マネジメント

人にも環境にも優しい「ヤシノミ洗剤」でおなじみのサラヤ。SDGsが注目されるずっと前から環境や人体への配慮に取り組んできた。その源流はどこにあるのか、2代目社長の更家悠介氏に聞いた。聞き手=和田一樹 Photo=北田正明(『経済界』2019年8月号より転載

 

更家悠介・サラヤ社長プロフィール

サラヤ社長

さらや・ゆうすけ 1951年生まれ。大阪大学工学部卒業、カリフォルニア大学バークレー校工学部衛生工学科修士課程修了。76年サラヤ株式会社入社。工場長を経て98年代表取締役社長に就任。日本青年会議所会頭、地球市民財団理事長などを歴任。2010年藍綬褒賞、14年渋沢栄一賞受賞。

 

サラヤ創業の経緯と社会問題との関わり

 

社会問題をビジネスで解決してきた歴史

—— 環境への配慮が根付いているのはなぜでしょうか。

更家 当社の事業領域の性質上、社会問題と共に歩んできたというのが理由になりますが、重要なポイントは3つあります。

 まず、創業者である父・更家章太は終戦を迎え、やがて都会に出ました。1952年当時、日本では赤痢が流行っており、父は近畿大学の応用化学部の前身である大阪専門学校を卒業していたので、手洗いや消毒のできる器具、薬剤の販売を始めました。こうして手洗いをビジネス化したのです。創業時からして社会問題と接点のあるスタートでした。

 2番目に、60年代の出来事です。当時は大気汚染が深刻で、重工業地帯では従業員や周辺地域の学生がのどを痛めていました。そこでうがいが推奨されることになり、うがい薬が感冒予防というよりも大気汚染対策で役立つことになったのです。

 そして3つめの理由も同じく社会問題と関連します。60年代というのは、石油系合成洗剤の排水が分解されないことによって、河川での魚の大量死や水質汚染が社会問題化していた時代です。ヤシノミ洗剤を発売するのは71年になってのことですが、石油系洗剤による公害へのアンチテーゼとして、手洗いせっけんの原料で使っていたヤシ油を原料とする植物系の洗剤を作ったことで市場の評価を受けました。

 このように社会問題の解決をビジネスを通じて提案することができ、受け入れられた。これが当社の歴史なのです。

—— ビジネスで解決するという視点は大切ですか。

更家 二宮尊徳が「道徳なき経済は罪悪であり、経済なき道徳は寝言である」といったとされるように、理屈ばかりこねていてそれが寝言になってはいけません。

 ビジネスは実践なので、きちんと成果を伴っていかないと潰れてしまう。善意だけで良い格好しようと思っても3年くらいで厳しくなってしまいます。5年、10年と続けるならば、ビジネススキームの中に組み込む方が結果的に長続きするのです。

情報公開して消費者に提示

—— サラヤといえば自然派商品が代名詞で、安心・安全な商品を数多く販売してきました。

更家 SDGsでいえば「12・つくる責任つかう責任」に該当しますね。つくる責任というのは当社の強みと合致すると思います。

 しかし、より確かな取り組みにするためにはやはり消費者の方と一緒にやらないといけない。メーカーも消費者もパートナーシップでやろうということで、その1つの実践として、消費者庁に社員を出向させ、人や環境に配慮した消費行動である「倫理的消費」の普及に取り組んでいます。

 今の時代、とにかく安ければいいということだけが消費者のニーズではありません。近年、消費者サイドの意識が変わってきており、生産地や調達過程などサプライチェーンのことを気にされる方が増えました。

 企業側は今まで以上に情報公開をしなくてはならないと思います。きちんと情報公開をして、「少し高いけれど環境に配慮している商品と、値段は安いけれど環境負荷の大きな商品どちらがいいと思いますか?」と消費者に提示するのです。

 

「衛生・環境・健康」領域へのサラヤの取り組み

 

10年以上の取り組みが会社への信頼を生む

—— 情報開示という点では、ボルネオ島の状況を発信してきました。

更家 ボルネオ島では自然保護活動を行い、原料であるパーム油の持続可能な調達に取り組んでいます。

 ボルネオでの生物多様性保護の取り組みは2004年から行っていますが、きっかけはサラヤも使用するパーム油の生産が環境に悪影響を与えていると指摘されたことでした。

 04年にはRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)が作られ、翌年には早速会員になりました。これは人権や環境に配慮した持続可能なパーム油産業の在り方が話し合われる国際会議です。そして06年10月にはBCT(ボルネオ保全トラスト)が設立され森の再生に向けた取り組みが推進されることになりました。

 当社は、トラストの活動資金として07年からヤシノミ洗剤をはじめとするパーム油利用商品の売り上げの1%を寄付しています。

 問題が発覚した当初は、「サラヤさん見損なった」とか、「なんで他の油使わなかったのか」など、消費者の方々からさまざまな声を頂戴しました。

 しかし、ヤシノミ洗剤が生まれた当時は、他の植物油などを原料にすると値段が上がってしまい、消費者の支持をいただくのが難しい。半面、パーム油は安くて性能も良く、これならば市場の支持も受けられるだろうと消費者の方ばかりを向いていました。サプライチェーンの方にあまり意識が向かなかったのです。

 ヤシノミ洗剤が消費者の皆様に対する当社の顔でもありますので、04年の取り組み以降、商品に寄付の話やボルネオの状況を表記して、この森をみんなで守りませんかというキャンペーンにつなげていきました。

 ヤシノミ洗剤が、お客さまと生産地をつなぐツールになり、サプライチェーンがバリューチェーンに変わったのです。もちろん手に優しいですとか、分解されやすいですとか、他にもバリューはあります。しかしながら10年以上真面目にやってきたことが、会社の信用というバリューも生み出し、さらにいい循環を生んでいます。

地球環境は企業の持続可能性に直結する

—— ウガンダでの取り組みも力を入れています。

更家 10年から、当時は乳幼児死亡率が世界でトップクラスに高い状況だったウガンダで衛生改善に取り組んでいます。具体的な取り組みとしては、手洗いの普及・啓発や、消毒剤の現地生産です。

 12年には、産科病棟でもかなりの割合で手を洗わずにお取り上げをしているという事実が調査などで分かってきましたので、手指の消毒を広める「病院で手の消毒100%プロジェクト」を行っています。

 持続可能という視点で考えてみると、もちろん地球規模の問題です。しかし自分の企業に置き換えると、例えばウナギを扱っている企業ならば、ウナギの生息状況は自分の企業の持続可能性に直結します。

 そういう意味でSDGsは、一見縁遠い言葉で語られているかもしれませんが、分かりやすい言葉に置き換えてみるとその影響がいかに身近な活動に刺さるのかが分かるはずです。

 今後も、「衛生・環境・健康」の事業領域で、当社ができる取り組みを続けていきたいと思います。

 

【マネジメント】の記事一覧はこちら

 

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

葬儀業から脱皮しライフイベントのプラットフォーム運営企業へ―ライフアンドデザイン・グループ

古い体質が残り実体が見えにくい葬儀業界の中で、「パッケージ化された分かりやすいサービス」「家族葬など小規模葬儀に特化」「低価格だが高品質のおもてなし」「出店スピードの速さ」等を強みに事業拡大。人生の終末や死別後に備えた事前準備を行う。文=榎本正義村元 康・ライフアンドデザイン・グループ社長プロフィ…

人材領域で培ったテクノロジーを活用し社会課題を解決する―ビズリーチ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

一般には馴染みが薄い産業廃棄物処理の世界。古い慣習が残る業界を、ITによって変えようとしているのがトライシクルの福田隆社長だ。業界の老舗企業がテクノロジー導入に舵を切った背景と今後の展望を聞いた。(吉田浩) 福田隆・トライシクルCEOプロフィール   産廃処理で「B to B版メルカ…

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

佐藤輝英・BEENEXTファウンダーに聞く「起業家から投資家に転身した理由」

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年8月号
[特集] SDGsは江戸にある
  • ・「仁義道徳」 経済人に必要な「利益」と「倫理」
  • ・「利他」 「気候変動に具体的な対策を お金の流れが意識を変える」
  • ・「善の巡環」 高邁な理想を支える創意工夫と挑戦
  • ・「才覚、算用、始末、商人倫理」 SDGsの精神宿る江戸商人
  • ・「国利民福」 国が栄えれば人々も幸福になる
  • ・「先も立ち、我も立つ」 石田梅岩と商人道徳
  • ・「気丈」 学問は「治安」「エンタメ」「立身出世」──江戸庶民の教育事情
  • ・「心田開発」 二宮尊徳の報徳思想
[Special Interview]

 里見 治(セガサミーホールディングス会長グループCEO)

 日本初のIR事業への参入はエンターテインメント事業の集大成

[NEWS REPORT]

◆メガバンクからの陥落目前 みずほ銀行の昨日・今日・明日

◆巨大ドラッグストアチェーン誕生か 業界再編はココカラ始まる

◆カリスマ・鈴木修会長に陰り? ピンチを迎えたスズキの前途

◆G20農相会合で見えてきたスマート農業の未来像

[特集2]

 AI時代に稼げる資格

 今必要な資格、将来必要な資格はこれだ!

ページ上部へ戻る