文化・ライフ

坪田一男(つぼた・かずお)慶応義塾大学医学部教授。1955年東京都生まれ。慶応義塾大学医学部卒業後、日米の医師免許取得。米ハーバード大学にて角膜フェローシップ修了。角膜移植、ドライアイ、屈折矯正手術における世界的権威。再生角膜移植のほか、近視・乱視・遠視・老眼などの最先端の治療に取り組む。近年は研究領域を抗加齢医学=アンチエイジング医学に広げ精力的に活動。日本抗加齢医学会理事、日本再生医療学会理事など。著書に『老けるな!』(幻冬舎)、『長寿遺伝子を鍛える』(新潮社)、『ごきげんな人は10年長生きできる ポジティブ心理学入門』(文春新書)ほか多数。

 

アンチエイジング医学、老眼が克服され、血液検査がなくなる!?

イラスト/坂本浩子

イラスト/坂本浩子

 2007年にスタートしたこの連載も、今回で最終回だ。そこで今回は、アンチエイジング医学の未来について予想してみたいと思う。未来といっても何百年も先の未来ではない。66年後の2080年だ。

 アンチエイジング医学と出合って以来、僕は生物学的な寿命の限界といわれる125歳まで生きてみよう! と考え、アンチエイジングを実践してきた。その僕が125歳になり、死ぬ予定の年が80年だ。

 まず、眼科の未来を考えてみよう。

 老眼は画期的な目薬の開発によって、40歳から1日1回点眼するだけで、80歳くらいまで普通に近くが見えるようになっている。この目薬はアンチエイジング薬なので、老眼だけでなく、緑内障や加齢黄斑変性にも効果がある。ドライアイも完全に治る。白内障を完全に予防することはできないが、80歳くらいだと「お若いのに、あの方はもう白内障になって」などと言われる。

 もちろん、この目薬はその頃には世界的に有名になっている〝チーム坪田〟が開発したものだ。

 さらに、21世紀前半まで行われていた血液検査は陰をひそめ、涙液検査と眼底検査だけで、目ばかりでなく、ほとんど全身のパラメーター測定ができ、全身の健康管理に大きく貢献している。

 平均寿命も100歳を超えている。まさか! と思うかもしれなが、1947年(男50歳、女53歳)から2010年(男79歳、女86歳)の約60年間で30歳以上寿命が延びたのは事実であり、戦後直後の寿命増加10年分を差し引いても、20年は伸びた計算だ。現在も寿命の延長スピードは変わっていないし、今後も同じ速度で寿命が伸びないと言い切れる人はいないだろう。

 だいたい経過時間の3分の1の寿命延長が起きていると仮定すると、66年後には、22年歳寿命が延びる計算だ。すると、80年の平均寿命は女性108歳、男性101歳。

 僕はその頃125歳なので平均寿命より24歳上だが、平均寿命が80歳代の現代でも100歳以上長きする人はたくさんいる。80年の世界では125歳はそれほど珍しくないのだ。

「死ぬタイミング」を決め、「どう生きるか」を考える

 さて、80年には、がん、心臓病、糖尿病なども克服され、再生医療が当たり前になっている。そのため、医療産業は14年の50兆円から500兆円に伸び、人類の産業のほとんどが健康関連産業となっている。

 長寿遺伝子もサーチュイン以外に多数同定され、長寿遺伝子を自由に活性化できる飲み薬が当たり前になる。

 生まれた時から飲ませるとほとんど無限の寿命になる薬剤も開発され、子どもに飲ませるかどうか、飲ませられるのはお金持ちだけという格差に対して社会では大きな議論になっている。

 一方、死は避けられないものでもなく、運命でもなくなったが、個人の尊厳を大事にしながら人類という種の生存確率をいかに上げていくか大きな議論が数十年にわたって行われ、死を受け入れるかどうかは個人の選択にゆだねられることになった。その結果、興味深いことに、一生に満足して死ぬ人たちが増え、今のところうまくいっている。

 一番大切な予想は〝人類は今よりずっとごきげんになり、エネルギー問題、人口問題、温暖化問題も解決の方向に向かっている〟ことだ。

 実は僕ももっと生きようと思えば生物学的には生きられるのだが、以前から125歳で死ぬと言ってきたし、十分ごきげんな人生を送ったので、ここでみんなとお別れをすることにした。

 このお別れパーティーは、人生最大のパーティーであり、結婚式よりずっと大きなビジネスになっている。とはいえ、地球に今まで生存してきた生物種の平均寿命は約1千万年。人類は誕生からまだ100万年しかたっていないので、まだまだ頑張らないといけない。「子どもたちよ、頑張れ。僕はほんとうにごきげんで好きな人生を送ることができてみんなに感謝している。天国から人類を応援しているよ!」と人生を閉じる。

 これは決して奇想天外な話ではない。そして、そんな人生の終末を想像することを可能にしてくれるアンチエイジング医学に喝采を送りたい。アンチエイジング医学は「死ぬタイミングを受け入れる医学」であり、そこから「どう生きるか」を考えさせる医学だなあとつくづく思う。長い間ご愛読いただいた皆さま、ありがとうございました。またどこかでお会いしましょう!

★今月のテイクホームメッセージ★

アンチエイジング医学の目覚ましい進歩に、これからもご注目を!

筆者の記事一覧はこちら

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る