テクノロジー

各社がポイント還元キャンペーン合戦を繰り広げていることで、キャッシュレス決済がにわかに注目を集めている。数あるキャッシュレス決済の中でも「QRコード決済」に話題が集中しているが、隠れた本命は2020年東京五輪の会場でも使える「タッチ決済」だ。クレジットカードなどを決済端末に「ピッ」とかざすだけで支払いが完了してしまう。文=唐島明子 (『経済界』2019年9月号より転載)

 

タッチ決済をベースに「革新的なソリューション」を提供するというVISA

 

 「私たちは東京五輪で革新的なソリューションを提供します。そのベースにあるのは『Visaのタッチ決済』です」。

 こう語るのは、ビザ・ワールドワイド・ジャパンの山田昌之ディレクターだ。クレジットカードなどの支払手段を提供するVisaは、東京五輪の決済テクノロジースポンサーだ。そのため来年開催される東京五輪の会場および関連施設での支払いは、現金以外の決済手段はVisaだけとなる。

 革新的なソリューションについては現在、鋭意検討中とのことで、全貌はまだ明らかにできないそうだ。

 しかし、その核にあるタッチ決済は既に利用可能なサービスだ。

VISA

「東京五輪で革新的なソリューションを提供する」と語るビザ・ワールドワイド・ジャパンの山田昌之ディレクター

 

リオ五輪でも既に使われたタッチ決済対応デバイス

 

 Visaのタッチ決済とは、ICチップを搭載したタッチ決済対応のクレジットカード、デビットカード、プリペイドカードを、決済端末にかざすと支払いが完了する決済手段。タッチは「触れる」の意味だが、実際には非接触型で触れる必要はない。Visaの同業他社も、JCBは「JCBコンタクトレス」、マスターカードは「Masterコンタクトレス」などの名称で同様のタッチ決済サービスを提供している。

 Visaの場合は、タッチ決済のマークがある各種カードであれば、タッチで支払い可能だ。日本国内でVisaのカードを発行している会社は、順次タッチ決済対応のカードに切り替えを進めている。

 実は過去の五輪でもVisaのタッチ決済が導入されており、会場内の店舗などで利用可能なプリペイド式のタッチ決済対応ウェアラブルデバイスが提供されていた。

 2016年のリオ五輪では、試行版としてリング型のタッチ決済デバイスが選手たちに配られ、18年のピョンチャン冬季五輪では手袋、ピンバッジ、ステッカーの3種類のタッチ決済対応デバイスが会場内で商用販売された。

 これらのデバイスを持っていれば、会場での買い物で利用できるのはもちろん、タッチ決済対応の決済端末を備えた店舗なら、会場外でも支払いに使える。

 指先に乗るほど薄くて小さなICチップさえ搭載できれば、基本的にどのようなものでもタッチ決済対応のデバイスに変身させられる。

 同社広報部は「これらを発表したときには、こんな形のもので決済できるのかという興味、関心の声が多く寄せられた」と明かす。東京五輪においても、日本ならではのタッチ決済対応デバイスの展開が期待される。

ウェアラブルデバイス手袋

ピョンチャン冬季五輪で販売されたタッチ決済対応ウェアラブルデバイスのステッカー(上)と手袋。手袋は甲にあるVISAマークのところにICチップが入っている

 

ICチップでQRより高い安全性と時短を実現

 

 日本国内では認知度が高いとはいえないクレジットカードを使ったタッチ決済だが、諸外国での対面取引に占めるその割合は非常に大きい。

 Visaのタッチ決済が利用可能な約200の国や地域のうち、最も普及している国の一つがオーストラリアだ。

 「18年はオーストラリア国内のVisaの対面取引に占めるタッチ決済の割合は90%超だった」(山田氏)。その他にもイギリス、イタリア、スペイン、カナダ、台湾、シンガポールでは、対面取引に占めるタッチ決済の割合が50%を超える。

 これらの国でタッチ決済が多用されている理由について、「機能面でいうと安全性とスピードがあります。これはかなり高い技術を使っています」と山田氏は説明する。

 安全性のポイントは、ICカードが「EMV」という国際標準の決済仕様に基づいていることにある。EMVではトランザクションごとに動的なデータを生成するため、カードを偽造してもその偽造カードでは取引できない。

 支払スピードについても、財布を開いて金額を数えながら現金を取り出したり、決済端末でカードの磁気ストライプをスキャンしたり、暗証番号を入力したり、わざわざサインしたりする手間は不要だ(高額決済は除く)。また最近話題のQRコード決済では、スマートフォンでアプリを起動しなければならないが、タッチ決済であればそうした煩わしさは一切ない。

 オーストラリアでタッチ決済が普及したのは、同国の大手スーパーマーケット2社がタッチ決済を導入し、またそれとほぼ同じタイミングでクレジットカードやデビットカードの発行会社がタッチ決済対応のカードを消費者向けに発行し始めた頃だったという。

 

消費者、店舗共にタッチ決済のすそ野が広がる

 

 前述のように、日本のVisaのカード発行会社は、タッチ決済対応のカード発行を始めており、消費者側の準備は整いつつある。

 店舗側はマクドナルドが18年3月から、ローソンが同9月からタッチ決済に対応しているほか、ツタヤ、表参道ヒルズ、イケアなどでも利用可能となっている。またイオングループのスーパー、コンビニ、ドラッグストアでも東京五輪直前の20年3月までにはタッチ決済可能な端末を導入する計画であり、ホームセンター最大手のDCMホールディングスは「2020年以降、(Visaのタッチ決済を含む)キャッシュレス決済を拡充する」と発表した。

 さらに今秋の消費増税に伴うキャッシュレス・消費者還元事業を利用すれば、中小規模の小売事業者は自己用負担ゼロでキャッシュレス決済端末を導入できるようになることから、タッチ決済可能な店舗のすそ野が一気に広がることが見込まれる。

 来夏に向け、着々とタッチ決済のインフラの準備が進んでいる。たくさんの観客が訪れる五輪会場で、タッチ決済を核とした革新的なソリューションが導入されれば、日本でもタッチ決済の認知度はグッと上昇し、気が付いた時には日常では欠かせない決済手段になっているだろう。

 

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