政治・経済

若者を中心に「新しい形の賃貸住宅」として定着したシェアハウス。プライベートな空間でありながら、同居者との交流を楽しむという、従来の「賃貸住宅」の概念を根底から覆した。今や人気のシェアハウスの業界最大手であり、海外展開も視野に入れているオークハウスの山中武志社長が描く成長戦略とは。

シェアハウスでは〝共有〟から生まれる インキュベータ機能も

オークハウスの山中武志社長

オークハウスの山中武志社長

 シェアハウスは敷金、礼金、保証人なしが基本で、短期間での出入りも可能なフレキシブルな使い勝手の良さが人気の背景にある。昨今、メディアで「若者たちのコミュニティーハウス」という採り上げ方もされているが、シェアハウスの本質は、賃貸住宅の古い習慣を変えたところにある。オークハウスを経営する山中武志社長が事業を始めたのは、手持ち物件を外国人相手に貸したことがきっかけだった。「外国人は賃貸住宅を借りにくいという事情があって、当初は入居者の9割が外国人、とくに留学生が多かったですね」という。

 山中氏はその後、同様の物件を増やし、1992年にオークハウスを設立。入居者も外国人中心から、徐々に日本人にシフトしていったが、今は入居者の8割が日本人で、物件数も184件、3548室にまで増えている。現在は、業態も大きく変貌しており、「ソーシャルハウス、ソーシャルレジデンスと呼んでいるのですが、単に部屋を借りて住むのではなく、入居者がつながっていくのです。アプリの開発、提供、アクティビティーとしてのパーティーやイベントの開催なども積極的に行っています」と語る。

 中には、フリーランスで働く人、起業を目指している人がオフィス兼住居として利用する例も増えている。さまざまな目的をもった人たちがつながることで新しいアイデアが生まれたり、人脈が膨らんだりと、その場が、大きな付加価値を作り出すインキュベーター的機能もある。

 ニーズはあっても、シェアハウスの供給量はどうなのか。

 「賃貸業界は、そもそも物件が余っているのに敷金、礼金、保証人などといった〝貸さないためのルール〟が定着していたせいで、必要な供給量がありませんでした。賃貸業者も、物件のオーナーの方を向いてビジネスをしており、入居者のことを考えていないケースが多かった。当社が考えたのは、〝入居者の代理人になる〟ということだったのです」

 オークハウスではオーナーから物件を預かり、什器類はリースで整え、それこそ体1つで入居できる仕組み。会員になれば、複数のシェアハウスに移り住むこともできる。入居者の中には使い勝手の良さと、新たな同居人との出会いに期待して、通常の賃貸マンションではなく、わざわざシェアハウスを選ぶ人が増えている。

日本でのシェアハウス成功事例を海外でも

多くの人が〝つながる〟ことで新しい出会いや価値が生まれるシェアハウス

多くの人が〝つながる〟ことで新しい出会いや価値が生まれるシェアハウス

 また物件のオーナーにとっても、シェアハウスは魅力的だ。オークハウスでは物件を一括して借りあげ、管理などもすべて行う。しかも入居率が高いので、空室を心配しなくてもいい。

 物件のオーナーは個人に限ったことではなく、企業が保有する社員寮だったり、また従来の賃貸アパートでもリノベーションすれば、立派なシェアハウスに変貌する。

 「シェアハウスというと、一軒屋の個室をそれぞれのプライベートルームにして、リビングや水回りを共有するというイメージがあるのですが、社員寮などでは規模も大きいし、共有の空間も利用できるので人気です。また最近では、通常のワンルーム、アパートの形態の物件も増えており、通常の賃貸では住めないグレードの物件に住めるという例もあり、入居者には喜ばれています。シェアハウスだからこそ、高品質の住宅に住めるということもあるのです」

 貸す側、つまり家主を中心に考えられていた賃貸業界を、住む側、借りる側の立場でとらえ直したものが、シェアハウスだ。山中氏は「消費者が一番えらい」と断言する。

 その一方で懸念されるのは、共有スペースの管理や、入居条件が厳しくないが故の入居者同士のトラブルだ。この点に関して、山中氏は全く心配していないという。同社では日常的に社内スタッフが建物に出入りして物件管理を行うほか、入居者のケアもきめ細かく見ている。採用しているスタッフには留学経験者も多く、あくまでも接客業としてのスキルを有する人材を採用、教育を徹底している。年間で1500室程度のペースで物件が増えているので、優秀なスタッフの確保も重要だ。

 同社は今後、海外でも積極的に展開していく計画だ。実際、ソーシャルレジデンスをバンコクで展開しないか、という話も具体化しつつあるという。

「現役を引退して、老後は海外で暮らしたいというときに、一番に困るのは住居です。それをシェアハウスにすれば、半年間はバンコクで、その後はマニラで、ということも簡単にできます。また、日本からの留学生などの受け皿にもなるでしょう」

 オークハウスは現在、物件数でシェアハウス業界の最大手。「確かに日本一ですが、世界中探してもうちのような会社は聞いたことがないので、もしかしたら世界一かもしれませんね」と語る。

 「特殊な住宅」だったシェアハウスも、メディアで採り上げられることも増えて今では普通の人が入居する時代になった。それは、既存の賃貸住宅に不満をもった人たちが多いことの裏返しだ。昨今、さまざまな新興勢力が出現しているが、賃貸業界で生まれた新たなサービス型ベンチャーは今後も形をかえて成長していくだろう。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事

ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…

企業eye

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年8月号
[特集]
パナソニック新世紀

  • ・総論 家電事業でもB2Bでも根底に流れる「お役立ち」
  • ・樋口泰行(コネクティッドソリューションズ社社長)
  • ・B2Bに舵を切るパナソニック
  • ・パナソニックのDNA 家電事業の次の100年
  • ・本間哲朗(アプライアンス社社長)
  • ・パナソニックの家電を支えた“街の電気屋”の昨日・今日・明日
  • ・テスラ向け電池は量産へ 成長のカギ握る自動車事業
  • ・パナソニックとオリンピック・パラリンピック

[Special Interview]

 津賀一宏(パナソニック社長)

 変化し進化し続けることでパナソニックの未来を創る

[NEWS REPORT]

◆商品開発に続き環境対策で競い合うコンビニチェーン

◆サムスンを追撃できるか? ようやく船出する東芝メモリの前途

◆スバル・吉永泰之社長はなぜ「裸の王様」になったのか

◆「ニーハオトイレ」は遠い昔 中国を席巻するトイレ革命

[政知巡礼]

 木原誠二(衆議院議員)

 「政治が気合を持って、今のやり方を変えていく覚悟を」

ページ上部へ戻る