと(会談実現について)しっかりと打ち合わせ話すことです。

 

普天間基地問題の唯一の解決策とは

 

―― 永田町では、訪米を菅さんの本格的な外交デビューであり、ポスト安倍へ始動し始めたのではという声も出ている。また、最近二階幹事長は、菅さんがポスト安倍の有力候補と雑誌インタビューで答えている。

 (笑)。全く考えていません。私は安倍総理のもとで官房長官としてやってきました。とにかく経済をどうするのか、大変でしたからね。これが回復基調にきた。あとは沖縄担当大臣を兼ねています。これらをきちんとやりたいですし、全力投球で目一杯です。

―― その沖縄だが、県知事選、名護市長選、衆院補選と、3回続けて米軍普天間基地の辺野古への県内移設に反対という民意が示されているが……。

 まず基本的なところですが、沖縄問題の原点が忘れ去られようとしていると思います。辺野古沖へ移設しようという原点は、世界で一番危険といわれている普天間基地、あそこには学校や住宅が密集していますが、その危険性を除去するということです。橋本龍太郎総理時代、アメリカのモンデール大使との間で、普天間基地の返還と代案は県内移設ということで合意しました。そして、地元の県知事、名護市長と話し合って、3年かかって移設先を辺野古にということで合意したんです。

 そして第2次安倍政権になって7年、辺野古の埋め立て申請をして初めて許可をもらいました。今も普天間の危険性は続いています。安全保障上の問題と普天間の危険性という2つを考えて辺野古なんですね。しかも、辺野古移設は海上です。普天間のままだと、騒音対策も凄くお金がかかっているという側面もあります。普天間移設が唯一の解決策だということです。

―― ただ、最新の民意は違う。強引に進めるのではなく話し合っていく姿勢は必要だ。

 もちろん話し合いはちゃんとやっていきます。その中で政府としては、自然環境などにもしっかり配慮すること、そして何よりも普天間の危険性などを申し上げていきたいと考えています。

―― 令和という新しい時代に向けて、政治家としてどんな決意か。

 新しい時代です。令和という元号は、1400年前の万葉集から引用されたものですが、私は良い元号だと思っています。この言語の中には、総理も会見で言いましたが美しい故郷で、一人一人がそれぞれ花を咲かせるといった意味も込められていますよね。まさに皆さんが、国民一人一人が花を咲かせることができるような、その環境をつくるというのが政治の役目だと思います。

 

インタビューを終えて

 

 ポスト安倍についての質問に対しては「全く考えていない」との答えが返ってきた。実は予想どおりだ。それにはワケがある。

 もし個人の野心を見せてしまったら菅氏の重責である危機管理が機能しなくなるのである。例えば危機管理のために人事で更迭などを決断した場合でも「自分のためにやっている」と思われてしまい効果は失せる。過去の官房長官では後藤田正晴氏や梶山静六氏も野心を見せなかった。「危機管理に徹するために野心は封印する」というのが政治スタイルなのだ。

 ただ、永田町では疑心暗鬼も生まれつつある。安倍首相周辺には、菅氏が内政への影響力に加え、最近では首相の分野である外交でも日産・ルノー問題、北方領土問題などでの言動があり、「今回名前が挙がり本人にその気が出てきてはいないか」(首相側近)との見方もある。

 菅氏のポスト安倍の実現性について私はこう予測する。もし任期内に失政・退陣となった場合は、前回の総裁選で党員票の約半数を取った石破茂氏や岸田文雄氏。満了まで行けば世代交代で小泉進次郎氏や河野太郎氏らが出てくることになるだろう。

 そう考えると菅氏は前者のタイミング。石破・岸田でぶつかり合う中で第3の候補として浮上する可能性があるのではないか。令和時代に突入する中で、菅氏の存在や言動はより注目を集めそうだ。(鈴木哲夫)

 

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