スキル・ハウツー

AIやロボットによって代替される可能性のある職業の中には、国家資格として難易度が高い士業も数多く含まれている。これから士業の仕事はどのように変わっていくのだろうか。(『経済界』2019年8月号より転載

 

士業を取り巻く環境が激変

 

8士業中6士で高い代替確率

 2015年にオックスフォード大学と野村総合研究所が発表した共同研究は、難易度の高い資格を持つ人たちに衝撃を与えた。

 研究テーマは、「AIやロボットによる代替可能性の高い職業」で、日本国内の601種類の職業について、代替される確率を試算したものだ。それによると、労働人口の49%が、10~20年後に代替される可能性が高いという結果となった。つまり日本人の仕事の半分はAIやロボットに奪われるということだ。

 その中で最も置き換えられる可能性の高い職業は電車の運転手で、99.8%の確率で自動運転に取って代わられると予想している。同様にバスやタクシーの運転手も代替可能性が高い職業だ。既に電車では「ゆりかもめ」のように無人運転が一般化しつつある。クルマについても、自動運転の研究が進んでおり、完全自動運転時代の到来もそう先の話ではない。そうなれば無人タクシーの時代となる。

 こうした職業と並んで、代替可能性90%以上の中に、3つの独占業務の国家資格が含まれている。

 独占業務とは、その資格を持っている人しか行ってはならない業務。つまり余人をもって代えがたいということだ。

 ところが、先の調査では、行政書士が93.1%、税理士92.5%、弁理士92.1%、という高い代替確率となった。最難関国家資格のひとつである公認会計士にしても85.9%、社会保険労務士は79.7%、司法書士は78.0%といずれも高い確率が並ぶ。

 俗に「8士業」と呼ばれる資格がある。前記の6つに弁護士と中小企業診断士を合わせたものだが、その中の「6士」がAIやロボットに置き換わってしまうというのである。(ちなみに弁護士の代替可能性は1.4%、中小企業診断士は0.2%)。

 

税理士、公認会計士も冬の時代

 税理士の主たる業務は税務書類の作成や税務相談だが、中小企業では帳簿づけを税理士に依頼するケースも多い。

 しかし今ではfreeeやマネーフォワードのように、帳簿づけを行うクラウドサービスを提供するフィンテック企業も増えている。税務書類の作成にしても、確定申告なら、e-Taxというウェブ上で申告できるシステムが普及している。これなどは、e-Taxソフト自体も国税庁のホームページからダウンロードすることが可能で、税理士抜きでも申告業務が行える。

 この流れは止めようがなく、税務申告に関しては税理士不要の時代が間違いなくくる。現在、大半の企業が会計事務所と契約しているのは、税務書類の作成が煩雑なためだ。

 しかしこれをAIが替わって遂行してくれるなら、クライアントの多くが契約を見直すのは間違いない。税理士冬の時代が到来する所以であり、これは公認会計士にも当てはまる。

 公認会計士といえば、会計系資格の最上位に位置している。試験もむずかしく、合格するには3千時間の学習が必要といわれている。専門学校に通って学ぶ場合、2年間のカリキュラムを組んでいるところが多く、それを終えたあと受験するのが一般的だ。それでいて合格率は例年5%前後と極めて低い。

 これだけ苦労しても、生涯にわたって資格を生かして働けるというのなら苦労のしがいもあるが、10~20年後には85%の確率でAIに代わられる、というのでは学習にも熱が入らなくなるのではないか。

 

これからの士業が生き残る道とは

 

進む士業のコンサルタント化

 弁理士や司法書士、行政書士に求められるのは文書作成能力だ。役所に提出する文書には、役所ごとに細かい規定があり、少しでも違っていると受理してもらえない。

 そこで専門家として独占業務を行っているのが、士業の人たちだ。しかしこれもやがてはウェブで提出できるようになる。書式に間違いがあった場合、AIが即時に判断して、修正箇所を指摘する。それを参考にすれば、士業抜きで作業は完了する。

 社会保険労務士の場合は、今は働き方改革の影響もあり、需要は大きい。しかし労務・社会保険に関する書類の作成が主たる業務のため、やがては取って代わられる。

 では、今後、大半の士業の人たちは、その職を奪われるしかないのか。

 仮に現在30歳の税理士がいるとしよう。20年後、AIが主流になった時にはまだ50歳。その頃には70歳定年になり、年金支給開始時期も遅くなるため、あと20年は働かなければならないのに仕事がない、という状況になりかねない。

 どうすれば生き残れるのか。そのヒントは代替可能性の低い士業である弁護士と中小企業診断士にある。

 この2つが残りの6つと違うのは、主たる業務が書類作成ではなく、人との接点が多いことだ。この分野はAIやロボットが代替することはできない。そうであるなら、残りの士業も、書類作成などはAIにまかせ、クライアントのコンサルティングに舵を切るべきだろう。

 例えば、中小企業の場合、社長の最大の悩みは事業承継問題だ。今ではM&A仲介会社はいくらでもあるが、やはり、相談しやすいのは、自分のことも会社のこともよく知っている税理士だというのが経営者の本音だ。実際、あるM&A仲介会社に持ち込まれる案件の多くが、税理士からの紹介であり、その結果M&Aがまとまれば、税理士には一定の紹介料が支払われる。

 また、若い司法書士や行政書士、税理士の中には、垣根を超えた連携を模索する動きもある。

 若い分、人脈は狭くクライアントも少ない。そこで手を組んで顧客を融通しあうだけでなく、ネットワークを形成することで、顧客の企業経営に関するあらゆる相談にワンストップで応じることが可能になる。

 このように、中小企業診断士と同様にコンサルタントとして活動を指向することが、これからの士業には求められる。AIが進化した分だけ、人間には今まで以上の人間臭さが必要ということだ。

士業

これからの士業にはコンサルタント的な役割が求められる

士業同士の顧客争奪戦も激化

 それでも、士業にとって冬の時代が到来することは確実だ。

 例えばクラウドによる書類申請が可能になった場合、今までどおり士業が独占業務である理由はなくなってしまう。つまり競争相手が同業だけでなく、コンサルタント全般にまで広がることを意味している。

 同時に、士業同士の顧客の争奪戦も激化する。今までは税務処理はA会計事務所、登記はB行政書士と使い分けていたものが、1社と契約すればすべての相談に乗ってくれる時代が訪れる。

 そしてこれは士業に限った話ではない。

 冒頭に紹介した共同研究には、代替確率の高い仕事100社が紹介されているが、貿易事務員や測量士など、士業以外にも国家資格が必要な職種も数多くある。また、女性に人気の医療事務も、AIに代替される可能性が高い。それだけに時間と費用をかけて資格を取るのであれば、その見極めが重要になってくる。

 その結果、あと5年もすれば、人気資格ランキングは大きく変わっているかもしれない。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る