政治・経済

自動車メーカーが成長市場として注目する東南アジア。タイ、インドネシアなどと同様に、自動車を重点産業として育成することを目指すベトナムだが、間近に控えた経済共同体設立の影響によって、その目論見は怪しくなってきた。 (アジアジャーナリスト/山川裕隆)

経済共同体の設立が引き金に

ベトナムでは依然として二輪の利用者が多い

ベトナムでは依然として二輪の利用者が多い(写真:APF=時事)

  東南アジア諸国連合(ASEAN)経済共同体が2015年に設立され、域内の関税が撤廃される。自動車の関税は18年からゼロとなるため、ベトナムで自動車を生産している日本メーカーの中には工場を閉鎖するところも出てきそうだ。ベトナム政府の自動車戦略が不透明な上、域内で関税がゼロになると、タイやインドネシアからベトナムに完成車を輸入したほうが同国で製造するよりも安く済むからである。

 ベトナム自動車工業会(VAMA)がこのほどまとめた13年のベトナムの新車販売台数(VAMA加盟社以外の輸入車も含む)は11万519台(前年比19%増)だった。10万台を割った一昨年に比べ、増加したが、最も多かった09年(輸入車含め19万5760台)には遠く及ばなかった。また、タイ(昨年の新車販売台数133万台)やインドネシア(同123万台)に比べ、10分の1以下と少ない。

 ベトナムでは、トヨタ自動車やホンダ、スズキなどほとんどの日本メーカーが自動車を生産している。同国で最も販売台数が多いのはトヨタだ。そのトヨタでも昨年の新車販売台数は3万3288台にすぎない。現地に進出している日本メーカーはどこも経営状況はかなり厳しいようだ。

 こうした中、ベトナム政府は昨年、20年に向けた工業化戦略の重点産業として自動車・同部品など6業種を決めた。電子、農業機械、農水産品加工、造船、環境・省エネの5業種はすんなり決まったが、重点産業に自動車・同部品を入れるかどうかについては難航した。

 日本はこの重点産業を決めるにあたって協力したが、自動車については、日本側は①タイと比べて市場が10分の1以下②自動車産業の振興が遅れている上、増税など振興と逆行する政策が実施されているとして、重点産業に加えることに反対した。しかし、ベトナム側は、「自動車を入れる」と主張して強引に押し切った。

 ベトナム政府は自動車・同部品の具体的な計画に関しては、昨年9月をめどにまとめる予定だったが、まだ公表されてない。財務省や商工省など省庁間の調整に手間取っているようだ。日本メーカーは、「ベトナム政府が推進する戦略車を早く公表し、その車に対する税制面などの優遇策を明らかにしてほしい」と迅速な対応を望んでいる。

 一方、ASEAN経済共同体が来年創設されれば、域内での関税はゼロとなる。自動車については18年から関税が撤廃されることから、日本の自動車メーカーの中には、域内にある工場の見直しを行うことは必至だ。ASEAN域内に何カ所も生産拠点を設ける必要はないからだ。

 「東南アジアのデトロイト」といわれ、12年の生産台数が世界9位となったタイ(人口約6400万人)、1人当たりの国内総生産(GDP)が3500㌦を超え、自動車の販売が急増しているインドネシア(同約2億4千万人)の両国から、日本の自動車メーカーが撤退することは考えられない。

 結局、国内の販売台数が両国に比べ極端に少ないベトナムの拠点を残すかどうかが、日本の自動車メーカーにとって喫緊の課題だ。

トヨタ、ホンダ以外は工場閉鎖か

 ベトナムはタイやインドネシアに比べ、部品メーカーが少ない。ベトナムに進出している自動車メーカーは使用する部品の約8割を日本や中国、タイなどから輸入して、自動車を組み立ており、タイやインドネシアに比べコストが高くつく。また、ベトナムの新車販売台数は両国の10分の1以下と少ない。

 このため、ベトナムから生産撤退する自動車メーカーが出ることが予想される。ただ、同国は昨年11月に人口が9千万人を突破し、東南アジアではインドネシア、フィリピンに次いで第3位と魅力ある市場であることから、工場を閉鎖するメーカーも、販売店はさらに拡大するものとみられる。

 ある現地の自動車事情通によれば、「トヨタやホンダがベトナムから生産撤退することは考えにくい。ベトナムで走っているタクシーのほとんどはトヨタ製だ。トヨタブランドはベトナムでかなり浸透している。また、ホンダはベトナムで、オートバイの販売台数がトップだ。オートバイと言えばホンダというほどホンダのブランドはベトナム人には知られている。こうしたことから、トヨタとホンダはベトナムで自動車の生産を続けるのではないか。しかし、他の自動車メーカーはベトナム工場を閉鎖してもおかしくない」と言う。今後1〜2年の間に、ベトナムから生産撤退する日本の自動車メーカーが出てきそうだ。

 ベトナムは重点産業に「自動車・同部品」ではなく、「二輪車(オートバイ)」を入れるべきだったのではないか。同国では二輪車部品の約9割を現地で調達できる。他国から約8割の部品を輸入して生産している自動車とは大きな違いだ。

 ベトナムで生産した二輪車は国内だけではなく、東南アジアやインド、中南米、アフリカなどに輸出して、外貨を稼げる。自動車の生産はタイやインドネシアがかなり先行しており、ベトナムがこれから自動車産業を振興しても苦戦することは必至だ。このため、トラック生産に特化するなど思い切った対応が必要ではないだろうか。

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