[NEWS REPORT]
賃貸住宅業界の概念を一変させたオークハウスのシェアハウス革命
2014年3月18日

若者を中心に「新しい形の賃貸住宅」として定着したシェアハウス。プライベートな空間でありながら、同居者との交流を楽しむという、従来の「賃貸住宅」の概念を根底から覆した。今や人気のシェアハウスの業界最大手であり、海外展開も視野に入れているオークハウスの山中武志社長が描く成長戦略とは。
〝共有〟から生まれる インキュベータ機能も
シェアハウスは敷金、礼金、保証人なしが基本で、短期間での出入りも可能なフレキシブルな使い勝手の良さが人気の背景にある。昨今、メディアで「若者たちのコミュニティーハウス」という採り上げ方もされているが、シェアハウスの本質は、賃貸住宅の古い習慣を変えたところにある。オークハウスを経営する山中武志社長が事業を始めたのは、手持ち物件を外国人相手に貸したことがきっかけだった。「外国人は賃貸住宅を借りにくいという事情があって、当初は入居者の9割が外国人、とくに留学生が多かったですね」という。
山中氏はその後、同様の物件を増やし、1992年にオークハウスを設立。入居者も外国人中心から、徐々に日本人にシフトしていったが、今は入居者の8割が日本人で、物件数も184件、3548室にまで増えている。現在は、業態も大きく変貌しており、「ソーシャルハウス、ソーシャルレジデンスと呼んでいるのですが、単に部屋を借りて住むのではなく、入居者がつながっていくのです。アプリの開発、提供、アクティビティーとしてのパーティーやイベントの開催なども積極的に行っています」と語る。
中には、フリーランスで働く人、起業を目指している人がオフィス兼住居として利用する例も増えている。さまざまな目的をもった人たちがつながることで新しいアイデアが生まれたり、人脈が膨らんだりと、その場が、大きな付加価値を作り出すインキュベーター的機能もある。
ニーズはあっても、シェアハウスの供給量はどうなのか。
「賃貸業界は、そもそも物件が余っているのに敷金、礼金、保証人などといった〝貸さないためのルール〟が定着していたせいで、必要な供給量がありませんでした。賃貸業者も、物件のオーナーの方を向いてビジネスをしており、入居者のことを考えていないケースが多かった。当社が考えたのは、〝入居者の代理人になる〟ということだったのです」
オークハウスではオーナーから物件を預かり、什器類はリースで整え、それこそ体1つで入居できる仕組み。会員になれば、複数のシェアハウスに移り住むこともできる。入居者の中には使い勝手の良さと、新たな同居人との出会いに期待して、通常の賃貸マンションではなく、わざわざシェアハウスを選ぶ人が増えている。
日本での成功事例を海外でも
また物件のオーナーにとっても、シェアハウスは魅力的だ。オークハウスでは物件を一括して借りあげ、管理などもすべて行う。しかも入居率が高いので、空室を心配しなくてもいい。
物件のオーナーは個人に限ったことではなく、企業が保有する社員寮だったり、また従来の賃貸アパートでもリノベーションすれば、立派なシェアハウスに変貌する。
「シェアハウスというと、一軒屋の個室をそれぞれのプライベートルームにして、リビングや水回りを共有するというイメージがあるのですが、社員寮などでは規模も大きいし、共有の空間も利用できるので人気です。また最近では、通常のワンルーム、アパートの形態の物件も増えており、通常の賃貸では住めないグレードの物件に住めるという例もあり、入居者には喜ばれています。シェアハウスだからこそ、高品質の住宅に住めるということもあるのです」
貸す側、つまり家主を中心に考えられていた賃貸業界を、住む側、借りる側の立場でとらえ直したものが、シェアハウスだ。山中氏は「消費者が一番えらい」と断言する。
その一方で懸念されるのは、共有スペースの管理や、入居条件が厳しくないが故の入居者同士のトラブルだ。この点に関して、山中氏は全く心配していないという。同社では日常的に社内スタッフが建物に出入りして物件管理を行うほか、入居者のケアもきめ細かく見ている。採用しているスタッフには留学経験者も多く、あくまでも接客業としてのスキルを有する人材を採用、教育を徹底している。年間で1500室程度のペースで物件が増えているので、優秀なスタッフの確保も重要だ。
同社は今後、海外でも積極的に展開していく計画だ。実際、ソーシャルレジデンスをバンコクで展開しないか、という話も具体化しつつあるという。
「現役を引退して、老後は海外で暮らしたいというときに、一番に困るのは住居です。それをシェアハウスにすれば、半年間はバンコクで、その後はマニラで、ということも簡単にできます。また、日本からの留学生などの受け皿にもなるでしょう」
オークハウスは現在、物件数でシェアハウス業界の最大手。「確かに日本一ですが、世界中探してもうちのような会社は聞いたことがないので、もしかしたら世界一かもしれませんね」と語る。
「特殊な住宅」だったシェアハウスも、メディアで採り上げられることも増えて今では普通の人が入居する時代になった。それは、既存の賃貸住宅に不満をもった人たちが多いことの裏返しだ。昨今、さまざまな新興勢力が出現しているが、賃貸業界で生まれた新たなサービス型ベンチャーは今後も形をかえて成長していくだろう。
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