文化・ライフ

5年以内に臨床試験に入る見通し

イラスト/坂木浩子

イラスト/坂木浩子

 肥満はあらゆる生活習慣病の原因となり、寿命を縮めてしまう。そこで食事や運動による減量が重要となるわけだが、高齢で運動をする体力や機能が衰えている人や、病気療養中などで寝たきり生活を送っている人などは、運動したくてもすることができない。そんな人たちにとって朗報となる日本発の研究論文が昨年末に英科学誌『ネイチャー(Nature)』に発表された。

 発表したのは東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科の門脇孝教授らの研究グループだ。

 門脇教授といえば、長年にわたって脂肪細胞から分泌される善玉ホルモン「アディポネクチン」の研究を続けている、アディポネクチン研究の第一人者として知られている。

 アディポネクチンは血糖値の上昇を抑えたり、動脈硬化や炎症を抑える働きを持っていることから、抗メタボホルモンとも呼ばれている。ところが、太って脂肪細胞が肥大化すると、脂肪細胞からのアディポネクチン分泌量が減少してしまう。これが、太ると糖尿病や動脈硬化など、メタボリックシンドロームを招く大きな要因のひとつだったというわけだ。

 ただし、不覚にも太ってしまったとしても、運動をすればアディポネクチンの分泌量は増える。

 これは、運動して体重が減るためではないかと指摘する声もあったのだが、昨年春に韓国の研究者らが発表した研究結果によって、運動をすると、体重が減っても減らなくても、アディポネクチンが増えることが明らかになっている。

 では、加齢や病気などで運動したくてもできない人の場合、どうすればいいのだろう?

 門脇教授らは、アディポネクチンの受容体、つまり、アディポネクチンが筋肉や肝臓の細胞で作用するときの「鍵穴」に注目。この鍵穴を活性化すると、運動をしなくても運動したのと同様の効果が得られることを解明し、2010年の『ネイチャー』で発表していた。

 そして今回、東大の化合物ライブラリーに蓄積された約614万種類の化合物の中から、ついに「鍵穴」にピッタリとはまる「鍵」を発見したというわけだ。

 門脇教授らは、その物質を「アディポロン」と命名。5年以内に臨床試験に入る見通しとのことで、その新薬開発に世界中の注目が集まっている。

医療はもちろん、社会も変わってしまうかも!?

 これまでにも、運動や腹八分の食生活をしなくても、したのと同様の効果をもたらす「ミミックリー(模倣物質)」を探す研究は進められてきた。

 例えば、赤ワインなどに多く含まれるポリフェノールの一種で、ここ数年の間に知名度・認知度が高まってきたレスベラトロールなどは、その代表格だ。ただ、こうした成分を食品やサプリメントで摂取して得られる効果はゆるやかだ。少なくとも、早急な治療がのぞまれるケースでは、サポート程度の効果しか期待できない。

 その点、近い将来アディポロンが実用化されれば、糖尿病などのメタボリックシンドロームの予防・治療の手法が様変わりするかもしれない。

 今回発表された研究論文によれば、糖尿病のマウスに10日間にわたって投与した結果、すい臓から分泌されるインスリンの効きが良くなり、症状が改善。しかも、マウスに高脂肪の食事を与え続けると120日後には7割が死亡してしまうが、アディポロンも同時に与えたグループでは、なんとその半分以下の3割しか亡くならなかったそうだ。

 糖尿病などのメタボリックシンドロームは、そうなる前に食事や運動で予防するのが理想だ。しかし現実には、さまざまな理由で実行できない人も多い。その証拠に、いわゆるメタボ健診がスタートしてからも、糖尿病は増加し続けている。

 現在、糖尿病あるいは糖尿病予備軍は、日本人の成人の4人に1人。男性に限って言えば3人に1人とも言われている。また、糖尿病の人は、そうでない人より約10年も寿命が短いという報告もある。

 門脇教授は「アディポロンはそうした生活習慣病の根本的な治療薬となる可能性がある」とコメントしているが、もし実現すれば、医療だけでなく社会そのものが大きく変わっていく可能性だってあるだろう。

 遺伝的な糖尿病予備軍の1人である僕としても、今後の展開に期待したい。

★今月のテイクホームメッセージ★

運動療法が困難な糖尿病患者にも希望が見えてきた!

 

 

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