マネジメント

 カジノを含む統合型リゾート(IR)が、早ければ2025年に誕生する。当初、日本で建設されるIRは最大3カ所で、今年から来年にかけて、候補地が決定する見通しだ。IR建設を巡っては、ラスベガスやマカオでIRを運営する外資系企業も手を挙げているが、日本企業として最も積極的に取り組んでいるのがセガサミーホールディングスだ。同社は既に2年前、韓国・仁川に現地企業と合弁で、韓国初のIR「パラダイスシティ」をオープンし、実績を重ねてきた。そこで得たノウハウを武器に、日本におけるIR運営業者に選定されることを目指している。同社の描く日本版IRはどのようなものなのか。またIRによりセガサミーグループはどう変化するのか。里見治会長グループCEOに展望を聞いた。聞き手=関 慎夫 Photo=山田司郎(『経済界』2019年8月号より転載

 

里見治・セガサミーホールディングス会長グループCEOプロフィール

里見治氏

さとみ・はじめ 1942年群馬県出身。青山学院大学法学部中退。75年、サミー工業(現・サミー)設立。80年社長に就任。2003年、セガ特別顧問就任。04年セガとサミーの経営統合によって誕生したセガサミーホールディングスの会長兼社長に就任。一昨年から会長グループCEO。

 

セガサミーのIR事業―その狙いと強みはどこにあるか

 

全面オープンしたパラダイスシティ

―― セガサミーが運営する韓国初のIR「パラダイスシティ」が開業してから2年がたちました。これまでの歩みをどう評価していますか。

里見 昨年9月にはクラブやスパ、ショッピングゾーンなどの機能を拡充させ、今年の3月にワンダーボックスという室内型のエンターテインメント施設がオープンし、パラダイスシティの第1期開発が完了、本当の意味での統合型リゾートに仕上がりました。私自身、開発段階から現在に至るまでに何度もパラダイスシティに足を運んできましたが、企画時点で想像していた以上にクオリティの高い施設に仕上がったと感じています。

 ソフト面においても、客室や飲食、プールやスパなどのホテル付帯施設で提供するサービスも韓国随一のクオリティを誇っています。韓国、中国、日本、その他、どのエリアの方々が来ても、皆さん、「ホスピタリティが素晴らしい」と言ってくださっています。これまでのところおおむね順調に運営できていると考えています。

 ただ今のところ、中国人のカジノ利用客が想定よりも少ない状況です。これは今の中韓関係を反映しているためだと思います。

 一方、韓国の方は、カジノは利用できないのに、家族で繰り返しいらしてくれる方たちがたくさんいます。ただし、IRで利益を出すにはカジノの収益がカギを握ります。

 シンガポールやマカオのカジノ施設を利用されている日本人も多くいらっしゃいますので、ぜひパラダイスシティにも来ていただきたい。幸い、知名度が上がるにしたがい、施設全体の利用客数は右肩上がりで増えています。

―― セガサミーグループは、宮崎フェニックス・シーガイア・リゾートも運営しています。グループとして、リゾート事業やIR事業を展開する狙いは何でしょう。

里見 日本で統合型リゾート施設の導入が本格的な議論になって以来、長らく当グループにおいてはリゾート事業への参入を構想してきましたので、今の状況については必然的な流れと言えます。

 セガサミーグループは、セガやサミーなどにより、機器やソフトを開発販売するメーカーのイメージが強いかと思いますが、われわれはアミューズメント施設なども含め、消費者が求めるエンターテインメントをさまざまなシーンや手法でご提供してきました。

 製品やサービスを通じて、皆さまに感動していただき、笑顔になってもらうことが当グループの存在意義であり、社会での役割です。この考えは昔も今も全く変わっていません。

 そしてこうした知見やノウハウをリゾート事業に必ず生かせると考えています。リゾート事業を通じて、当グループのエンターテインメントの事業範囲が広がり、世界でもユニークな企業グループとして存在感を増していけると確信しています。

日本流のおもてなしで他地域のIRと差別化

―― シンガポールにIRが誕生したのが2010年です。シンガポール以外にもマカオやフィリピンなどにもIR施設が次々と開業し、競争も激化しています。その市場環境をどう見ていますか。

里見 アジアはIRビジネスにとってまだまだ魅力的なマーケットです。成長が鈍化しているという見方もありますが、一方ではマカオでも施設がまだ増えており、シンガポールにある2つのIRも増床を計画するなど、大手IRオペレーターの投資意欲は旺盛です。

 とはいえ、IR施設の数は10年前に比べてもかなり増えているので、施設間での競争が激しくなっています。経営、施設・ソフトの魅力、マーケティング、サービスの質などあらゆる面で、独自性を追求し、競争力を高め続けていかねば、すぐに競争に負けてしまいます。

―― このような中、パラダイスシティが他施設との競争に勝ち、成長を続けていく上で、必要なことは何ですか。

里見 規模だけの勝負ではシンガポール、マカオなどの大規模IRには太刀打ちできませんので、施設としての強みをしっかりと理解し、独自性を追求していきブランドを高めていかねばならないと考えています。

 パラダイスシティは、韓国で初めてのIRであること。国際ハブ空港である仁川空港の隣接エリアにあること。北京などアジア東北エリアから利便性が高いこと。韓国文化をよく理解するパラダイスがパートナーであり地域特性を打ち出せることなどが強みになると考えます。

 この強みを施設運営にいかに反映させていくか。またセガサミーも経営に参画していますので、日本流の経営・サービス手法なども強みにつなげていけると思います。

 

日本におけるIR事業、カジノ運営はどうなるか

 

国内IR事業参入では世界に誇れる施設を準備

―― 日本国内に目を転じると、IR推進法案、実施法案も成立、関連法案も整備され、いよいよ地域や事業者選定のフェーズに入ってきました。セガサミーも日本でのIR事業に参入する意向を表明しています。

里見 現在、セガサミーホールディングス内に、日本IR事業参入のための企画チームを立ち上げ、各種調査やさまざまな検証、シミュレーションなどを進めています。われわれが目指すのは、世界に誇れるIR施設です。施設はもちろん、地域社会が持続的に発展できる施設提案ができるよう準備しています。

―― 今後、IRの建設地や事業者の選定が行われます。ラスベガスやマカオの大手IRオペレーターも日本進出を公言しています。その中でセガサミーはその競争に勝ち抜いていかなければなりませんが、セガサミーが他の事業者に勝る点があるとしたらどういったところでしょう。

里見 日本がIRを導入する目的は、日本経済、地域経済の活性化、観光業のさらなる発展など、つまりこれからの日本がより良い世の中になるために、国益に資する施設をつくることです。日本の魅力を最大限に引き出し、また責任もってより良い日本社会をつくりあげていくためにも、自国企業が中心となって施設開発・運営を手掛けるべきだと考えます。

 ですから大手IRオペレーターは競争相手ですが、一方ではパートナーとなり得る可能性もあります。日本市場を持続的に発展させるマーケットにするために、海外の大手オペレーターとも引き続き対話を続けていくことも、われわれの責務だと考えています。

―― 韓国・パラダイスシティの取り組みを通じて、国内企業として先行でIR事業者としてのノウハウを蓄積させています。開業から2年間で具体的にどのようなノウハウを獲得していますか。

里見 パラダイスシティを運営するパラダイスセガサミー社の取締役としてセガサミーグループから3名が経営に参画しています。また、実際の施設の各部門に約70名の社員を派遣して、施設運営の現場に携わっています。

 配属先も宿泊部門、カジノ部門、マーケティング部門など多岐に渡っています。IRビジネスの経営ノウハウから実際に現場で経験しないと獲得できないオペレーションノウハウに至るまで日々積みあがっています。

 特にカジノ部門については、日本にまだない施設ですから、日本にいてもノウハウを獲得することはできませんので、パラダイスシティはセガサミーがIRビジネスを理解する上で大きな学びの場になっています。

 IRビジネスは、カジノの収益力を生かして施設全体の魅力を最大化し、さまざまな目的で訪れたすべてのお客さまの満足度を上げていくビジネスです。カジノ、ホテル、飲食など施設内のある一部分だけの魅力を高めるのではなく、すべての施設、機能を有機的につなげていかねばなりません。このようなノウハウも実際に施設運営の中にいなければ、見えてこないことも多いのです。

パラダイスシティで蓄積してきたノウハウ

―― 日本でIRができることによって、日本や国民にとって、どのような効果、効能があると考えていますか。

里見 大規模で魅力的な施設の開発・運営を通じて、地域経済の活性化、にぎわいの創出、雇用の創造に間違いなくつながっていきます。雇用面ではパラダイスシティでも1千人を超える従業員を雇用しています。日本IRで現在想定されている規模を考えるとパラダイスシティの何倍もの雇用が生み出されます。

 カジノばかりに焦点があたっていますが、先ほど言ったようにIR施設はカジノの収益力で施設全体の価値を高めることにより海外を含めた多くの人々を呼び寄せます。お客さまはカジノ利用者に限りません。現にパラダイスシティでは、週末を過ごすためにカジノ施設に入れない多くの韓国人カップルやファミリーが訪れます。地域の観光資源との連動により、地域活性化のドライバーになるのです。

―― 既に他エリアで多くのIRが運営されており、日本は最後発となります。その中で、他国のIRに負けない、魅力を打ち出していく必要があるかと思います。その際のポイントになることはどのようなことでしょうか。

里見 日本には既に多くの外国人観光客が訪れています。日本独自に育まれた伝統・文化、歴史的資産、食やエンタメで世界中の多くの方々を惹きつけています。他国には無い日本のユニークな世界観や、観光資源との連動で日本の魅力そのものを打ち出すことができれば十分に独自性や他施設との差別化につながると思います。

 私たちが提案するIRも、日本文化の発信拠点となるように検討を重ねていますし、世界から人を呼べるコンテンツをいくつも用意する計画です。

 アジアのIRマーケットも形成されてから既に20年近くが経過しています。その中で徐々に培われ磨きあげられてきた運営ノウハウ、手法が多くあります。日本は最後発であることを強みにし、他国の成功、失敗事例を参考にして最新テクノロジー等を導入できれば、オペレーション自体も魅力を打ち出せると考えます。

―― IR施設ができることで、ギャンブル依存症や治安悪化など、社会課題についての議論もされています。

里見 IR施設が、不安定な社会の形成につながるような要因は排除していかねばなりません。IR施設自体の持続的成長には社会、地域が健全に発展、繁栄していくことが不可欠です。従って、現在議論になっている数々の社会的課題についても、国、自治体、事業者、近隣住民などステークホルダーが一体となって取り組んでいく必要があります。

 そこで当社では、京都大学こころの未来研究センターとギャンブル依存症の共同研究を進めるなど、社会課題に目を背けることなく、民間企業としてできることを独自に行っていきます。

日本で最もIRビジネスを理解しているという自負

―― 日本での最初のIR施設開業は25年頃と言われていますが、その時にセガサミーグループはどのような姿になっているのでしょうか。

里見 先ほどお話したとおり、当社はエンターテインメント企業グループであり続けます。日本でのIR事業参入を実現させることで、世界の中での存在感を高めていければと考えています。

 IR事業に参入できれば、世界におけるセガサミーグループの知名度は間違いなく上がります。特にセガのエンターテインメントコンテンツ事業においてはシナジーも期待できます。一方、サミーの遊技機事業は安定的に利益を上げることのできるビジネスです。ここできちんと利益を上げながら、将来に向けてIRの研究を重ねてきました。

 ここに至るまでにも多くの経営資源を駆使し、準備を続けてきましたので、日本企業の中で、最もIRビジネスを理解している企業であると自負しています。

 IR事業を通じて、日本をより良い方向に導いていきたい。そうしていかねばならないという日本企業としての責任と覚悟をもって、今後も取り組んでいきたいと思います。

 

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