政治・経済

富裕層の人たちの多くが、既に欲しいものを手に入れている。そのため、所得が多いからといって必ずしも消費額が多いわけではない。そんな彼らが、躊躇なくお金を使うのが、子どもへの教育だ。教育こそが最大の投資だと彼らは考える。(『経済界』2019年10月号より転載) 

 

富裕層に人気の幼児教育とその現状

 

幼児教育の新たな選択肢「プリスクール」

 「幼稚園」でも「保育園」でもない、「プリスクール」という教育施設が増えている。厳密には幼児を預かる保育園で、厚労省の管轄だが、保育よりも教育に力を入れているところが特徴だ。

 千葉県市川市。かつての日本毛織工場跡地は、今では「ニッケコルトンプラザ市川」という、市川市最大のショッピングセンターとなっている。この一角に今年4月、新しい幼児園「キッズデュオインターナショナル(KDI)」が誕生した。

 KDIは、やる気スイッチグループが運営する。同社は個別指導塾の「スクールIE」など、幅広い教育施設を展開しているが、中でもKDIは、最近もっとも力を入れている部門だ。東京第一号園がオープンしたのが6年前。以来、神奈川県、千葉県、大阪府へと拡大していき、現在、7拠点を擁している。

 市川市のKDIは昨年春頃から園児募集活動を始めたが、市川市民が驚いたのは、その教育内容と費用だった。

 園児募集のチラシには、在園中に「IQ130、英検準2級」を目指すと書いてある。カリキュラムはやる気スイッチグループが40年にわたって培ってきたノウハウを導入したもので、特別な才能がなくても、IQ130は可能だという。IQ130というと全人口の上位2%しかいない頭脳の持ち主だ。

 またイギリスで生まれた知的レベルの高い人たちの世界組織「MENSA」に入れる水準でもある。それほどの明晰な頭脳をKDIに入れば手に入れることができるなら、我が子を通わせたいと思う親は多いはずだ。また英語教育では、ネイティブの英語教師も多数配置することで、自然と英語を身に付けることができるという。

 そのため、昨年9月から入園説明会が始まったが、100人を超える保護者が集まった。これは他地区のKDIも同様で、多い時には200人以上の親が集まることもある。

高騰する幼児教育の授業料

 問題は、その費用だが、入学金30万円、授業料が月12万円。初年度納入金は170万円を超える。2歳児から通わせれば、総額600万円が必要だ。ここにオプションのプログラムを組み込めば、費用はさらにかかる。

 2019年10月1日からの消費税率10%によって得た財源の一部は、幼児教育の無償化に使われる。しかしその一方では、幼児教育に莫大な費用をかける家庭も多い。

 しかしこの程度で驚いていてはいけない。

 東京・北品川にあるカナディアンインターナショナルスクール。カナダのプログラムに沿った教育をしているが、文科省の認定を受けているため、日本の大学の受験資格を得ることができる。ここから慶應、早稲田、上智といった偏差値上位校に進学する生徒も多いが、それ以上に、世界の大学に通じていることがこの学校の魅力となっている。

 同校には小・中・高だけでなく、キンダーガーテン(プレスクール)も併設されており、最長15年間、学ぶことができる。このキンダーガーテンの入学金は15万円、授業料は160万円、さらに施設メンテナンス費25万円で、初年度納付金は200万円だ。さらに小学校は年間175万円、中学190万円、高校200万円の授業料が必要だ。

 仮にキンダーガーテンから高校まで15年間通えば、2500万円以上を子どもにつぎ込むことになる。しかも大学受験をしようとすれば、そのための塾代も必要だし、何より大学の授業料がこれに加わる。仮に海外の大学に進学すれば、総費用は億に迫る。

 

富裕層が教育投資に熱心な理由

 

富裕層の子どもは富裕層―固定化する階層

 一般的に、日本人が子どもにかける教育費用は1人2千万円だと言われる。しかし、それよりはるかに大きなお金を、小さい頃から子どもにかけることを厭わない親がいる。特に富裕層においてそれは顕著だ。

 なぜなら、教育投資こそが、あらゆる投資の中でもっとも安全かつハイリターンだからだ。

 今、東大生の親の2人に1人は年収1千万円以上だといわれている。明らかに貧富の差が東大進学の差になって表れている。また学歴が高ければ高いほど、生涯収入が高いことも過去のデータからも明らかになっており、大卒男子と高卒男子では5千万円の差が生じている。

 アメリカのノーベル経済学賞受賞者ジェームズ・ヘックマン博士の研究では、幼児教育を受けた子どもは、そうでない子どもに比べて、経済状態や生活の質が優れているという結果が出た。IQに有意な差は見られなかったが、幼児教育を受けたほうが生涯を通じて学習意欲が高く、それが年収の違いにつながる。

子どもの留学は無駄な投資ではない

 それだけではない。明治大学の横田雅弘・国際日本学部長らのグループの調査によれば、海外で学位を取った人と、留学経験がなく国内大学を卒業した人とでは、男性で年間70万円、女性で109万円の収入差があったという。

 また別の調査によると、交換留学や認定留学をした人及び3カ月以上の語学留学経験者は、非留学者に比べ平均年収が30万円高いという結果となった。

 留学することで今やビジネスマンの必須スキルである英会話が身に付くだけでなく、異文化での生活や、その中で身に付けたコミュニケーション力が、仕事のうえで有利に働く結果である。

 そのため、日本全体では留学熱は低下しているが、富裕層の間では、むしろ高まるばかり。中学時代から母子でハワイに留学し、父親は日本で単身生活するケースも珍しくない。父親には多大な負担がかかるが、それによってグローバルな感覚と人脈が培われるなら無駄な投資ではないとの判断だ。

 別稿にもあるが、富裕層の最大の願いは子々孫々まで富裕層として生活を続けることで、資産を維持するだけでなく、再生産することが不可欠だ。

 そのためには教育投資しかない。親が子どもに投資することで子どもは学歴を高め、高収入を得る。そしてその収入を自分の子どもに向ける。それによって、格差の固定化がはかられる。

 逆に言えば、低収入の家庭で育った子どもが、そこから抜け出すには相当な努力と運が必要だ。

 一億総中流社会の崩壊の次に現れたのは、階層固定化社会だった。この階層を守るために、富裕層の教育投資熱は、今後さらに高まりそうだ。

富裕層と教育投資

富裕層は子どもたちへの投資が次世代の幸せにつながると考える

 

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