政治・経済

34㍍級の津波の可能性も

 昨年秋の臨時国会において、国土強靭化基本法(正式名称は「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法」という)が成立し、さらに南海トラフ地震対策特別措置法と首都直下地震対策特別措置法も無事に国会を通過した。上記、国土強靭化三法に則り、安倍晋三内閣総理大臣は2013年12月17日に国土強靭化推進本部の初会合を開き、国土強靭化政策大綱が決定された。国土強靭化は正式に「政府の方針」となったことになる。

 大綱には、国土強靭化の目標についてこう書かれている。

「いかなる災害等が発生しようとも、(1)人命の保護が最大限図られること、(2)国家及び社会の重要な機能が致命的な障害を受けず維持されること、(3)国民の財産及び公共施設に係る被害の最小化、(4)迅速な復旧復興を基本目標として、「強さ」と「しなやかさ」を持った安全・安心な国土・地域・経済社会の構築に向けた「国土の強靱化」(ナショナル・レジリエンス)を推進することとする」

 現実の国土強靭化の道のりは厳しいものになるだろう。何しろ、日本国民の多くが「巨大地震という非常事態」について、真剣に「想像」していない。東日本大震災を経てさえ、「自分が犠牲者になる可能性」について考慮していない国民が多数派ではないか。

 13年12月19日、内閣府の有識者会議が「差し迫っている」と考えられているM(マグニチュード)7級の首都直下型地震が都心南部で起きた場合、首都圏(1都3県)を中心に61万棟が全壊・焼失し、2万3千人が死亡するとの新たな被害想定を公表した(相模トラフでM8級巨大地震が発生すると、死者数は最大7万人に膨れ上がる)。

 さかのぼること7カ月前、5月28日、政府は南海トラフ巨大地震の被害想定について「死者数約32万人、負傷者数約62万人、建物の全壊が約239万戸」と、想像を絶する数値を明らかにしている。経済的被害は、首都直下型も南海トラフも、ともに数百兆円規模に達するとのことだ。

 例えば、高知県の黒潮町や土佐清水市では、南海トラフ地震発生時に「34㍍級」の津波が押し寄せる可能性があるのだ。高知県全域の想定浸水面積は約1万5780㌶で、全国最大になる。

 M8以上の南海トラフ地震が発生する可能性は「30年以内に60〜70%」である。この確率を高いとみるか、低いとみるかは価値観により変わるのかもしれないが、少なくとも政府や行政担当者たちは「切迫している」と考えなければならない。何しろ、この種の非常事態に備え、国民の安全保障を高めることもまた、経世済民を主目的とする政府の存在理由の1つなのだ。

土木需要はわが国の事業者で担え

 無論、政府を支える国民側も、来たるべき危機と真正面から向き合わなければならない。戦後の冷戦期、日本国民は安全保障や非常事態への備えを全く意識せずに生きてきた。何しろ、1995年の阪神・淡路大震災まで、わが国では「あってしかるべき大地震」が発生しなかった。さらに、軍事的安全保障については米国にべったりと依存しきっていたわけである。日本国民は「次なる大震災」「領土的危機(対中国等)」という将来の非常事態に備え、安全保障に対する認識を改める必要があるのだ。

 国土強靭化基本法や南海トラフ、首都直下型地震に対する対策特別措置法が通り、ようやく「日本政府」として来たるべき大震災に備える法的根拠が整った。わが国は長年の公共投資削減や公共事業の一般競争入札化により、土建産業の供給能力が過少になっている。日本の建設業許可業者数は、ピーク(99年)の60万社から、既に47万社にまで減ってしまっている。東北復興、国土強靭化、防災・減災、老朽化したインフラストラクチャーのメンテナンス、さらには東京五輪という土建需要を消化するためには、既存の土木企業、建設企業に設備投資や人材投資を拡大してもらう必要があるのだ。

 国土強靭化基本法に基づき、政府は今年5月までに「国土強靭化基本計画」を策定する。法律の成立、国土強靭化政策大綱の決定、さらに「中長期的な基本計画」を策定することで、政府は国内の公共需要について一定のコミットメントをすることになる。また、国内の老朽化した橋梁などの調査が本格化、いわゆる残事業費を明確化することで、土木企業、建設企業の投資意欲、雇用意欲を高める狙いがある。

 ポイントは、わが国の土建需要(公共需要に限らない)は、わが国の土木企業、建設企業により担われなければならないという点だ。何しろ、日本は世界屈指の自然災害大国である。自然災害が多発する国において、各地に土木企業が存在するか否かは、その地域の住民の生命にかかわる問題だ。地震や水害、土砂災害等が発生したとき、地元に土建企業が存在しない場合、救援は不可能とは言わないが、大幅に遅れ、本来は助かるはずの命までもが失われることになりかねない。

 恐い話だが、国土交通省の官僚の中にさえ、 「土木企業、建設企業の競争能力が不足しているならば、米国のゼネコンに頼めばいい」

 と、国家観も安全保障も「現実」も、まるで無視した暴論を口にする人が実在する。地震や水害、土砂災害などが多発するわが国において、「土木の供給能力不足は外国企業で補えばいい」などという理屈が通るはずがない。日本国民の安全保障を維持するという観点からも、国内の土建企業の供給能力不足は、日本国民、日本企業の手で回復されなければならないのだ。

 14年は日本国民一人ひとりが真剣に「自国の安全保障」について考え始める「国土強靭化元年」でなければならない。さもなければ、次なる大震災により、われわれは自らの命をむざむざと危険にさらす羽目になりかねないのである。

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