政治・経済

PC事業を自主再建できなかったソニー

 ソニーがPC事業を売却するというニュースは、アナリストなど財務面から企業を見ている人々からはおおむね好意的に見られています。しかし、企業戦略から見た時に、この決断が本当に正しかったのか疑問が残ります。

 ソニーは基本的にコンシューマーエレクトロニクスの会社で、事業の根幹はBtoCの領域にあります。つまり、Bto B領域を主軸に置くNECや富士通が、PC事業や携帯事業が不振だからといって切り離しを行うのとは、戦略上の意味合いが全く異なるのです。

 ソニーの「VAIO」は、ウィンドウズPCの中では独特な地位を築いてきました。差別化が難しいウィンドウズ系PCの中で、VAIOシリーズだけはデザインに非常に注力して、付加価値を高めることによって、価格も少し高めに設定することができました。デザインコンシャスなユーザーの中でVAIOは圧倒的に人気があり、競争力を保っていました。

 PC市場の成長余地などを見た上で、まだ競争力のあるうちに売ってしまおうというソニーの経営判断なのでしょうが、今やAV機器にせよ、スマートフォンにせよ、BtoCの製品群の中で、コンピューター部品を使わないものはほとんどありません。

 しかもソニーという会社は、ディスプレー、電池、SSDメモリなど、PC部品を多くの主力製品に使用しています。PC事業を自社で保有しているということは、部品製造の面でもテクノロジーの面でも、本来は重要な意味合いを持っているはずなのです。

なぜ資金力が豊富なソニーにPC事業立て直しができないのか

 今回、日本産業パートナーズというファンドがソニーのPC事業を買うことになりましたが、なぜ同社にはPC事業が再建できて、ソニーにはできないのかが理解できません。

 ソニーの財務データを調べてみると内部留保は3兆円近くもあります。日本産業パートナーズは今後、経営者を外部から探し、事業戦略を全面的に見直して、発展させようとするのでしょう。ソニーも3兆円もの資金を自社で有しているのですから、同じことができるのではないでしょうか。

 もし、できないというのであれば、それは外部から人を連れてくることが嫌だからとしか考えられません。ソニーの経営陣が、これからは終身雇用や年功序列の人材に頼らないと判断しさえすれば、事業立て直しのチャンスはいくらでもあるはずなのに、簡単に売ってしまったようにしか思えないのです。

 元気のいいベンチャー企業は、当然のことですがほぼ全面的に中途採用の人材を戦力にして業績を伸ばしています。「30年間同じ釜の飯を食った」ということを前提にした人材マネジメントを想定しているほうが、今やおかしいのです。

 現在の経営幹部が、外部の人材を入れたくないがために事業を売却するというのであれば、この環境変化の時代において将来の展望はないと言えるでしょう。

ソニーがVAIO事業でやれることはまだあった

 今この時点で、さまざまな事業部門の切り売りを考えている日本企業はいくつもあるでしょう。資金が枯渇している企業ならば仕方ありませんが、少なくとも内部留保がふんだんにある企業においては、まず外部から優秀な人材をスカウトして大幅な権限を持たせ、高額な報酬を払ってでも自分の力で事業再生にトライすることが、最低限のやるべき仕事ではないでしょうか。そうした努力を行わずに、単に事業を切り売りすることは、株主のためになるとはとても思えません。

 将来展望という点でも、ソニーが残った事業資産で何をするのか、全く見えてきません。PC事業と同じく分社化することになったテレビ事業に関しては、分社化した後も今の事業本部長が社長に就くことになっています。むしろ今の事業部長を幹部から外して、外から経営者を招き入れて別会社にするくらいのことをしないと、全く意味がないと思います。

 ソニーは事業を売却する前に、経営幹部を総入れ替えした上で、例えばVAIOであればよりデザインを先鋭化させるために優秀なデザイナーを数多く雇ったり、重複した製品ラインアップを整理したりと、まだまだやれることはあったはずです。

 なぜソニーがiPodを作れなかったか、という問いがよくなされますが、その答えは1990年代後半から2000年代前半にかけて、経営幹部の中にインターネットの専門家が誰もいなかったからです。インターネットをよく理解している人材を幹部として招き入れれば、状況は変わっていたでしょう。

 

夏野剛氏の記事一覧はこちら

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る