政治・経済

個人と組織の間のパワーシフトが発生

 ITの発展のお陰で社会に及ぼした変化はビジネスの効率化や生産性の向上などが挙げられますが、それ以上に大きいのは、個人の力を強めたことだと思っています。

 具体的にどういうことかと言うと、個人の情報収集能力が組織並みに上がりました。昔は組織に属している個人とそうでない人とでは、情報収集能力にものすごい差があったのです。今はウェブ上で、組織に属してない個人でも、いくらでも情報が収集できる。これは人類始まって初めてのことです。つまり個人と組織の間のパワーシフトが起きました。

 昔は専門家になろうと思ったら、まず組織に属する必要があり、大学の研究室や会社などに属すところからキャリアがスタートした。組織に属する理由は情報を得るためでした。しかし今や専門的な情報は組織に属さなくても検索技術により集めることができるようになったことが、まず1つ。

 それからもうひとつは、情報発信も同じように個人ができるようになりました。ソーシャルメディアを利用し、例えば、私自身には15万人のツイッターのフォロワーがいますが、そこらへんのビジネス雑誌より私のほうがメディア力はあると自負しています。こういうことが、個人ベースで起こるようになって、素人でも1千人、2千人のフォロワーを持っている人が山ほどいます。つまり情報を収集することにおいても、情報を発信することにおいても、組織と個人のパワーバランスが完全に変わってしまったのです。個人がいくらでも好きなように才能を伸ばすことができる。情報を収集し、その情報を自分のフィルターを通して発信して、スターになれる時代になったと思います。

 これまで日本の社会というのは、組織を第一に考え、個を抑えてでも組織の和を大事にすることを永らくやってきていましたが、今それを見直す時に来ていると思います。年功序列や終身雇用、新卒一括採用など高度成長期にできた仕組みをこの20年間見直すことができないまま断続しているため、イノベーションが起こりにくく、新たな成長線が描けないのだと思います。もともとイノベーションは、和からは生まれるものではなく、摩擦や、異論から生まれるものです。ここでもう一度、個を大事にする、個というものの存在感をもっと大きくすることを、あらゆる組織で検討していくべきだと思います。

日本は組織よりも個の力が強い

 そういうふうに見てみると、日本人はそもそも個性がないんじゃないかとか、昔から農耕民族で和を尊しとしてきたから個の力は弱いんじゃないか、という議論が必ず出てきます。

 しかし、よくよく考えてみると、まずファッションの世界では、高田賢三さん、山本寛斎さん、三宅一生さん、女性でも森英恵さんなど優秀なファッションデザイナーがたくさんいて、世界中で活躍しています。建築家でも、安藤忠雄さん、磯崎新さん、古くは丹下健三さんなど、世界の建築史に残るような建築家がたくさんいます。音楽アーティストも、もともと洋楽、クラシック音楽は外から入ってきたものなのに、小澤征爾さんをはじめ、ソロのプレーヤーならヴァイオリニストの五嶋みどりさん、ピアニストの内田光子さんなど山ほどいるわけです。

 一方で、ファッションの分野では、こんなに個人のファッションデザイナーがたくさんいるのに、世界に冠たる企業は少ない。建築業界も、世界に名だたる建築家がたくさんいるのに、海外の市場で名の知れたゼネコンはない。音楽も素晴らしい個性のアーティストがたくさんいるのに、凄いオーケストラやレーベルはないのが現状です。

 実は日本は、個は強いのに、組織が弱いと言えるのではないだろうか? ファッションをはじめ、個がもともと力を持つような業界で、こんなに活躍する日本人がいるということは、製造業やサービス業などにおいても、もっと個が見えるようにしたほうが、競争力が強い可能性がある。むしろ個というものをもっと前面に押し出した経営モデルをわれわれは考えてもいいのではないかと思います。

 例えば、プレイステーションの生みの親の久夛良木健さん、iモードと言えば私の名前が個として顔を出していたと思います。ヒット商品には必ず個が見えている。個人と組織の関係がうまくいった時にイノベーションやヒット商品が生まれるのだと思います。逆に、個が見えないものは、あまり大きくならないように思います。特に日本の場合、それは戦略的に個を見せてきたわけではなくて、たまたまなんですよ。これからは個が見える経営や、個を生かす経営に転換する時代だと思っています。

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