政治・経済

失業率上昇は発展途上国への道

 本連載は今回で最終回となる。

 さて、経済力とは何だろうか。グローバル市場でシェアを獲得し、グローバル企業の「利益」を最大化し、グローバル投資家に配当金を多く支払うことが「経済力」なのだろうか。断じて違う。

 経済力とは、経世済民を実現する「国民」の力だ。経世済民とは、「世を經(おさ)め、民を濟(すく)う」という意味を持つ四文字熟語である。経世済民とは、分かりやすく書くと、「国民を豊かにする政治」という話であるため、政府の目的そのものだ。とはいえ、国民を豊かにするという目標は、政府の政策に加えて「働く国民」の努力なしでは達成されない。日本国民が日本国の需要を「自らの力」で満たしていくことにより、国家全体の供給能力が高まっていく。国民経済の供給能力(潜在GDP)の蓄積こそが、まさに「経済力」なのである。

 現在のギリシャの失業率は、ついに28%台の大台に乗った。しかも、28%という失業率は「全世代」の話であり、15〜24歳までの若年層失業率は60%を上回っている。

 ギリシャの若年層失業率の高まりは、現在の問題でもある。何しろ、失業者はその日の糧を得るための所得を稼げない。

 とはいえ、より重大な問題は、ギリシャの若者たちが仕事の経験を積むことができず、将来的に人材に育つ芽を奪われていることなのである。何しろ、仕事を経験しない人は絶対に人材になれない。人材とは、国民が仕事に従事し、さまざまな技術、スキル、ノウハウ等について経験を通して自らの中に蓄積しない限り、創出されないのである。

 現在のギリシャの高失業率を放置しておくと、どうなるだろうか。10年後、20年後に、社会の中核を担うべき世代が「働いたことがない」という状況になってしまう。すなわち、その時点のギリシャは、「高層ビルを自国の人材では建てられない」「大きな橋を自国企業では架けられない」ありさまになっている可能性が高いのだ。自国の企業や人材でビルや橋を建設できない国のことを、何と呼ぶだろうか。ズバリ、発展途上国である。

 すなわち、失業という問題を放置しておくことは、発展途上国への転落の道なのである。

 幸いなことに、と書くと妙な表現になるが、現在の日本では人手不足が顕著化している。人手不足問題を「日本国民の労働」によって解決することで、わが国に人材が創出され、経済力は高まっていく。逆に、人手不足を「外国人で埋めればいい」などと安易な解決策を模索すると、日本国民が「人材」になる機会を奪われ、将来の国民に「供給能力が不足する国民経済」を残すことになってしまうのだ。

伊勢神宮の建築に学ぶべきこと

 もう1つ、重大な論点がある。

 昨年の10月に伊勢の神宮で式年遷宮が行われた。式年遷宮とは、20年ごとに東の宮、西の宮を建て直し、神さま(天照大神)をお移しする儀式である。昨年10月、神さまに西の宮にお移りいただいた。というわけで、これから20年かけて東の宮を建て直し、20年後に再び神様にお引っ越しいただくわけである。

 注目してほしいのは、伊勢神宮のお宮の「建築手法」である。驚くなかれ、伊勢のお宮の建築手法は「弥生建築方式」なのだ。「弥生」とは、弥生時代の弥生である。  何と、伊勢神宮では聖徳太子以前の建築方式が現役なのである。世界広しといえども、1500年以上も過去の建築方式が生き残っている国など、間違いなくわが国だけだ。

 なぜ、日本でいまだに弥生建築方式が現役なのか。もちろん、伊勢の神宮で20年ごとにお宮を建て替えてきたためである。1人の宮大工は、一生に「2回」式年遷宮を経験するといわれている。1度目は先輩の宮大工から学び、2度目は後輩に教える。20年ごとに式年遷宮を繰り返すことで、老年の宮大工から若い宮大工へと技術が継承され、2千年近くもの間、特定の技法が未来へと受け継がれてきたのだ。

 現在、土木・建築分野は極端な人手不足に陥っている。

 現在の労働者の「不足」は、建設労働需給調査が始まった1988年以来「最大」なのだ。信じがたいことに、現在の土木・建設分野の人手不足は、バブル期以上に悪化している。

 とはいえ、人手不足とは「働き手」にとっては所得を高めるチャンスでもある。現在の環境を機会としてとらえ、労働者の所得を引き上げ、(特に)若年層を労働市場に向かわせることができれば、人手不足問題はもちろんのこと、国民の所得不足の問題をも解決に向かわせ、同時に技術の継承や供給能力の向上も達成できる。すなわち、日本の国民経済の「経済力」を強化することが可能なのだ。

 現代に生きる日本国民は、過去の国民の労働、努力による「経済力向上」の恩恵を受け、快適に暮らしている。そうである以上、将来の日本国民のために、国民経済を強化し、強靭な経済を引き継ぐことは、現在の日本国民の義務であると信じる。

*本連載は今回を持ちまして終了いたします。ご愛読ありがとうございました。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル  不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。 かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。 この登記簿図書館を…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界9月号
[特集]
人材恐慌 この危機をどう乗り切るか

  • ・企業が脅える人材恐慌最前線
  • ・人材不足の処方箋 働き方改革でどう変わる?
  • ・加藤勝信(働き方改革担当大臣)
  • ・神津里季生(日本労働組合総連合会会長)
  • ・中田誠司(大和証券グループ本社社長)
  • ・若山陽一(UTグループ社長)

[Interview]

 松本正義(関西経済連合会会長)

 2025大阪万博で関西、日本は飛躍する

[NEWS REPORT]

◆第4次産業革命に走る中国、遅れる日本 松山徳之

◆格安スマホに対抗しauが値下げ これから始まるスマホ最終戦争

◆減収続くも利益率は向上 富士通・田中社長の改革は本物か

◆破綻からわずか2年 スカイマークが好調な理由

[政知巡礼]

 野田 毅(衆議院議員)

 「社会保障の安定した財源は消費税しかない」

ページ上部へ戻る