政治・経済

ネット社会の拡大で近年、消費者は多大な利便性を享受することとなった。しかし、一方で、新たな紛争の種をまく要因ともなっている。医薬品ネット販売の是非を検証する。(本誌/大和賢治)

 

医薬品ネット販売の完全自由化に待った

 

三木谷浩史・楽天社長の本心はいかに

三木谷浩史・楽天社長の本心はいかに

 一般用医薬品(OTC)ネット販売解禁をめぐる攻防戦が再燃している。昨年1月の最高裁判決で、厚生労働省によるOTCのネット販売を規制する省令が違法とされたことは周知のとおり。この判決をもって楽天子会社でもあるケンコーコムなどはもちろん、誰もがこの判決をもって全面解禁ととらえた。

 しかし、厚労省は安全を担保するには一定の規制は必要という主張を新たに展開、最終手段として政府を動かし対抗したのだ。その効果はてき面で、結果、医療用医薬品からOTCにスイッチされて間もない発毛剤「リアップX5」、解熱鎮痛剤「ロキソニンS」など23品目および、副作用リスクが高い「劇薬」5品目の計28品目について、スイッチ後3年間ネット販売を禁止する薬事法改正案が11月12日に閣議決定された。

 この決定の背後にちらつくのが薬剤師の業界団体である日本薬剤師会。

 「政府としても表向きは〝安全性の担保〟を謳いながら、裏では政治力の強い日本薬剤師会の意向を代弁する族議員の意向を全く無視できなかったのではないですか。基本的にネット販売を容認しながら一方でスイッチOTCを例外とし、最低限の薬剤師の既得権を守ったという姿勢を示した。落としどころとしては合格点と思ったはずです」(業界関係者)

 日本薬剤師会の会員の多くは〝パパ・ママ薬局〟と呼ばれる家族経営の薬局だ。ただでさえ、ここ近年は台頭してきたドラッグストアの前に苦戦を強いられてきただけに、ネット販売という新たな競合の出現に、危機感をさらに強めるのは当然のことである。

 さらには同会と協同歩調(呉越同舟?)をとってきたドラッグストアの業界団体である日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)も最高裁判決以降も、今回、示された新ルールに近い対応をしてきた。このことからも分かるとおり、族議員に影響力を行使した節も見られる。

 

医薬品ネット販売解禁に対する楽天・三木谷社長の主張

 

 しかし、これに噛みついたのが楽天の三木谷浩史社長。

 「最高裁で違憲判決が出たにもかかわらず、ゾンビのようにもう1度規制をかけることを許してはいけない」と、政府の見解が明らかになった直後に会見を開き怒りの心中をぶちまけた。

 そして薬事法改正案が閣議決定された11月12日には、子会社のケンコーコムが東京地裁に「地位確認請求」をする行政訴訟を起こしたのだ。

 本論とは多少ずれるが、ここで注目したいのが、政府の産業競争力会議の民間議員としての三木谷氏の立場だ。同会議は第2次安倍内閣の経済政策「アベノミクス」の第3の矢となる成長戦略の実現目的に設置された。成長戦略実現には、今なお拡大するネット社会への対応が重要課題の1つ。基本的には規制緩和が大前提となっているはずだが、今回の閣議決定は、明らかに三木谷氏の意に反するもの。

 同氏は、最初に田村憲久厚生労働大臣がガイドラインの骨子を発表した11月6日の会見でも、辞任の意向を示唆したことから〝怒りの辞任〟は既定路線と誰もが思った。しかし、驚いたことに三木谷氏は11月18日に辞任を撤回した。「医薬品ネット販売を規制する新ルールが規制緩和に逆行する」と怒りの会見から、たった十数日での心変わりだ。

 三木谷氏いわく「規制緩和を進める上で考え直す」ということだが政府に近い筋からは「当初から安倍首相も慰留するつもりはなかったですが、三木谷氏が辞めたくないと言うので、表向きは慰留した格好を取ったのです」という話が聞こえてきた。

 「三木谷氏は新経済連盟を立ち上げるなど、国に対するポリシーボード的な役割を担うことに、これ以上にない満足感を持っているのです。ここへ来ての変節は、民間議員への未練としか思えません」(国会関係者)と冷めた意見も聞こえてくる。

 三木谷氏の民間議員への執着などという話はどうでもいいが、重要なのは今回の薬事法改正案に盛り込まれた新ルールの是非である。厚労省の新ルールは矛盾と感じる向きが多いのは確か。さらには増加し続ける医療費抑制には健保負担を必要としないOTC販売の拡大は必須であり、同時にネットを含む販路の多角化も課題。

 ドラッグストア大手の某社長は、「今回の閣議決定には何ら異論はありません。しかし、個人的見解ではありますが、ネット販売解禁は世の中の流れであり、是非を問うているよりも、いかに安全性を担保していくのかに注力するべきだと思います」と述べるなど、JACDS内でも意見はさまざまだ。

 それら見解をトータル的に見れば完全自由化に舵を切るのが正解なのかもしれない。

 

医薬品ネット販売の新ルールは適正か?

 

 しかし、関係者への取材を続ける中で、次のような意見にも遭遇した。ある製薬会社社長は、「今後解禁されるであろうスイッチOTCの中には〝キレのいい〟リスクの高い医薬品が多数存在します。これら医薬品がネット上で無闇に販売されれば、薬害問題を誘発する危険性が高い。薬害が出てしまえば、当然、それまでのOTC化の流れはストップすることになる。医療費抑制の柱のひとつは薬剤費の軽減であるはず。三木谷氏の主張は専門的な見地からも賛成はできない。医薬品を知らないから言えることです」と政府の新ルールは妥当であるというのだ。

 〝無闇〟という言葉は不適切とネット販売業者は怒るだろうが、実際、今回、原告となったケンコーコムのサイトを見れば販売規制の対象となった「リアップX」「ロキソニンS」等も簡単なアンケートを一読する形で容易に購入できる。

 薬品に関する質問等があればメール、フリーダイヤルで薬剤師が対応するシステムになっているが、購入は事実上自己責任だ。前述、製薬会社社長の見解もあながち否定できない。

 三木谷氏にしても振り上げたこぶしを簡単には下ろせないだろうが、さらなる安全性の担保策を打ち出すことが急務ではないか。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年7・8月合併号
[特集] 世界で売れるか!? 日本カルチャー
  • ・拡大のカギは「点」の活動を「面」にしていくこと
  • ・技術はあくまで手段。感動を生み出すことが市場を拓いていく 迫本淳一(松竹社長)
  • ・世界最大の中国市場 攻略のカギはどこにある!?
  • ・41カ所の海外店舗で和菓子の心を世界に 岡田憲明(源吉兆庵ホールディングス社長)
  • ・プロが認める商品として日本茶ブランドを構築 丸山慶太(丸山海苔店社長)
  • ・機能性とファッション性で再発見される地下足袋の魅力
  • ・日本を発信するビームス ジャパン 常設ショップ視野に海外でも販売
  • ・盆栽輸出量は16年で20倍 今や「BONSAI」は共通語
[Special Interview]

 大崎洋(吉本興業ホールディングス会長)

 数字じゃない存在意義が、より問われてくる

[NEWS REPORT]

◆アビガンで注目集める富士フイルム・医薬品事業の実力

◆100周年を襲ったコロナ禍 マツダは危機を乗り越えられるか

◆住宅から高級家具まで「ダボハゼ」ヤマダ電機の明日

◆抽選倍率100倍の超人気 シャープがマスク製造する真意

[特別企画]

 危機を乗り越える

◆緊急事態宣言で導入企業が激増 ビジネスチャットが変える働き方

◆在宅ワークの効率を上げる方法とストレスマネジメント

◆輸入依存の中国経済にコロナ禍がとどめの一撃 石 平(作家、中国問題評論家)

ページ上部へ戻る