マネジメント

2015年8月に閉館した「ホテルオークラ東京 本館」が、17階建てのオークラ ヘリテージウィングと41階建てのオークラ プレステージタワーの2棟から成る「The Okura Tokyo」として帰ってくる。新たなホテルは2つの異なるブランドを持ち、新規ホテル事業に向けてのショーケース的な役割も担うという。積極的な海外展開の戦略も含めてホテルオークラの荻田敏宏社長に聞いた。聞き手=古賀寛明 Photo=山内信也(『経済界』2019年10月号より転載)

 

荻田敏宏・ホテルオークラ社長プロフィール

荻田敏宏・ホテルオークラ社長

おぎた・としひろ 1964年生まれ。87年、ホテルオークラ入社。93年、コーネル大学ホテル経営学部修士課程修了。2004年から執行役員。オークラフロンティアホテルつくばの専務取締役・総支配人を経て、08年5月に社長就任。

 

「The Okura Tokyo」のコンセプトと特徴

 

最新の機能と日本の伝統美を併せ持つホテル

―― この9月12日に「The Okura Tokyo」が開業します。予約状況はいかがですか。

荻田 お陰さまで宴会部門、例えば婚礼は、来年の3月までの約半年間の予算を立てているのですが、既に85%を受注しています。その他の宴会についても、開業景気のようなところもあるのでしょうが予定の80%ほどを受注できていますから、順調です。ただ、宿泊の予約状況については、私どものお客さまの8割程度が商用目的ですから、増えてくるのはこれからだと思います。

―― 本館には日本だけでなく海外のファンも多かったですが、引き継いでいるものはありますか。

荻田 The Okura Tokyoの開発コンセプトは「伝統と革新」です。最新の設備、機能を持ちながら、本館に息づいていた日本の伝統美も継承しています。

 オークラ プレステージタワーのロビーには本館のロビーを復元しておりますし、われわれもできるだけ、本館で使っていたものを使用する方針です。ロビーでは、照明器具の「オークラ・ランターン」や世界時計などを、オーキッドバーでは、使用するテーブルやイスを保存していましたので、磨きをかけて再度使用する予定です。

モダンとクラシック2つのラグジュアリーブランド

―― 新たなホテルは、異なるコンセプトの2ブランドが入るそうですが、それぞれどんな特徴が。

荻田 創業の地に建つ旗艦ホテルですから、いずれもグループのなかでの最高級ブランドになります。ただ、最高級ブランドをどう定義するかと考えた時に、われわれとしては、そのタイプは2種類あるのではないかということになりました。端的にいえば、クラシックなタイプとモダンなタイプです。

 モダンなタイプの「オークラ プレステージ」ブランドは、既に海外を中心に展開していますが、複合開発の高層ビルの中に入るといったタイプで、今回も41階建のオークラ プレステージタワーの8階から25階にはオフィスが入ります。ブランドとしての特徴は和のテイストを生かしていますが、西洋の機能性といったものを加えており、全368室あります。

―― もうひとつは。

荻田 17階建てのオークラ ヘリテージウィングにある全140室の「オークラ ヘリテージ」ブランドです。新たに創設したブランドで、例えるならニューヨークやロンドンの規模は小さいが格式のあるホテルです。

 コンセプトは、その国、その土地の文化や歴史を継承する重厚感に満ちたラグジュアリーブランドです。オークラ プレステージに比べてプライバシーの重要性を追求していますから、料飲施設もほぼ予約が必要なフランス料理、日本料理、そしてメンバーズバーと絞っています。ただし、どちらのブランドも、オークラグループが大事にしてきた「Simplicity & Elegance」をデザインコンセプトにしています。

―― 別館の今後については。

荻田 五輪がありますので、その後をどうするかと、今考えている最中です。再開発するかもしれませんし、運営を継続するかもしれません。今まさに研究しているところです。

オークラプレステージタワー

41階建てのオークラ プレステージタワー

 

積極的に海外進出を進めるオークラの事業戦略

 

オークラの海外戦略「5×5」計画とは

―― 最近では海外への積極的な進出をされています。出店の決め手は。

荻田 国内もそうですが、特に海外に関しては、事業を展開していくために5つのことを考えています。

 まず、日本人だけをターゲットにしているわけではありませんが、日本人顧客のニーズがあることです。

 2つ目が、運営受託が基本ですから、現地のオーナーから、日本の行き届いたサービスを求められているかです。

 3つ目は、出店することによってお客さまの利便性が増すということが挙げられます。例えば、タイのオークラ プレステージバンコクは、ホテルオークラマカオの1年後にオープンしました。お客さまの3、4割は日本の方ですが、香港の方も3割ほどいらっしゃいます。つまり、香港の方がマカオのオークラを利用して、バンコクでも利用いただいているのです。

 こうしたアジア内での相互送客が増すかどうかも考えています。4つ目が、相対的なコストダウンができますから、余剰フローを競争力強化のために使っていき、好循環させたいと考えています。最後に、これまで不動産不況、金融危機と、事業をどこかの地域に集中するリスクを感じていましたから、収益源を分散させる意図もあります。

―― 東南アジアへの進出が目立ちますね。

荻田 おっしゃるとおり、メインは東南アジアですが、今はその中でもいくつかの国や地域に集中して出店していこうと考えています。私どもはメガチェーンではありませんが、ある地域では強いということを押し出したいという意図があります。

 グループ内で5×5(ファイブ・バイ・ファイブ)といった言い方をしていますが、5つの地域で強くなるために最低5店舗を出店していこう、そういう考えです。その5つの国というのが、台湾、タイ、ベトナム、ロシア、5カ国目は決めていないのですが、インドネシアもしくはフィリピンになる予定です。実は、台湾はあまり外資系ホテルがなく、同様にロシア、ベトナムもそんなに外資系ホテルは多くないのです。

 親日という共通項もありますので、今後も戦略的に出店していくつもりです。

アジアに浸透したオークラブランド

―― 出店の話が持ち込まれるのは、オークラブランドが浸透してきたということですね。

荻田 そう思います。しかし、もともとオークラブランドはアメリカ系に強さを発揮していたのです。バブル崩壊前は、ほとんどのお客さまがアメリカの方でした。むしろアジアが弱かったのですが、この10年、15年で、オークラとホテルニッコーブランドが一気に浸透しました。

 その裏には、JALホテルズへの資本参画があります。それ以前は、相手先のオーナーが日系ホテルを誘致しようと思えば、競う相手はほとんどJALホテルズが運営するホテルニッコーでした。ですから、資本参画して競争から協調に変えたことも浸透した要因です。

―― オークラブランドでも3つ。ホテルニッコーにも多くのブランドがありますが、出店の時にブランドをどう決めていますか。

荻田 最上級の5スタークラスだとベースはオークラになります。ただ、案件自体があまりないのです。というのも、世界に大都市は限られますし、ロケーションも重要ですから、そうそうない。そのなかで、バンコクや台北、ホーチミンは機会に恵まれています。複合施設の最上階フロアなどであれば、まず「オークラ プレステージ」を考え、それから次のブランドとして同じ5スターのグランドニッコーもしくはホテルオークラ。それから、4スターのホテルニッコーといった順に考えています。

―― 今後、欧米への展開は。

荻田 やらないわけではないですし、お話もいただくのですが、なかなかこれだという話がありません。

 例えば、パリは街の保存がなされていますから外装に手を入れられず、今あるホテルを変えるしかない。つまり、新規参入のバリアが高いのです。それで、パリやロンドン、ニューヨークのホテルは料金も高い。バブル前は日本も参入障壁が高かったので、高い料金でした。

 ところがいま、日本は新規参入がしやすくなっていますから、なかなか単価も上がっていません。そこは需給の関係です。

荻田敏宏・ホテルオークラ社長2

 

2020年には100ホテルのグループを目指す

 

―― 社長に就任してもう12年目に入りましたね。

荻田 就任した当時は、リーマンショックの始まった年でした。また、まさに政策のお陰ですが、インバウンドもこれほどまでになるとは思っていませんでした。

 本館を閉め、新しくなるまでの再開発の期間をわれわれは、相当苦しくなると覚悟していましたが、実際は、グループとしてずっと黒字を確保することができました。これほど良い状況なのですから、このような時期にリニューアルするのはもったいないとおっしゃる方もいらっしゃいましたが、経営の安定性を考えると、恵まれたと思っています。

―― 最後に、今後の目標、夢は。

荻田 南の島で早く休みたいですね。まぁ、それはちょっと先に延ばして、まずは今、一番大きな事業を目の前にしているわけです。The Okura Tokyoの開業は、社長になってやりたいと思ってもできない事業です。そういう機会に巡り合えたのですから、大変でもありますが恵まれているとも思っています。

 この東京での新事業を価値あるものにしていくことが重要です。3年、5年をめどに安定化して、それを海外に波及できれば良いと考えています。

 グループとしては20年までに100ホテルを目指しています。今、開発中のものも合わせますと87ありますし、既に今年10ほどの案件が決まるでしょうから、来年に予定通り達成できると考えています。

 ただ、その数を200、300にしようとは思っていません。それよりも、より良い事業に磨いていきたいと考えています。そして、私どもはリゾート事業が少ないですから、お客さまの利便性を考える上でも、真剣に向き合わねばなりません。これが、今後10年の課題だと思っています。

 

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