テクノロジー

人工衛星を打ち上げた東大阪の中小企業と大阪市大医学部が連携、高度な技術と医療現場のニーズを結び製品開発する一般財団法人「ものづくり医療コンソーシアム」を設立し動き出した。目指すは成長著しいアジア市場だ。 (ジャーナリスト/宮城健一)

医療現場のニーズを汲み取る

青木豊彦・アオキ社長

青木豊彦・アオキ社長

 「ものづくり医療コンソーシアム」は、東大阪市ものづくり親善大使で、米航空会社・ボーイング社認定工場・アオキ(東大阪市)の青木豊彦社長と大阪市立大学医学部長、荒川哲男教授の2人が世話役となり、「医療現場で求められる技術、製品開発ニーズとそれに必要な技術を引き合わせる組織を作る」という目的で、地元中小企業の技術集団と大阪市大医学部が協力して設立された。理事長には荒川教授、理事には青木社長が就任し、大阪市大医学部内に事務局を設置した。

 技術集団の〝顔〟となる青木社長は、2009年1月に打ち上げした人工衛星「まいど1号」プロジェクトの中心的な役割を果たした経営者だ。人的ネットワークも広く、荒川教授とも8年前から交流があるという。

 このプロジェクトは、地元大阪を思う2人の熱い気持ちから生まれたもので、事務局には常駐の専門家を配置。目先の利益を追求しない「サムライ」の集まりとして、非営利の一般財団法人の形でスタートした。青木社長は「目に付きにくい医療現場のニーズを汲み上げながらものづくりのシーズ(技術)とマッチングさせていきたい。さらにはここで生まれた知的財産を管理運営までできる組織に育てたい」と語る。

 事務局によると、つかみにくい医療現場のニーズと広い分野での技術を引き合わせるため、対象の中小企業も東大阪市ばかりでなく八尾市、堺市をはじめ大阪府下や全国から幅広く参加を求めることにしている。

 また、多くの医療現場のニーズを集めるために、将来は病院も大阪市大だけでなく他の病院、診療所、研究機関や医師、看護師など個人にも参加してもらい、幅広いニーズやアイデアの収集を目指す。現在のところ参加企業は15社だが、最終的には500社くらいをめどにしているという。

 これまでのところニーズは70件ほど集まっているが、医療機器に関してはまだ少なく、例えば病院のベッド、テーブル、車いすなどの周辺機器に関するものが多いという。事務局では「医療機器以外の関連施設品なども現場の声を反映しながら匠の技を生かしていきたい。3月にはワークショップなども計画、現場からのニーズをデータ化していきたい」と話す。

 技術集団を中小企業に絞った理由について荒川教授は、「これまで大企業との連携が多かったが、大企業は本部を東京に置いているため、頼んだ仕事は結局中小企業に戻ってくる。その構図を考えれば、最初から中小企業と協力したほうが地域の活性化につながるのではないか。地元に東大阪という中小企業の〝メッカ〟があるわけだから」と指摘する。

 医療の進歩は目覚しいものの、医療機器・器具のみならず療養生活環境においても改良を加えたいと思うニーズは山ほどある。例えば車いすの点滴台設置補助具など、これまで考案されているものは使い勝手が悪いと不評だったりもする。こうした場合、誰に相談すればいいのか分からないというのがこれまでの問題点だった。

 東大阪には7千〜8千社の企業が密集しているが、ここからマッチングする技術を探すのは難しい。中小企業側では自分たちの持っている技術が医療分野の何に貢献するのか、医療の世界でどんなことが求められるのか、探り当てることは困難だ。

 この悩みを顕在化し、その情報を大阪の中小企業に提供して製品を開発、そして完成した製品を東京や大阪などの大都市を中心に売り込むというのが、コンソーシアムの狙いであるのだ。

 しかし、課題もある。コンソーシアムに集まった情報を記録・保存し、開発後の市場に向けてどう展開するか。また、利益の分配などについてはどうするといった話し合いを行っていくことが必要だ。そのための学習や研修、会員間の交流なども求められる。

成長するアジアの医療市場に焦点

大阪市大医学部と付属病院

大阪市大医学部と付属病院

 約24兆円といわれる世界の医療機器市場だが、その4分の1は36億人の人口を抱えるアジア太平洋地域にあり、成長率も2ケタで15年までには7兆円を超えるともいわれる。

 今回のものづくり医療コンソーシアムも、アジアの医療市場に焦点を当てている。設立に先んじて大阪市大医学部はインドネシア・ガジャ・マダ大、ベトナム・ハノイ医科大、タイ・チュラロンコン大などアジア12大学の医学部との交流を進める学部間協定を調印。そのリーダー的役割を果たす荒川教授はこれらを基盤にネット化を図り、人的な交流を活発に展開し、医療技術や製品の移転を加速化する。また、アジアから優秀な学生を大学院に受け入れ、医学部間協定校や留学生を増やして、アジア諸国での指導的な立場をより強化する方針だ。

 アジア太平洋地域の都市と比較した場合、関西は医療分野の大学、研究所、企業などの集積が高く、iPS細胞研究の山中伸弥教授(京都大学)や、STAP細胞を発見した理化学研究所・再生科学総合研究センター(神戸市)の小保方晴子研究員に代表されるような優秀な人材も多い。例えば、関西経済連合会は、医療やバイオの関西総合戦略特区として神戸市や大阪・茨木市、京都市などを指定している。また、アベノミクス第3の矢として、大阪を医療特区とするよう政府に要望している。

 こうした背景を踏まえ、青木会長は「この組織を大きく育て、大阪市大医学部を東洋一の医学部にする」と言う。荒川教授も「東大阪を東洋一の中小企業集積地にする」と、意気込みを見せる。

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