政治・経済

石油元売り業界にとって、政府の「エネルギー供給構造高度化法」の対応期限となるこの3月は大きな節目となる。元売りを再編・統合に導こうする国と、業界との間で激しいせめぎ合いが展開されている。 (ジャーナリスト/安倍正久)

石油業界のこれから 法律による過剰供給抑制に異論

厳しい局面にたたされた石油元売り(写真はJX日鉱日石エネルギーの室蘭製油所)/写真:時事通信フォト

 エネルギー供給構造高度化法の対応期限となる3月末を期して、JX日鉱日石エネルギーと出光興産は一部の製油所での原油処理を停止し、東燃ゼネラル石油は一部の主要設備を廃棄する。昭和シェル石油とコスモ石油は既に製油所を閉鎖済みだ。

 高度化法は文字通り、日本の石油精製業の高度化を促すのが目的。ガソリンや軽油など高付加価値の製品を作れる「重質油分解装置」の装備率を高めるよう、石油会社に義務付ける法律だ。ところが、ガソリンや軽油などの需要はここ数年、右肩下がり。今後も減り続けるのは確実で、分解装置の投資は全く経済性に合わないのだ。そのため、多くの企業は装備率を引き上げるのに、分母となる原油処理設備能力を減らすという選択をせざるを得ない。

 もっと直截に言えば、慢性的な設備過剰状態にある製油所を淘汰し、あわよくば多過ぎる元売りを再編・統合に導こうというのが高度化法の真の狙いだ。このため、一部の元売り関係者からは「国は石油事業を自由化したのに、民間の重要な経営事項に干渉するのはおかしい」という不満がくすぶっていた。

 だが、法制化されてしまったからには、いくら反発しても後の祭り。4月以降、国内の原油処理能力は過去10年のピークだった2008年4月比で約2割削減される。

 折しも、昨年夏の猛暑が過ぎ去って以降、石油製品の市況は、リーマンショック後の09年以来と言われるほどの厳しい局面に突入している。急激な円安で原材料費が高騰したのにもかかわらず、ガソリンや灯油への価格転嫁が進まず、元売りの業績は急速に悪化。製油所は減産に次ぐ減産となっている。

 天候要因や消費者の買い控えといった事情もあるが、最大の要因はやはり供給過剰だ。製油所で余った製品が商社向けなどのルートから市場に流れ込み、安値で取引され、全体の足を引っ張っている。こうしたこともあり、3月末の製油所閉鎖や設備廃却により、業界では高度化法に不満を持つ関係者も含め、「一時的に需給が引き締まり、市況は多少は良くなるだろう」と口をそろえる。

 だが、これで問題は解決しない。市況は一時的には改善するだろうが、国内需要は自動車の低燃費化やガス・電気への燃料転換、省エネルギー化などが進み、さらに減っていくのは明らか。いずれまた供給過剰が深刻化するのは避けられない。国は高度化法の手綱を緩めず、早くも「ポスト高度化法」の議論を開始し、新たな能力削減を義務づける構えだ。加えて、違う企業同士の製油所や立地場所が離れた製油所を有機的に連携させることも進め、最終的には企業の再編・統合に導こうという狙いがある。

 ある関係者は「国は日本に元売りは3社もあれば十分だと考えているようだ」と打ち明ける。家電や半導体などの業界では、かつて多数のプレーヤーが国内の競争で消耗し、結果的に海外市場で韓国や台湾企業に惨敗したという悲劇がある。これを他産業では繰り返さないという強い意志がある。ところが、それを法律で縛るという石油産業に対するやり方には異論も少なくない。

石油業界の足並みは揃わず 統合・合併は難しい?

 2月下旬、経済産業相の諮問機関である総合資源エネルギー調査会が、ポスト高度化法について話し合う小委員会を立ち上げた。事務局の資源エネルギー庁は石油元売り大手5社の収益力の低さや国際展開の遅れなどを次々と指摘。「進めるべきこと」として、製油所の生産性向上、特に製油所の再編や規模拡大を強く求めた。

 これに対し、小委員会の委員長を務める一橋大学大学院の橘川武郎教授は「方向性は全く正しい。しかし、それを国が義務付けて誘導することには異論がある」とけん制した。委員の1人、日本エネルギー経済研究所の豊田正和理事長も「石油産業自身の主体的な合理化への取り組みを尊重すべき」と国の方針に異論を挟んだ。

 だが、大きな流れは変わりそうにない。石油業界の足並みが揃わないためだ。そもそも高度化法は、再編・統合主義者でもあるJXホールディングスの渡文明相談役が経産省とタッグを組んで仕掛けたとされる。JXは当然、今の高度化法の路線継続を願ってやまない。しかも業界の意見を代表する石油連盟の現会長はJXの木村康会長だ。

 業界2位の出光興産も供給過剰解消による業界正常化を最も強く訴えているため、最終的にその方法論にはこだわらないと見られる。やりきれないのは3位以下の企業だ。これ以上の設備削減は自らの企業体力を衰えさせるだけ。単独では先細りが必至だ。

 しかし、それは国やJXの思うつぼ。体力が弱った段階でJXなどに飲み込まれかねない。かといって、3位以下の企業による大同合併という選択肢も簡単ではない。どこが主導権を握るかで、多大なエネルギーを消費する。どちらにしても、自主経営の旗は降ろさざるを得ず、憂鬱な選択にしかならない。

 例えば、東燃ゼネラルは三井物産の子会社で、元売りの一角だった旧三井石油を買収したばかり。旧三井石油と折半出資で運営していた製油所(極東石油工業)と、旧三井石油のガソリンスタンド網を抱え、その統合作業に忙殺されている。

 他方で東燃ゼネラルは、極東石油と隣接するコスモの千葉製油所(千葉県市原市)を統合させる検討をスタート。また、対岸にある川崎市の川崎工場では隣接する昭和シェルグループの製油所との連携を強化。地域ごとに他社と組む手に出ている。東燃ゼネラルの武藤潤社長は、2月中旬の会見でコスモや昭和シェルとの合併を明確に否定。地域連携によって今後の難局を乗り切る戦略を描いている。

 だが、それがうまく運ぶかどうかはポスト高度化法の行方次第。最悪、前言を撤回する事態にも追い込まれかねない。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

【特集】2019年注目企業30

 2018年の日本経済は、世界のマーケットを席巻してきた中国経済の成長鈍化が鮮明になり、併せて米・中の経済摩擦、英国のEU離脱問題などの対外的な課題が重なって大きな閉そく感が漂う年だった。 しかしながら元気な中堅・中小企業はネガティブな要因をものともせず独自の経営手法で活路を開いている。 原点回帰で、顧客第一…

「超サポ愉快カンパニー」としてワクワクするビジネスサイクルを回す―アシスト

ITと建設機械、グリーンエネルギーの3本柱で地球環境問題解決に貢献する―Abalance

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年4月号
[特集]
日本の「食」最前線

  • ・総論 日本の「食」から世界の「食」へ 成長産業となった農水・食品産業
  • ・「食」の輸出1兆円を支えるジェトロの役割
  • ・全国で進むブランド化「食」から始まる地方創生
  • ・上海で見た日本の「食」の未来
  • ・海外進出した外食チェーン「成功」と「失敗」の分かれ目
  • ・日本人が知らない中国の「日本食ブーム」の真実
  • ・消費税引き上げで始まる「外食VS中食」最終戦争

[Special Interview]

 星野晃司(小田急電鉄社長)

 「未来を見据えた挑戦で日本一暮らしやすい沿線をつくる」

[NEWS REPORT]

◆中国リスクが顕在化 電機業界に再び漂い始めた暗雲

◆持続可能な水産業へ 魚はいつまで食べられるのか

◆CES 2019現地レポート 家電からテクノロジーへの主役交代が鮮明に

◆相次ぐトラブルで業績悪化 SUBARUの見えない明日

[総力特集]

 2019年注目企業30

ページ上部へ戻る