政治・経済

ガバナンスの劣悪さが次々と露呈したみずほフィナンシャルグループが、その立て直しに動き出すことになった。みずほ銀行の頭取交代をはじめとする役員人事によって、組織の体質改善を目指すが果たして……。 (ジャーナリスト/中山剛)

経営陣の大刷新 3月の役員人事が焦点

佐藤頭取の辞任は用意周到に進められていた

佐藤頭取の辞任は用意周到に進められていた(写真:時事)

 みずほフィナンシャルの佐藤康博社長が突然、傘下のみずほ銀行頭取の職を辞することを発表したのは2013年12月26日のことだった。青天の霹靂のような出来事と報じられたが、実態は、佐藤氏と金融庁の間でかなり用意周到に練り上げられていた人事だったようだ。なぜならば、金融庁の中では、幾度も不祥事を生じさせているみずほ銀行に関しては、経営陣の刷新しかないという考え方が強まっていたからだ。

 そうした場合、頭取交代を抜きにして、経営陣の大幅刷新ができるわけがなく、みずほ内部にも把握されない中で佐藤氏と金融庁の間で人選が行われていたという。そして、後継頭取に白羽の矢が立てられたのが、副頭取であった林信秀氏の昇格だった。林氏は旧富士銀行出身者ながら、「最も旧富士銀行のカラーに染まっていない」と言われる人物であり、不満がくすぶる旧富士銀行OBを黙らせつつ、旧富士カラーを脱色することができる人材だったのが抜擢の最大の理由だった。

 1月23日の発表記者会見の場では、佐藤氏は国際畑の林氏が有する海外の人脈の豊富さを強調していたが、むしろ、本音ベースは国内における銀行内外の人脈の乏しさに着目していたといわれている。もちろん、旧富士カラーの脱色のためである。

 だが、今回の頭取人事をめぐる最大の焦点はもはや、そこではなくなっているようだ。来る3月に行われる役員人事こそ「最大の焦点」(みずほ関係者)と目されてきているからだ。その中でも注目されているのが副頭取問題にほかならない。みずほ銀行は、副頭取が8人体制となっており、他のメガバンクと比べて、「異様に副頭取が多い」(他行役員)状況が続いていた。これは、みずほコーポレート銀行とみずほ銀行の統合過程で生じた部門数を反映したものと公式には説明されているが、実際は「3つの旧銀行のバランスを反映した結果」にすぎなかった。

 その中でも、旧富士銀行出身の副頭取は林氏のほか、2人を数えており、早くも、この2副頭取の転出が囁かれている。問題は、そうした副頭取の転出によって副頭取ポスト数を縮小させる可能性が高いことだ。その上、その下のランクである常務クラスのポストも一挙に減少するというのが3月人事の見所となっている。

 並行して若手の抜擢が行われる可能性が高いが、現在の副頭取、常務クラスのうち、「首を洗って待たねばならない人たちは少なくないだろう」という声がみずほ内部で、にわかに沸き上がっている。

 ところが、その場合、問題となるのが退任役員たちの転出先にほかならない。みずほグループは、関連会社として数多くの不動産会社を有しているとはいえ、不祥事のたびに役員がそれらの企業に転出するケースが繰り返されており、「既に満席状態にある」とみずほ関係者ですら苦笑いで話す始末。つまり、転出先のポスト不足が歴然としてきているのだ。

 この上、役員待遇で退任者を引き受ければ、関連会社ではプロパー社員たちの昇進ポストが奪われかねない事態となることは明らかであり、今度は、銀行出身者と関連会社のプロパー社員との間の軋轢が強まらざるを得なくなるという。

 したがって、関連会社の経営陣である元銀行役員たちも受け入れに対して消極的であり、中には「これ以上、旧銀行の人間が増え続ければ、やはり、みずほは旧3銀行の体質から脱却できないという批判を受けることになる」と戦々恐々とする始末だ。

 「金融庁が旧銀行ごとの関連会社が旧銀行体質の温床になっているという見方を強めていることも、関連不動産会社の役員たちは薄々気付き始めている」(全国紙記者)

 これも雲行きを怪しくさせている要因となっていることは間違いない。

みずほ役員に〝再就職氷河期〟

 しかも、類似した状況は、不動産会社以外の企業でも生じている。例えば、みずほでは、いまだに関連リース会社が旧3銀行の子会社のように残存しているが、これらにも既にみずほ出身の役員たちが飽和状態のように天下っている上、最近は「いずれ、銀行のワンバンク化の流れを避けられず、合併を迫られかねない」というムードが3つのリース会社に強まってきている。

 合併となれば、役員ポストは1+1にはならず、それよりも減少することは明らかであり、既に3リース会社の間では主導権争いのムードが強まりつつある。つまり、新たに役員陣を引き受ける余裕は失われていると言っても過言ではない。

 もちろん、もはや、取引先に新ポストを作ってもらうような時代でもなく、このままでは、みずほ役員陣には冬の季節が訪れることになる。

 だが、中堅、若手行員の間では、そういう事態に対する同情の声は意外と少ない。

 「経営に失敗したのだから、その代償を負うのは当たり前。関連会社でのうのうと余生を送ってもらうというような余裕はウチにはないはすだ」(中堅行員)

 こんなシリアスな声すら、銀行内部から上がっているのが実情である。過去のシステムトラブルといい、今回の不祥事といい、多くの行員は全く無関係の経営陣による不祥事だったことも、こうした銀行内のムードを作り上げている。

 アベノミクスによって大学生などの就職環境は次第に改善していたが、どうやら、その逆を行くのがみずほ経営陣となりそうだ。不甲斐ない役員たちの身から出たサビではあるものの、冷たい風が役員陣には吹き始めている。

 3月の役員人事が果たしてどの程度のマグニチュードになるのか。頭取人事と同様に、役員陣には具体的な情報は入りにくい状況になっているが、みずほ役員陣に「再就職氷河期」が訪れかけていることは間違いなさそうだ。

 

【みずほ】関連記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

広告やマーケティング、ブランディングを事業プロデュースという大きな枠で捉え、事業が成功するまで顧客と並走する姿勢が支持されているグランドビジョン。経営者の思いを形にしていく力で、単なる広告代理店とは一線を画している。 中尾賢一郎・グランドビジョン社長プロフィール &nb…

中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

人材戦略を経営の核に成長する駐車場ビジネスのプロ集団―清家政彦(セイワパーク社長)

「PCのかかりつけ医」として100年企業への基盤構築を進める―黒木英隆(メディエイター社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

20歳で探検家グランドスラム達成した南谷真鈴さんの素顔

自らの手で未来をつかみ取る革新者たちは、自分の可能性をどう開花させてきたのか。今回インタビューしたのは、学生でありながら自力で資金を集め、世界最年少で探検家グランドスラムを制した南谷真鈴さんだ。文=唐島明子 Photo=山田朋和(『経済界』2020年1月号より転載)南谷真鈴さんプロフィール&nbs…

南谷真鈴

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年1月号
[特集] 新しい街は懐かしい
  • ・「街の記憶」で未来をリノベーション
  • ・日本橋が「空を取り戻す」水辺と路地がつながる街へ
  • ・水辺はエンタメの宝庫だ 大阪が目指す観光客1300万人
  • ・街の誇りを取り戻せ 名古屋・堀川復活プロジェクト
  • ・なぜ水辺に都市が栄えるのか
  • ・2020以降は海と川がさらに面白くなる
  • ・「住む」と「働く」両方できるが求められている(たまプラーザ)
  • ・「土徳」が育む一流の田舎(南砺市)
  • ・音楽ファンが集う街づくり
[Special Interview]

 辻 慎吾(森ビル社長)

 東京が世界で勝ち抜くために必要なこと

[NEWS REPORT]

◆飛びたくても飛べないスペースジェットの未来

◆エンタメが街を彩る 地方創生に挑むポニーキャニオン

◆問題噴出のコンビニをドラッグストアが抜き去る日

◆始まった自動車世界再編 日本メーカーはどう動く?

[特集2]

 経済界福岡支局開設35周年記念企画

 拓く!九州 財界トップが語る2030年のかたち

ページ上部へ戻る