政治・経済

 テレビや新聞に映る姿はスリムな原田義昭環境大臣だが、つぶれた耳輪を見ると柔道経験者であることにうなずける。「実は学生時代は相当太っていたんです。しかし長年の選挙活動をとおして痩せました」と原田大臣は笑顔で語る。6月20日に行われたインタビューでは、6月15、16日に開催された「G20 持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」(以下、G20エネ・環境閣僚会合)の成果や、環境省が提唱する日本発の脱炭素化・SDGs構想「地域循環共生圏」について尋ねた。聞き手=唐島明子 Photo=西畑孝則

 

原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)プロフィール

原田義昭環境大臣

はらだ・よしあき 1944年福岡県生まれ。環境大臣・内閣府特命担当大臣(原子力防災)、衆議院議員。68年に東京大学法学部卒業後、新日本製鐵を経て71年に通産省入省。90年に衆議院議員初当選。文部科学副大臣、衆議院外務委員長、衆議院財務金融委員長などを歴任。弁護士でもある。柔道6段、囲碁3段、将棋5段。趣味はブログ、美術館・博物館めぐり、ゴルフ、カラオケなど。

 

環境をテーマにしたG20閣僚で実効性あるプラごみ対策に合意

 

―― G20エネ・環境閣僚会合が6月15・16日に開かれました。手ごたえはいかがでしたか。

原田 まさに先週、長野県軽井沢町で「持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」を開催しました。金曜日にプレイベントがあり、土曜・日曜日が本番でしたが、G20として初めて環境をテーマにした閣僚会合でした。私は世耕弘成経済産業大臣と共同議長を務め、お陰さまで「先進国と発展途上国の両グループを、一つの同じ問題意識のもと同じ結論に到達させる」という当初の目的を達成できました。

 気候変動に始まり、環境対策が必要だということについては各国が同じような危機感を持っています。しかし、これまでは先進国と発展途上国とでは立場が異なっていましたし、また先進国の間でさえ政策は異なり、各国の目標や認識もだいぶ違います。ですが、そこは会議期間中に行ったバイ会談などを通してうまくまとめられたと考えています。

―― G20エネ・環境閣僚会合では、海洋プラスチックごみ対策で新しい実効性のある枠組みに合意しました。具体的にはどのような枠組みですか。

原田 今回の会合では、(1)イノベーションの加速化による環境と成長の好循環、(2)資源効率性・海洋プラスチックごみ、(3)生態系を基盤とするアプローチを含む適応と強靭なインフラなど、地球が直面する重要課題をテーマとして取り上げました。(2)のプラスチックごみは大きな環境問題になっていますが、「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組」という国際的な新しい枠組みに合意できました。

 これは各国が自主的にプラスチックごみの対策を実施し、その取り組みに関する情報を継続的に共有・更新するという実効性のあるものです。資源の効率的な利用などについて、各国のグッド・プラクティスや経験を共有するための「G20資源効率性対話」が、2017年のG20ハンブルクサミットで合意されましたが、今年10月に日本で開催する同対話の中で、今回の実施枠組みに基づく第一回目の情報共有を行う予定です。

 G20エネ・環境閣僚会合に先立ち、日本国内ではワンウェイ(使い捨て)のプラスチックごみの削減を目的として、レジ袋の有料化義務化の方針を政府決定しました。

 

フロン対策で世界の先を行く日本

 

―― 国内ではレジ袋の有料化を決定する前に、フロン排出抑制法の改正も行われました。

原田 G20エネ・環境閣僚会合が始まる前の5月29日に、参議院で改正フロン排出抑制法が可決され、成立しました。CO2と比べて、フロンガスは同じ単位当たり数百~数千倍の温室効果がありますので、フロンガスの抑制はとても重要です。日本は非常にまじめにフロン対策をやっていますが、他国に目を転じますと、日本に比べればほとんどの国がやっていないに等しい状況です。

 日本には、上流から下流まで、フロンのライフサイクル全体にわたる総合的な排出抑制の仕組みがあります。特にフロン回収処理については、回収量を正確に把握する仕組みなど、主要先進国と比較して高度な対策を実施しています。会合ではそれをしっかりと訴えました。

 フロン対策でもそうですが、他国への技術的な協力や人材育成など、できることがありましたら積極的にやっていきます。

 例えば日本の先進的な技術として、人工衛星の「いぶき2号」があります。これは温室効果ガスを観測する日本の人工衛星で、地球の上空を回りながらCO2やメタンの情報を収集し、世界の排出実態について非常に詳しく分析しています。国によってはそういうデータを集める技術はありませんから、データでも情報でも、あるものは無償で提供しますとさまざまな場面で伝えています。

 

日本発のSDGsで地方創生地域資源×AI・IoT

 

―― G20エネ・環境閣僚会合を通して、日本のプレゼンスを示すことはできましたか。

原田 私どもはもちろんそう思っていますし、一様に評価してもらえたと自負しています。なんでもそうですが、全力を尽くしてやり切ったのは大事だろうと思います。そういう意味ではかなりやり切りました。安倍晋三総理大臣にも報告し、G20大阪サミットでも自信を持って今回の成果を発表してほしいと伝えました。

 安倍総理は常々、国際的にイニシアチブをとるべきと言います。地球全体のCO2削減もそうですし、今回の海洋プラスチックごみもそうですが、私どもは議長国として全体のイニシアチブを取ってやったつもりです。

―― 環境問題に取り組むとき、世界的には脱炭素化やSDGsがキーワードになっています。環境省は「地域循環共生圏」を提唱してSDGsを進めていますが、その地域循環共生圏とはどのようなものですか。

原田 国際的にはSDGsが一般化してきましたが、地域循環共生圏は日本発の脱炭素化・SDGsを実現する構想です。

 えてして国の政治行政は、中央から地方に発信することが多いですが、それだけでは十分ではありません。地域循環共生圏は、むしろ各地域が美しい自然景観等の地域資源を最大限活用しながら自立・分散型の社会を形成しつつ、地域ごとの特性に応じて資源を補完し支え合うものです。これは地方創生にもつながりますが、環境政策からそれをリードすることを目指しています。

 そして日本企業には、各地域の足元の資源に目を向けて価値を見いだし、AI・IoTなどの最新技術も活用しながら、新ビジネスを創出していってほしいと思います。こうした取り組みはSDGsやパリ協定といった世界的な潮流のもと、日本企業が競争力を高め、中長期的に成長するためのエンジンとなるものです。

 地域での自立的な取り組みというと、どうしてもそれぞれの市町村に閉じてしまいがちで、他の自治体との連携は案外難しいんです。しかし地域循環共生圏は、いざやり始めると地域間の連携・協力が必要になりますので、そこはある程度、国や県が支援することも必要だと考えています。

 環境省は今年度予算で「地域循環共生圏づくりプラットフォーム事業」を実施しており、35団体をモデルとして採択しています。一例として宮城県南三陸町では、同町森林管理協議会がFSC(森林管理協議会)認証を、そして同町戸倉地区のカキ養殖場は日本初のASC(水産養殖管理協議会)認証を取得しました。森と海はつながっていますから、それぞれがサステイナビリティ認証を得ることで、お互い意識的に協力し合えるようになります。

 こういうことを通じて地域循環共生圏の普及を図る。それが最終的にはビジネスに役立てばいいなと考えています。

G20エネ・環境閣僚会合

G20エネ・環境閣僚会合で写真に納まる原田環境大臣(前列中央右)ら

 

「環境」から新ビジネスを創出する

 

―― 来年はいよいよ東京五輪です。各産業分野では日本を未来のショーケースとすべく、さまざまな取り組みを予定しているようですが、環境分野でも何か計画していますか。

原田 東京五輪が、生活や価値観を見なおす契機になればと思います。それだけ五輪が持つ意義は大きいのです。地域循環共生圏にも大きな影響を与えると思っていまして、脱炭素化などの動きが各地で起こってくるとよいと思います。

 東京都は、20年には100台以上の水素バスを走らせようとしています。利用時にCO2を排出しない究極の環境型エネルギーとして、国も水素エネルギーを推奨していますが、先進地域のそういう取り組みが進めば、「自分のところでも試行してみよう」という他の地域の動きにつながります。

 水素エネルギーについては、まだ需要が小さい、コストが高い、研究が途上である、といったいくつかの課題があります。しかしいずれ脱炭素社会を創るときのエネルギーは何かというと、やはり水素エネルギーだと考えています。原料は水で無限にありますし、製造段階で再生可能エネルギーを活用すれば、製造から利用までCO2を排出しません。

―― 水素エネルギーの普及を考えるとコストは大きな課題です。

原田 そういうイノベーションも含めて社会を創っていく必要があります。補助金がもらえるからやるというのでは環境への取り組みは長続きしません。SDGsもそうですし、地域循環共生圏もそうですが、結局最後はビジネスになって、それが最終的に雇用にもつながるということを目指さなければなりません。

 G20エネ・環境閣僚会合でも環境と成長の好循環をテーマとして取り上げましたが、企業も環境制約・規制があるからとイヤイヤやるのではなく、むしろそれを先取りし、いいアイデアや技術を具体化することによって、それがその企業の売りになるというような形に今後はどんどんなってくると思います。

 ESG投資という言葉があります。これは端的にいえば、環境・社会・ガバナンスにしっかり取り組む企業に投資しようというものです。逆に怠っていれば引き揚げてしまう。インベストメント(investment)の逆のダイベストメント(divestment)ですね。これは間違いなくこの数年、世界の潮流になってきています。

 日本はまだその面では遅れていますが、ヨーロッパ、とくにイギリスやドイツなどでは本当にESGの概念が定着しており、金融界が引っ張っていくような雰囲気になっていて、時代が変わってきています。

 

脱炭素社会の実現を早期に目指す

 

―― 今後の環境対策の目標を教えてください。

原田 国連サミットで採択されたSDGsは30年までの目標ですよね。また日本の温室効果ガスの排出については、30年までに26%、50年には80%削減するという、パリ協定の下で国際的に約束した目標があります。

 従来は、産業革命前と比べて2℃以内に平均気温の温度上昇を収めようとしていましたが、最近では1.5℃を追求しようという国際的な雰囲気があります。日本もそういうことを先取りして、今世紀後半のできるだけ早期に脱炭素社会、すなわち実質排出ゼロの実現を目指します。

 今回のG20エネ・環境閣僚会合の議長席やバイ会談で、私は何度も「決めるのは簡単だけど、実践するのは大変なことです」と発言してきました。

 環境行政は一日一日では目に見えた成果はありませんが、地球の未来を見据えて中長期で取り組んでいかなければなりません。対外的にはSDGs、そして対内的には地域循環共生圏を進めていくことで、持続可能な社会、地球を目指します。

 

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