国際

〝高給取り〟がシリコンバレーの家賃相場を高騰させる

サンフランシスコ市内で社員をひろうグーグルの通勤バス(撮影:津山恵子)

サンフランシスコ市内で社員をひろうグーグルの通勤バス(撮影:津山恵子)

 スイス・ダボスで開かれた世界経済フォーラムのダボス会議には、日本の安倍晋三首相をはじめとした国家元首と、世界的企業のトップなど政財界のエリートが集合した。その開会にあたり、ローマカトリック教会のフランシスコ法王からの書簡が読み上げられ、その内容が話題を呼んだ。

 「(参加者らは)イノベーティブな存在たる才能を示し、創意工夫と専門知識によって多くの人々の生活を向上させる能力を示してきた者は、そのスキルを今も極貧に暮らす人々のために生かすことでさらに貢献ができる」

 つまり、政財界エリートは、その能力を生かし、世界の貧困をなくすことに努力すべきだと訴えたのである。

 法王の書簡が指摘したように、世界的に経済が緩やかな回復に向かう一方で、その影に潜む「不平等」や「貧困」の問題に関心が集まりそうだ。

 米経済の牽引役となるハイテク企業が集中するカリフォルニア州のシリコンバレーでは、年末から、それを象徴するデモが起きている。批判の対象となっているのは「グーグルバス」や「フェイスブックバス」という、現在絶好調のハイテク企業が社員に提供している無料通勤バスだ。

 シリコンバレーの北端に位置するサンフランシスコは、都市機能が充実しているため、南部に本社があるグーグルやフェイスブックの若い社員が多く住み始めた。こうした社員のため、グーグルとフェイスブックは、無線インターネットがあり、ペットやバイクを載せられる通勤バスを朝晩に走らせ、通勤の便宜を図っている。

 しかし、一方で、高給取りのハイテク企業社員が住み始めた市内の家賃が高騰。中間階級や貧困層がサンフランシスコから追われる結果となった。

 英オブザーバー紙は、こう指摘する。

 「今や、サンフランシスコ市警の警官ですら市内に住めないし、魅力ある個人経営のレストランやブティックも、家賃が払えず消えていった」

 そこで、サンフランシスコ市内から本社まで高給取り社員が通勤することを可能にしたグーグルバスやフェイスブックバスが、攻撃の的になった。デモ参加者らは、バスの前に垂れ幕を掲げ、ビラを配ったりする活動を約2カ月続けている。

 中には、車両のガラスが割られたケースもある。また、あるグーグルのエンジニアが「(個人のプライバシーを侵害する)監視システムを開発している」という内容のビラが近所に配られるという事態も起きた。

 サンフランシスコ市は、デモを展開する市民らの声に応じて、両社のバスが停車する際の運賃を徴収し、コミュニティーに還元するとしているが、根本的な問題の解決には至っていない。

マクドナルドでも賃金引き上げを求めるデモが頻発

 昨年後半は、ニューヨークをはじめ、全米各地のマクドナルドなどファストフードレストランで、最低賃金の引き上げを求めるデモが、幾度も開かれた。現在の連邦最低賃金である1時間7・25㌦では、世帯主が一家を支えることができないという主張が背景だ。

 また、ファストフード業界で働く従業員は、女性や移民など社会的弱者が多く、格差が広がりやすいことも問題視されている。

 一方、2008年にノーベル賞を受賞した経済学者のポール・クルーグマン氏によると、米国民の1%に当たる最富裕層に対する所得税率は、ブッシュ前大統領の時代から12年まで、1980年代と変わらない水準の30%前後で推移してきた。

 つまり、民主党選出のリベラル派大統領としてオバマ氏が就任し「格差」が縮小すると期待されて以来5年間、共和党政権時代と同じ「格差」が続いていたことになる。

 クルーグマン氏は、米ニューヨーク・タイムズ紙に寄せたコメントで、「オバマ大統領は、彼を支持してきた多くのリベラル派有権者に対して、1%の富裕層に対するよりも厳しい態度で接してきた」と、大統領を批判している。

 オバマ大統領は1月28日、今年の政策の柱を米国民に知らせる一般教書演説を行う。本コラムが掲載されるころには終わっているが、米メディアによると演説は、連邦最低賃金の引き上げ、失業保険給付措置の延長などを訴える。また、米経済の回復を確実なものにし、中間所得層と貧困層の所得を引き上げ、富裕層との格差是正を演説の中心にすえるという。

 一般教書演説は、テレビのゴールデンアワーに生中継され、米国民が家庭やレストランに集まって視聴するほど注目される。そこで、オバマ大統領が「格差是正」を力説することになると、「貧困問題」「不平等縮小」というのは当面のキーワードとなりそうだ。

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年3月号
[特集]
環境が経済を動かす

  • ・総論 災い転じて福となせるか 持続可能な社会の成長戦略
  • ・越智 仁(三菱ケミカルホールディングス社長)
  • ・100年後を考える 世界最大級の年金基金「GPIF」
  • ・金融業界はこう動く
  • ・脱炭素化の遅れがはらむ「座礁資産」の危険性
  • ・脱炭素化で移行する「地域循環共生圏」とはどういう社会なのか!?

[Special Interview]

 中田誠司(大和証券グループ本社社長)

 「SDGsを経営戦略の根幹に据えることで企業は成長する」

[NEWS REPORT]

◆稲盛哲学を学ぶ盛和塾解散を塾生たちはどう聞いたか

◆米中経済戦争の象徴となった「ファーウェイ」強さの秘密

◆EV時代にあえてガソリンエンジンにこだわるマツダのプライドと勝算

◆それは自由か幸福か——「信用スコア」で個人の信用が数値化された世界

[特集2]関西 飛躍への序章

 大阪万博開催で始まる関西経済の成長路線

ページ上部へ戻る