政治・経済

東京都知事に脱原発の権限はない

 東京都知事選挙の争点に「脱原発」を持ってこようとする人々が少なくなく、筆者は正直、愕然としてしまった。一部の大手紙に至っては、

「東京都知事選 首都で原発を問う意義(朝日新聞 2014年1月15日)」

「東京都知事選 脱原発は大事な争点だ(東京新聞 2014年1月15日)」

 といった記事を書いているわけだから、呆れるしかない。

 何しろ、東京都知事になったところで、脱原発は達成できない。朝日新聞は、前記記事(社説)で、「都は東京電力の大株主だ。知事は、東電の経営に物申すこともできる」と書いている。とはいえ、東京都は確かに東電の株主ではあるが、株式保有比率は1・2%にすぎない。東電は原子力損害賠償支援機構に株式の54・7%を保有されており、都知事は「脱原発」を実現する権力も権限も持たない。

 そもそも、原発を含む電力供給の問題は「国家」の問題である。都知事に就任したからといって、国家全体のエネルギー安全保障を左右できるはずがないし、左右されても困る。

 正直、脱原発を争点に据えようとしている勢力からは、東京都政とは「無関係」に、自らの政治的意図を達成しようという「邪(よこしま)」な意図が感じられるのだ。とはいえ、東京都知事選挙で脱原発を叫ぶ行為自体は、政治的自由、言論の自由の範囲であることは間違いない。

原発即ゼロへの主張に対する4つの疑問

 しかし、脱原発やら「原発即ゼロ」を政治的に掲げるならば、以下の4つの点をきちんと説明してもらわなければならない。

1.原発を再稼働させず、いかなる電力源でわが国のエネルギーを賄うのか(短期の話ではなく、中長期的な話だ)。

 再生可能エネルギーで原発の代替をするのは不可能である。太陽光の場合、原発1基分の電力を発電するためには、山手線の内側の広さにパネルを敷き詰める必要がある。

2.原発を再稼働させないため、わが国の所得(GDP)が兆円単位で中東の天然ガス産出国(カタールなど)に渡っているわけだが、この問題についてはどのように対処するのか(放置するのか)。

3.わが国に存在する使用済み核燃料(およそ2万㌧)をどうするのか? 再処理せず、最終処分するとなると、半減期が長い(2万4千年!)プルトニウムを含んだまま地層処分せざるを得ないことになるが、本当にそれで構わないのか(しかも、体積が再処理しない場合と比べて、3倍に増える)。

4.エネルギー安全保障を考えたとき、エネルギー供給源の「多様化」が必要である。原発を動かさないとして、わが国のエネルギーミックスをどうバランスさせるつもりか。現在は、天然ガスに偏りつつあり、バランスは崩れている。

新東京都知事は「常識に基づいた優先順位」を

062_20140218_01 わが国が実際に原発を再稼働しない場合、エネルギー安全保障が脅かされ、電気料金が上昇し、企業業績が悪化し、国民がさらに貧困化することになる。しつこいが、脱原発を個人的に主張するのは「価値観」の問題なので、別に構わない。わが国には言論の自由がある。

 筆者は「エネルギー安全保障」の観点などから、脱原発に反対しているが、「エネルギー安全保障など、どうでもいい」と言われれば、それまでだ。

 原発を再稼働させないことで、わが国のエネルギー安全保障が揺らぎ、経済が低迷し、国力が衰退し、経済力が弱体化したことで代替エネルギーや蓄電技術への投資が進まず、電気料金が上がり続ける中、ひたすら「節電、節電」で乗り切ろうとして、呆れかえった製造業が次々に海外に拠点を移し、国内から雇用が失われ、国民の貧困化がどこまでも進み、最終的にはわが国が発展途上国化することになることが明らかになっても、「原発は即ゼロ!」と叫ぶこともまた、言論の自由の範囲ではある。

 そうだとしても、原発を再稼働させない場合の「日本の将来」や「脱原発のプロセス」について、きちんとシミュレーションを示してもらいたい。脱原発のプロセスは純粋に技術的、科学的な問題である。そこにイデオロギーを持ち込み、スローガン(脱原発!)先行で話を進めようとする姿勢はいただけない。

 現実の東京都民は、脱原発といった政治的ゲームに興じている余裕はない。首都直下型地震の脅威が迫り、インフラの老朽化が顕著になり、さらに6年後には東京五輪が開催される。無論、震災対策や老朽インフラのメンテナンスと、東京五輪の準備は両立できる。首都直下型地震が東京五輪前に発生する確率は3割近い。対して、原発を再稼働した際に国民が受けるリスクは、どれほどなのか。

 結局は、「常識に基づいた優先順位」の問題なのだ。出血をしているなら、まずは血を止める。骨折をしたなら、取りあえず病院に行く。

 首都直下型地震が迫っているならば、東京の強靭化を推進する。原発を再稼働しないことで国家のエネルギー安全保障が弱体化し、貿易赤字拡大が止まらないならば、安全を確認した上で再稼働する。

「常識に基づいた優先順位」を理解した都知事が誕生するか否かにより、東京や日本の運命は大きく変わることになるだろう。

筆者の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年7・8月合併号
[特集] 世界で売れるか!? 日本カルチャー
  • ・拡大のカギは「点」の活動を「面」にしていくこと
  • ・技術はあくまで手段。感動を生み出すことが市場を拓いていく 迫本淳一(松竹社長)
  • ・世界最大の中国市場 攻略のカギはどこにある!?
  • ・41カ所の海外店舗で和菓子の心を世界に 岡田憲明(源吉兆庵ホールディングス社長)
  • ・プロが認める商品として日本茶ブランドを構築 丸山慶太(丸山海苔店社長)
  • ・機能性とファッション性で再発見される地下足袋の魅力
  • ・日本を発信するビームス ジャパン 常設ショップ視野に海外でも販売
  • ・盆栽輸出量は16年で20倍 今や「BONSAI」は共通語
[Special Interview]

 大崎洋(吉本興業ホールディングス会長)

 数字じゃない存在意義が、より問われてくる

[NEWS REPORT]

◆アビガンで注目集める富士フイルム・医薬品事業の実力

◆100周年を襲ったコロナ禍 マツダは危機を乗り越えられるか

◆住宅から高級家具まで「ダボハゼ」ヤマダ電機の明日

◆抽選倍率100倍の超人気 シャープがマスク製造する真意

[特別企画]

 危機を乗り越える

◆緊急事態宣言で導入企業が激増 ビジネスチャットが変える働き方

◆在宅ワークの効率を上げる方法とストレスマネジメント

◆輸入依存の中国経済にコロナ禍がとどめの一撃 石 平(作家、中国問題評論家)

ページ上部へ戻る