政治・経済

リーマンショックや東日本大震災で減少した若者の起業。日本政策金融公庫(JFC)は若者起業家を支援する施策を実施している。着実に成果を積み上げるJFCの資金調達支援とは何か。その背景を探った。 (本誌/宮崎二郎)

持ち直してきた若者の起業件数

 中堅・中小企業の資金需要にこたえるJFCが、若者起業家への創業支援融資を積極的に推進している。年齢やライフステージ、あるいはスタートアップの規模に適した融資を積極的に行い、その成果を着実に積み上げている。

 現在の、起業や新規開業の環境は、悪くないといっていいだろう。安倍政権の成長戦略「Japan is Back」では起業・創業の支援が重点政策の一つとして盛り込まれ、米国・英国レベルの開業・廃業率を目指すとされている。現状4・5%開業・廃業率を、10%台に引き上げるという大胆なものだ。省庁レベルでも、起業を支援する制度を積極的に整備。例えば、経済産業省は起業家教育推進事業などの施策を実施している。

 成長戦略のお墨付きも得られた新規開業・起業支援。その一環として行われているのが若者の創業における資金調達のサポートで、実施を主に担うのがJFCの若者起業家資金融資だ。

 JFC創業支援室の担当者も「若者の起業に際した融資は2008年から11年度まで減少を続けてきたが、12年度になりリーマンショックが起きる前の水準にまで回復しつつある」と現状を説明する。

 また、同担当者によると昨年末に政権交代に伴い安倍政権が誕生して以来、上向いてきた景況も起業マインドを後押ししているのではないかという。実際、ビジネス環境の改善に伴い、企業の設備投資や資金需要も高まりつつあると分析する向きも多い。若者の起業数が増える傾向にあるのも、景気回復を背景に、ビジネス環境の改善が起業数の増加という実績に現れ始めているのだろう。

 だが、若者起業家による起業数が増加基調にあるのは、アベノミクスの成果だけではない。起業資金の需要をより実効的に満たすことのできるスキームができてきたからだ。

 JFCとしても、「特に力を入れているのはベンチャー企業の中でもスタートアップ。ほんとうに始まったばかりで、技術はあるが、資金を持たない起業への融資に力を入れている」と、サポート体制を拡充しているところだ。

 それでは具体的な取り組みを見てみよう。融資制度である若者起業家支援資金は30歳未満の起業家を対象とする融資枠で、新規事業や創業からおおむね5年以内の事業に対して最大で7200万円の資金を供与する。

 若者起業家がスタートアップで必要とする資金としては、決して少なくない金額だ。加えて、提供される資金は資本性ローンと呼ばれ、金融検査上自己資本とみなすことができるというメリットもある。

 さらに言えば、資金の用途によっては、より有利な利率で融資を受けることもできる。例えば、設備を準備するための資金であれば、返済期間を15年としたり、「特に必要な」場合には20年の返済計画にしたりできる設計だ。

 もちろん、こうした制度が必要とされる理由もある。若者起業家の創業は一般的なビジネス経験者による創業や、シニア・女性による創業とはまた異なり、特有の傾向や問題があるからだ。

画像システムやアプリ開発で光明

 JFCが融資してきた起業家の例を用いて、簡単におさらいしよう。まず業種を見てみると、融資件数の多さでは、美容業が約200件と最多。「手に職をつけて独立するパターンが多く」(JFC担当者)、あん摩・はり・きゅう・柔道整復師施術所、酒屋・ビヤホールが続く。

 また、件数では目立たないものの、若者の起業では情報サービスの比率が高い。前出のJFC担当者も、「アプリ開発や画像システムといった事業や、情報システムサービス業的な案件の数が増えている」と語る。

 次に、開業資金の規模だ。シニア起業家では創業資金を1千万円以上用意することが半数以上であるのに対して、若年起業家では、100万円以上の開業資金を準備した起業家は半分以下。1千万円以下で開業する若者起業家が62%となっており、比較的小規模でスタートを切ることが多い。

 起業家自身が自宅を所有していることも少なく、別収入もないことから、これから創業する事業に「賭けている」。いわゆる〝背水の陣〟で臨んでいるということだ。

 JFCの起業家への支援は、少ない資金量や、失敗できない若者起業家への対応も考えている。全国に152店舗ある支店の創業サポートデスクで起業にまつわる相談をすることができるのだ。融資の手前の事業計画の策定を手助けするなど、スタートアップ支援のコンサル的な役割も果たしている。

 最後に、若者起業家による創業件数の動向を見ておこう。ページ左上のグラフは、JFCが創業前から創業後1年以内の事業に対して融資を実施した件数の推移だ。

 年度途中にリーマンショックが発生した08年度の1647件から、3・11・東日本大震災の影響を受けた11年度の1328件までは減少傾向が続き、約20%低下した。

 他方、12年度の融資実績では1549件まで持ち直してきた。13年度についても「昨年度以上の水準で推移しており、前年を上回る」(JFC担当者)見通しとのことだ。

 ここ数年間の着実に増加する若者の起業を見れば、アントレプレナーシップを刺激され、起業に乗り出す若者が増えていると言える。若者の起業は経済を活性化させる大切なエネルギー源だ。どのような先進的な事業が飛び出してくるのか、今後の動静を引き続き見守りたい。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル   不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。  かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。  この登…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界11月号
[特集]
運の科学

  • ・北尾吉孝(SBIホールディングス社長)
  • ・江口克彦(江口オフィス社長)
  • ・畑村洋太郎(畑村創造工学研究所代表)
  • ・藤井 聡(京都大学大学院工学研究科教授・内閣官房参与)
  • ・角居勝彦(日本中央競馬会調教師)
  • ・桜井章一(雀鬼会会長)

[Interview]

 安永竜夫(三井物産社長)

 「やるべきことは2つ。方向性を指し示し、トップ同士の関係を構築する」

[NEWS REPORT]

◆東芝メモリ買収の影の主役 産業革新機構の収支決算

◆電気自動車がガソリン車を駆逐するまであと10年

◆60代を迎えた孫正義 ソフトバンク300年の計への足固め

◆出版不況の風向きは変わるか!? 常識を覆すオンリーワン作戦!

[政知巡礼]

 若狭 勝(衆議院議員)

 「自民党のしがらみ政治をぶった斬りたい」

ページ上部へ戻る