文化・ライフ

脳を制するものが、オリンピックを制す時代

 世界のトップを目指すアスリートにとって、もはやメンタルトレーニングはフィジカルなトレーニングと同じくらい重要なものとなっている。

 何しろ、高いスキルと経験を積み上げてきた一流アスリートでさえ、最後の最後に運命を分けるのは精神力の強さだ。ソチオリンピックでも、そのことを痛感させられるシーンは本当にたくさんあった。競技(演技)直前の選手の緊張した表情を見て、自分までハラハラドキドキしながら応援していた人も多いことだろう。

 近年では、緊張感や集中力をコントロールするだけでなく、運動能力が向上する、瞬時の判断力を高まるといった臨床研究結果が報告されているトレーニング法も登場している。  例えば、米国のオリンピック選手やプロのアスリートたちの間で盛んに行われているものに、脳波センサーを活用した「ニューロフィードバック」と呼ばれるトレーニングがある。

 基本的に、運動能力をコントロールしているのは脳だ。緊張などで脳の特定の部分が過剰に働いたり、働きづらい状態になると、本来の運動能力を発揮することができない。そこで、脳波センサーを使ってα波、β波、θ波、δ波といった脳波の状態をモニターし、ベストなパフォーマンスができる脳波パターンを作れるようトレーニングするのが、「ニューロフィードバック」だ。

 2012年夏のロンドンオリンピックでも、この「ニューロフィードバック」を導入していた米国のアーチェリー選手が銀メダルを獲得するなどして、世界的に注目されている。「脳を制すものが、オリンピックを制す」時代になってきたといっていいだろう。

筆者自身が被験者となり、視力を低下させる眼鏡を使用して実験。驚くほど運動能力の低下を実感。

筆者自身が被験者となり、視力を低下させる眼鏡を使用して実験。驚くほど運動能力の低下を実感。

 そんな中で、最近僕が大変注目しているのは視力、つまり目が運動能力に与える影響についてだ。

 運動能力をコントロールするのは脳だが、通常、僕たちはまず目から入ってくる情報で空間認識をし、その情報に従って身体を動かしている。そういう意味で、視覚は運動能力やスポーツ競技の成績にとても大きな影響を与えているといっていい。既に、「目がどのくらい運動に影響を与えるか」という研究も始めている。

 つい最近も、僕自身が被験者となり、あえて近視の状態にする眼鏡を着用して歩いたり、片足立ちをしたりして、運動能力を計測したのだが、視力が低下するだけで、足腰が弱ってしまったのか? と思うほど運動能力が低下することが分かった。逆に言えば、視力回復が運動能力向上につながる可能性もるというわけだ。

運動で、加齢黄斑変性も防げる!

 近年、目と運動、そして脳のさまざまな関係が少しずつ明らかになりつつある。つい最近も、米アトランタAVメディカル・センターとエモリー大学の研究チームが、運動をすると加齢黄斑変性のリスクが下がるという研究結果を発表している。

 研究チームは、マウスを網膜変性を引き起こす明るい光にさらし、その前後2週間、毎日1時間のペースで回し車で運動させた。その結果、運動したマウスの網膜細胞のダメージは、運動しなかったマウスの半分であることが分かった。さらに、運動したマウスは、学習や記憶を司る海馬に存在する神経細胞の生産に不可欠な脳由来神経栄養因子(BDNF)というタンパク質のレベルが高いことも分かった。つまり、運動は目にも脳にもいいことが証明されたのだ。

 もともと、人類の祖先はみんな遠視だったと言われている。遠くの獲物が見えることが、生き延びるための必須条件だったからだ。ところが、狩猟生活から農耕生活に移行し、文明が誕生して遠くより近くが見えたほうが有利になるに連れ、近視の人類が増えてきた。ここ100年だけでも近視の率は急上昇している。また、これまでの統計では、外を走り回って遊ぶ子どものほうが近視になりにくいことも分かっている。そのメカニズムはまだ分かっていないが、オリンピック選手などは、明らかに遠視のほうが有利だろう。

 今は、眼鏡やコンタクトだけでなく、レーシックという手がある。数年前、ゴルフプレーヤーのタイガー・ウッズがレーシック手術をした直後、「カップがバケツに見えるよ!」と言っていたのを思い出す。

 レーシックの手術後は、気持ちまで前向きになる人がとても多い。いつか、目のサイエンスという視点からオリンピックに貢献できたらいいなとも思っている。

★今月のテイクホームメッセージ★

運動は目にも脳にもいい。適度な運動で、目と脳を鍛えよう!

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