政治・経済

東芝はエネルギー、ストレージに続く第3の柱としてヘルスケア事業の拡大を図っている。このたび、田中久雄社長が直々に事業戦略を明らかにしたが、大半が新規事業となるため、東芝の実情を考えると成長性には疑問が残る。 (本誌/村田晋一郎)

4分野で売り上げ 1兆円を目指す

ヘルスケア事業戦略を発表するする田中久雄・東芝社長

 東芝は昨年8月、田中久雄社長の就任後初めてとなる経営方針説明会において、エネルギー、ストレージに続く第3の柱としてヘルスケア事業に注力することを打ち出した。東芝では、もともと医療用画像診断装置などヘルスケア製品を手掛けていたが、グループ全体の成長戦略として、事業を拡大させていく構えを見せた。それから半年後の今年2月に事業戦略説明会を開催、田中社長が直々にヘルスケア事業の展開を明らかにした。

 現在の東芝を支える2大事業であるエネルギーとストレージの現状を考えると、原子力発電事業は東日本大震災以降、逆風に晒され、半導体事業はNANDフラッシュメモリで韓国サムスン電子との熾烈な争いが続いている。それだけに、第3の成長の柱を確立することは東芝にとって重要な経営課題である。また、半導体事業と原発事業は、それぞれ西田厚聰会長と佐々木則夫副会長のイメージが強い。田中社長にとっては、自らの影響力を高めるために新たな成長事業が必要となる。そこで推進するのがヘルスケア事業だ。

 ヘルスケア事業の推進にあたって田中社長が掲げたのが、「広範囲の技術を融合した異次元ヘルスケアの創造」。東芝グループのさまざまな技術を融合させる「ニュー・コンセプト・イノベーション」により東芝独自の商品・サービスを提供するとしている。具体的には、「診断・治療」「予防」「予後・介護」「健康増進」の4分野で事業を推進する。

 診断・治療分野は、東芝が強みを持つCTシステムなどの画像診断装置を中心に展開。さらに半導体技術を活用し、体への負担をより低減するカプセル内視鏡事業へ参入する。

 予防分野は、病気の発症リスクを低減するソリューションを提供する。「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」の枠組みの中で、ビッグデータ解析技術を活用。東北大学と協同でアレイチップを開発し、低コストかつ短時間で行えるゲノム解析事業へ参入する。バイオセンサやライフログを開発・活用することで、予防支援事業を推進する。

 予後・介護分野は病気やけがの治癒後が対象のサービスとなる。例えば、音声認識技術を活用した音声つぶやきSNSにより、医療情報の共有化を可能にするなど、自宅での予後のケアや高齢者介護において、家族や介護者の負担を軽減する。

 健康増進分野は、食、水、空気などの生活環境を整備する。具体的には、空気清浄技術や抗菌・抗ウイルス技術などを活用し、生活のさまざまな事象の安全性を高める。また、植物工場で安全・安心な野菜を提供する。

 具体的な製品は、14年度以降に順次市場投入する予定。ヘルスケア事業の売り上げは12年度で4千億円弱だが、15年度に6千億円、17年度には1兆円以上の売り上げを目指す。

東芝の実状にそぐわない成長戦略

 東芝が第3の柱へと意気込む一方で、冷ややかな見方もある。「事業方針がいかにも総花的で、あたかもコンサルティング会社の提案にそのまま乗ってしまった印象を受ける」とは、ある業界関係者の弁。

 東芝では、注力する4分野の12年の市場規模を合計で約33兆円と推計。その内訳は、診断・医療が約12兆円、予後・介護が10兆円、予防が1兆円、健康増進が10兆円を見込んでいる。少子高齢化や環境意識の高まりを考えると、これらの分野は今後も市場が拡大していくことが予想される。同分野が東芝の成長のドライバーになり得ると考えてもおかしくない。

 しかし、東芝がこれらの分野にどれだけのリソースと競争力を有しているかを考えると、事業拡大は簡単な話ではない。4分野約33兆円のうち、予後・介護、予防、健康増進の3分野約21兆円市場は、東芝にとって全くの新規事業になる。ニュー・コンセプト・イノベーションにより、同社のエレクトロニクスの知見とのシナジーを生かすとするが、ほとんどがゼロベースからのスタートだ。現在、開発を進めているという製品が市場投入されたとしても市場を獲得できるとは限らない。田中社長は、事業拡大に伴い大型のM&Aの可能性を示唆しているが、それだけで市場を抑えられると考えるのは早計だろう。この辺りの見通しの甘さは、いかにもコンサルティング主導の戦略に映る。

 一方で、15年度で6千億円という目標設定も理解に苦しむ。13年度で4千億円以上の売り上げを見込んでいるが、ほとんどが診断・治療分野で、もともと競争力のある画像診断機器事業のもの。12年度の実績で、CTシステムは日本シェア1位で世界シェア3位、MRIシステムは日本シェア、世界シェアともに4位、超音波診断システムは日本シェア2位、世界シェア3位となっている。このポジションを考えると、現状の積み増しで6千億円は見えてくる。それだけに6千億円という数字は大々的に目標に掲げるまでもなく、体面を取り繕っているとの見方もある。

 また、14年4月をめどに新体制への移行を検討しているという。東芝本体のヘルスケア事業開発部と東芝メディカルシステムズ、東芝グループ内のヘルスケア関連事業を統合し、新組織に集結させるというもの。総合力を結集すると言えば、聞こえが良いかもしれないが、前述の通り、ほとんどが海の物とも山の物とも思えない新規事業だ。個々の力がないものを集めても競争力が高まるとは限らない。

 今回打ち出した事業方針は、枠組みの刷新や総花的な展開で体面を良くするだけのように思える。それよりコアとなる既存の画像診断機器をさらに強くし、同分野で世界一を達成することのほうが先決なのではないか。画像診断機器事業が半導体や原発と同様に頭抜けた事業になった時に、ヘルスケアは東芝の第3の柱になるだろう。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

広告やマーケティング、ブランディングを事業プロデュースという大きな枠で捉え、事業が成功するまで顧客と並走する姿勢が支持されているグランドビジョン。経営者の思いを形にしていく力で、単なる広告代理店とは一線を画している。 中尾賢一郎・グランドビジョン社長プロフィール &nb…

中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

人材戦略を経営の核に成長する駐車場ビジネスのプロ集団―清家政彦(セイワパーク社長)

「PCのかかりつけ医」として100年企業への基盤構築を進める―黒木英隆(メディエイター社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

20歳で探検家グランドスラム達成した南谷真鈴さんの素顔

自らの手で未来をつかみ取る革新者たちは、自分の可能性をどう開花させてきたのか。今回インタビューしたのは、学生でありながら自力で資金を集め、世界最年少で探検家グランドスラムを制した南谷真鈴さんだ。文=唐島明子 Photo=山田朋和(『経済界』2020年1月号より転載)南谷真鈴さんプロフィール&nbs…

南谷真鈴

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年1月号
[特集] 新しい街は懐かしい
  • ・「街の記憶」で未来をリノベーション
  • ・日本橋が「空を取り戻す」水辺と路地がつながる街へ
  • ・水辺はエンタメの宝庫だ 大阪が目指す観光客1300万人
  • ・街の誇りを取り戻せ 名古屋・堀川復活プロジェクト
  • ・なぜ水辺に都市が栄えるのか
  • ・2020以降は海と川がさらに面白くなる
  • ・「住む」と「働く」両方できるが求められている(たまプラーザ)
  • ・「土徳」が育む一流の田舎(南砺市)
  • ・音楽ファンが集う街づくり
[Special Interview]

 辻 慎吾(森ビル社長)

 東京が世界で勝ち抜くために必要なこと

[NEWS REPORT]

◆飛びたくても飛べないスペースジェットの未来

◆エンタメが街を彩る 地方創生に挑むポニーキャニオン

◆問題噴出のコンビニをドラッグストアが抜き去る日

◆始まった自動車世界再編 日本メーカーはどう動く?

[特集2]

 経済界福岡支局開設35周年記念企画

 拓く!九州 財界トップが語る2030年のかたち

ページ上部へ戻る