文化・ライフ

田中将大の背番号に決まった「19」が入ったヤンキースのユニホーム(写真:時事)

田中将大の背番号に決まった「19」が入ったヤンキースのユニホーム(写真:時事)

どうしても田中将大を獲得したかったヤンキース

 NPB(日本プロ野球組織)はMLB(メジャーリーグ機構)の子会社のようなものですよ」

 ある楽天球団の幹部は、こう言って声を荒らげ、続けた。

 「メジャーリーグの球団関係者まで呆れているんですよ。〝この条件じゃ(田中将大を)出せないだろう。出したらバカだよ〟って。NPBはMLBが右向けと言ったら右、左向けと言ったら左。ナメられるにもほどがありますよ」

 7年総額1億5500万㌦(約161億円)。昨季、東北楽天の日本一に貢献した田中将大がポスティング・システムを利用してニューヨーク・ヤンキースと破格の契約を結んだ。

 ちなみに田中以上の契約を結んだ投手はクレイトン・カーショー(ドジャース)、ジャスティン・バーランダー(タイガース)、フェリックス・ヘルナンデス(マリナーズ)、CCサバシア(ヤンキース)と4人いるが、いずれもサイ・ヤング賞投手。ヤンキースの田中に懸ける期待の大きさがうかがえよう。

 加えて田中は、自らが希望すれば4年経過後に契約を打ち切ることができる「オプト・アウト」という権利も勝ち取った。

 いくら田中が昨季、日本で24勝無敗のレジェンド・エースとはいえ、MLBではまだ1球も投げていないのだ。破格の契約の背景には、いったい何があったのか。

 まずはヤンキースのチーム事情がある。昨季はア・リーグ東地区3位タイに終わり、ポストシーズンゲーム進出を逃した。「世界一」にメジャーリーグ最多の27度も輝いた名門も、松井秀喜がワールドシリーズMVPに輝いた 2009年以来、4年間も頂点から遠ざかっている。

 世界一の座を奪回するには、ローテーションの整備が急務だが、計算できるのは昨季14勝のサバシアと11勝の黒田博樹、9勝のイバン・ノバくらい。マネーゲームを仕掛けてでも手に入れたかったのが田中だった。

 資金的にも余裕があった。主砲のアレックス・ロドリゲスが薬物規定違反で1年間の出場停止処分を受けたため、年俸2500万㌦(約26億円)の大部分が宙に浮いたのだ。これが田中の獲得資金の一部になったとみられている。

 このところ、メジャーリーグは好況だ。テレビ放映権料が高騰し、今期の分配金は1球団あたり年間5千万㌦(約52億円)。昨季までの2倍にはね上がった。ヤンキースのような富裕球団は、さらに潤沢な資金力を誇るようになった。

 そこへもってきて、新ポスティング・システムでは所属チームへの移籍金が上限2千万㌦(約21億円)に抑えられることになった。MLB関係者が「この条件じゃ出せないだろう。出したらバカだよ」と言うのも、うなずける。

田中将大の移籍に続き、日本はメジャーの草刈り場に?

 これまでの移籍金最高額はテキサス・レンジャーズがダルビッシュ有を獲得するために北海道日本ハムに支払った約5170万㌦(当時のレートで約40億円)、続いてボストン・レッドソックスが松坂大輔を獲得するために西武に支払った約5111万㌦(同約60億円)だ。

 2人と比べた場合、日本のレジェンド・エースの値段は、あまりにも低い。あてが外れたのは楽天である。田中は海外FA権を取得するまでに、最低でもあと2年かかる。FA権を行使して移籍した場合、楽天には1円も入ってこない。これでは〝獲られ損〟だ。FA権取得まで、あと1年と迫った今シーズンオフのポスティング移籍--落としどころとしては、これが最適のように思われたが、楽天はこの手を使わなかった。

 先の球団幹部が語る。

 「昨年の段階で、新制度の(移籍金の)上限が20億円と分かっていたら、本人をメジャーリーグに行かせることはなかったと思います。残念なのはポスティング・システムが失効して1年以上たっていたのに、その間、NPBがMLBとの間で有効な議論ができなかったこと。

 正直な話、新制度は実質的なFA制度で、球団にとっては、ほとんどメリットがなかった。ウチは最後まで抵抗しましたが、他球団は〝もう時間がないから認めよう〟の一点張り。〝(試合で勝てないものだから)そこまでして田中を(米国に)やりたいのか……〟と邪推してしまったほどです」

 新制度は3年限定の〝時限立法〟だが、NPB側から改善を求めるような動きは今のところ見られない。

 今のままではNPBは拡張を続けるMLBの草刈り場になってしまう危険性がある。MLBとのトレードやレンタル移籍など、ゼロサムではなく、ウィンウィンの関係を構築できるような方策を提案すべきだろう。とはいえ、日本球界に米国が恐れるような腕利きのネゴシエーターは見当たらない。

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